第17話 交わらない記憶


朝早くから、「一人で着替えもできないの?」と嫌そうにするノキアをなだめて、呼び出されたジークヴァルト様の部屋に来ていた。


「ジークヴァルト様……いつから?」

「昨夜だ。リリアーネを呼ぼうかと思ったが、ここなら緊急で呼び出されることはないだろうと思って、朝までリリアーネに会うのを我慢したのだが……」

「私に会いたかったのか、呪いを何とかしてほしいのか、わかりません」


骸骨姿になっているジークヴァルト様。彼の姿を何とかしようと手を伸ばすと、ジークヴァルト様が私の手を掴んだ。


「……手は触れなくても大丈夫です」

「そうなのか?」

「知ってますよね」

「このままは嫌?」


嫌と言われても照れるのです。

恥ずかしい気持ちを抑えて魔法を出すと、淡い光がジークヴァルト様を包む。


「……リリアーネ。俺を見て何か思い出さない?」

「何か……ですか? ……そう言えば、あの雷雨の夜は、もっと紳士的だったような……」

「今は?」

「ちょっとよくわかりません」


そう言えば、少しだけ雰囲気が違うような……でもあの夜と同じ優しい声音で……顔も同じ骸骨様だ。


「まさか、別人? でも、そんな風には……」


呪いが解けた姿を夜会に招待されるまで知らなかったから、確信はないけど……


「別人に見える?」

「……見えませんけど、ジークヴァルト様が変なことを言うから……違う人なんですか?」

「どうかな。俺を思い出してくれたら、わかると思うが?」


なんだろうか。その怪しげな雰囲気は。

すると、ジークヴァルト様が掴んでいる手を引き寄せてそっとキスをすると、羞恥でいっぱいになる。そんな私を挑発するように彼が私の指を齧った。


「……ジ、ジークヴァルト様!?」

「早く思い出して、リリアーネ」

「お、思い出します……!」


凄く照れる。恥ずかしい。胸を押さえて必死で動悸を鎮めようとする。ジークヴァルト様は、離してくれないままだ。今はどんな表情なのだろうか。骸骨姿だから、いまいち感情が読めない。怪しい雰囲気は感じるのだけど。


「と、とりあえず、ちょっと思い出してきます!!」

「逃げては困るな。このままでは帰れない。ちゃんと人型にしてくれないと」

「そ、そうですよね。でも……もしかして、楽しんでます?」

「リリアーネが可愛いから」

「変なこと言わないでください」


男性に慣れてないのですよ。困ったなぁと思いながら魔法をかけ続けるが、なかなか元に戻らない。


早くこの場を離れたいのに。なんだろう。逃げたい気持ちがひしひしと湧いてくる。


「戻らないな」

「どうしてでしょうか……やっぱり、私の能力が低いからでしょうか?」

「リリアーネの能力は低くない」


確信ありげにジークヴァルト様が言う。

すると、私を引き寄せてくる。バランスを崩した私は彼の骸骨の胸に倒れた。


「ジークヴァルト様?」

「多分。戻らない理由は、これだ。あの夜は二人で眠ったはずだぞ」

「そうですけど……」


ジークヴァルト様の腕に包まれて、あの夜を思い出す。そっと瞼を閉じた。彼に一晩中抱かれて眠っていた。でも、朝にも、骸骨姿のままだったはずだ。


__しばらく、ジークヴァルト様の腕に包まれていた。恥ずかしながらも、あの夜は妾に行くのが嫌だった私を癒してくれたのだと思い出す。妾を取ることを周りにバレたくないのか、名前も名乗らない男に買われるのが不愉快だった。でも、逃げ道もなくなっていた。

何とかしようと働けば働くほど、裏では私を妾として身請けする話が知らずに進んでいた。教会の責任者は、私が忙しくしているのが都合良かっただろう……バカな私は、そんな思惑にも気づかずに、必死でお金を得るために毎日仕事に励んでいた。


「リリアーネ。どうした?」

「なんでもないです」


瞼を開けば、少しずつジークヴァルト様のお姿が、骸骨姿から人の姿に見えてくる。


「ジークヴァルト様……お姿が……」

「やはりな……少しずつ呪いは解けているのだろうが……」

「どういうことですか?」

「そうだな。リリアーネが思い出してくれたら、いろいろ話がしやすいのだが……俺と寝る?」


その瞬間、ジークヴァルト様のお腹に私の拳がヒットした。



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