第11話 家族の絆とは 4
「うちの子になんてことをしてくれるの!」
「子供の喧嘩だと許していたのに、うちの息子たちにこんな怪我をさせるなんて!!」
「グラッドストン伯爵の孫だと言うから我慢していたけど、もう許せないわ!」
「魔法が使えるなんて聞いてなかった! いくら子供でも、魔法で我が息子を傷つけるなど、言語道断だ!!」
魔法? ノキアが?
驚いた。驚いたけど、今はすぐにノキアに魔法が使えるの? とは確認に行けない。
お義母様の様子も気になるからだ。
ノキアと喧嘩した子供たちの親が集団でやって来ている。どうせなら、一人づつ来てくれればいいものを……怪我をさせられた子供たちは、母親にしがみついて今にも泣きそうだ。
親を引き連れて、勝ち誇っている顔の子供もいる。
ノキアに負けたくせに、親を使ってでもノキアに謝らせたいのだろうか。
でも、確かに先に手を出すのは、いつもノキアだとグラッドストン伯爵様が言っていた。
お義母様は、怯むことなく、堂々と親子の集団の群れに立った。
「失礼します。私がノキアの母のエイプリルです」
「存じていますわ! エイプリル様! 何度も何度も怪我をさせられて……いったい、どのような教育をなさっているのです!」
これでも見ろ、というように怪我をした子供を前に突き出して見せつける同級生の親。でも、お義母様は怯まない。
「ノキアが、いじめられて手を出したことは伺っておりますわ。そのいじめっ子たちを拳で黙らせたことも存じております。でも、親として謝るのはノキアが手を出して怪我をさせたことだけですわ。私は、ノキアをいじめられる理由はないと確信しておりますもの。悪いのは、そちらのお子様たちです!」
「何ですってぇ!」
「こんなに酷い怪我をさせて、我々に非を押し付けるのか!」
ふんと胸を張って言うお義母様に、やって来た親たちは噴火したように怒ってしまった。
「うち子たちは、優しい子です! 今までノキア・シルビスティアが来るまでは、こんな問題はありませんでしたわ!」
「格下の没落男爵風情が、何を言う!」
「格下でしょうが、ノキアは問題児ではありません。そちらが何を言っても通じないのが問題なのですわ」
「無礼にも程がある! 伯爵をだせ! グラッドストン伯爵の庇護の下で暮らしているくせに!」
カッと怒る親たちを見て、堂々としていたお義母様が私に耳打ちをしてくる。
「リリアーネちゃん。ずばりと言われてしまったわ。お父様の庇護で暮らしているのは、事実だから言い返せないわ。どうしましょう」
「お義母様、火に油は注がない方がいいと思いますけど……お義母様は、間違っていないと思います」
お義母様は、貧乏は悪くないと言ってくださった。そんなお義母様を否定できない。貧乏だから、何を言われても我慢しましょうなどと言えない。私は、お義母様もノキアも否定したくない。それに、貧乏だからと言ってノキアがいじめられていい理由にはならない。
「大体、そちらの女は誰だ! 大事な話に他人を同席させるなど、常識を疑う」
「突然やって来たのはそちらですし、私は他人ではありません。ノキアの姉のリリアーネ・シルビスティアです」
「そうですわ。私にそっくりで、見ただけでおわかりでしょう? 変なことを言わないでください。それに、リリアーネちゃんを恫喝するなんて……お控えください。可愛いこの子が怯えてしまいますわ」
いや、怯えてはいません。それに、私の生みの親は前妻だから、お義母様とは血のつながりはありません。似ているわけはないのです。
わなわなと震える拳をギュッと握りしめた。腹立たしい気持ちで、むしろノキアが拳で黙らせた気持ちがわかる気がしてきている。
「ちょうどいい。ノキアの姉は聖女だと聞いた。すぐに子供たちを治してもらおう」
「お断りです。ノキアに意地悪をしたのは、そちらだと聞いております。なら、やられた時のこともお考えでしょう? 怪我は自業自得なのではないですか? ノキアが手を出したと言っても、大勢の寄ってたかってかかって来たのですよね? 反対に、ノキアがやらなければ、あの子は大勢にからかわれて、暴行されていたかもしれないのですよ? ノキアたった一人に、これほど怪我をさせられて悔しいのでしょうけど……」
これくらいの怪我なら、ノキアを癒したようにすぐに治せる。聖女の力が弱いと言っても癒しの魔法ぐらいは使える。でも、素直に治せない。
ノキアは、私のせいで意地を張ってまで行った学校なのだ。今ここで、何も言わずに治せば、ノキアはどう思うだろうか。
慈悲のある聖女に思えるかもしれない。聖女としてはそれが正解なのだろう。理由など関係なく癒すべきなのだ。でも、それはノキアの姉として思われるわけじゃない。ノキアの気持ちを踏みにじれない。
「あ、暴れるのは、いつもノキアだ! あいつが乱暴者で、突然殴りかかって来るんだ!」
「そうだ! 被害者は僕たちだ!」
「僕たちは、何もしてない!」
子供たちが一斉に叫び始めた。親が後ろにいるからずいぶんと強気だ。子供たちの世界の中でも、傲慢さが窺える。
すると、お義母様がそっと子供たちに手を伸ばした。
「まぁ、忘れんぼうさんなのかしら? ダメよ。こんなに若いのに記憶に残ってないなんて。困った子たちですわね。ノキアのようにしっかりとしないと将来が心配ですわ」
憐れんだように子供たちの頭を撫でるお義母様にギョッとした。驚く。こんな状況でそんなセリフが出てくるとは……。張りつめた空気の中で、一人だけ空気が違う。
今も、子供たちに「めっ!」と指を立てている。
「な、なんて失礼なんだ!」
「でも、ノキアにしたことをキレイに忘れているみたいですわ」
お義母様が、いつもの調子で言う。彼女に動揺はない。
「リリアーネちゃん。困ったちゃんばかりですわ。記憶を戻す魔法はあるのかしら?」
「記憶を戻すのとは、少し違うかと……」
お義母様が、ひそひそと手で口元を隠して耳元で言う。お義母様も困った方に見えてきた。
「エ、エイプリル様は、昔からそうですわね! 本当っに空気が読めなくて……!」
「まぁ! そんなことありませんわ」
ぷんぷんとするお義母様に、「ご友人ですか?」と聞くけど、「知らないわ」と言う。ということは、社交界で見た程度なのだろうけど、社交界でもこの調子だったのだろうか。今も、動揺はなく少女のように怒っている。
「いったい、何の騒ぎだ」
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