第10話 家族の絆とは 3


「ノキア。いつまでも落ち込んでいてはダメよ。リリアーネちゃんに迷惑をかけないの」

「母様は、平気なの?」

「だって、リリアーネちゃんは可愛いんですもの。大事な娘なのよ。だから、幸せになって欲しいの」

「でも……」

「ノキアは、まず湯浴みをしてらっしゃい。そんな姿でいたら、リリアーネちゃんも困ってしまうわ。その間にリリアーネちゃんは、私とお茶の準備をしましょう。三人で、お庭でお茶をするの」


お義母様が頭をなでると、ノキアが潤んだ目尻をキュッと拭いた。


「ノキア。部屋まで一緒に行くわ」

「大丈夫だよ。だから、絶対に帰らないで」

「大丈夫よ。今夜は、一緒に寝ましょうね」


そう言って、確認してくる不安気なノキアの手を握る。気が強くても、まだ子供のノキアには結婚がよくわからないのだろう。 

借金のことを言えば、ノキアはもっと怒るかもしれない。


そんなノキアを宥めるお義母様は凄い。天真爛漫な方でも、ちゃんとノキアのことがわかっている。尊敬するが、お義母様はすでに満面の笑みになっていた。


「今夜は、リリアーネちゃんの好きなものを作ってもらうわ。すぐにメニューを変えないと!」

「お義母様、そんなことをしてもらうわけには……」

「だって、せっかくリリアーネちゃんが泊まってくれるんだもの。あとで、お相手のことも教えてね。さぁ、お茶の準備よ! ノキア、急いでね!」


お義母様は、今にもスキップしそうな様子で、私たちを連れて書斎を出ていった。そして、庭でお茶の準備を始めた。



「お義母様。ご迷惑ばかりかけてすみません」

「一度もリリアーネちゃんに迷惑をかけられたことなんかないわよ?」

「でも、ノキアがいじめられていたなんて……」

「あの子は、気が強くてね……最初はからかわれても無視するのに、しつこいと我慢できなくなるみたいなの。まだまだ子供ね」

「でも、貧乏男爵だと言われるのは、シルビスティア男爵家のせいです」

「……リリアーネちゃん。貧乏はそんなに悪いことなのかしら? 確かに、お金は必要だけど、いじめられる理由にはならないわね。私は、お金が無くなってもローガン様が大好きだったし……」


ローガンとは、お父様のことだ。若いお義母様と再婚をすると言った時は驚いた。上手くやっていけるのかと、思うこともあったけど……朗らかなお義母様のおかげで、シルビスティア男爵邸はあっという間に明るくなっていった。そして、年の離れた弟のノキアは生まれた。


可愛くて、毎日のように抱っこした。あの時が、私たちシルビスティア男爵家には幸せだったのだろう。でも、お義母様は貧乏になっても嘆くことはなかった。


その時に馬車が三台ほどやって来た。


「お義母様。お客様ですか?」

「さぁ? お父様にお客様が来る用事でもあったかしら?」


やって来た馬車が玄関前で停まると、中からは子供を引き連れた大人が出てくる。


「お義母様……もしかして、あれはノキアの同級生では?」

「そうかもしれないわね……ちょっと行ってくるわ!」


嫌な予感がした。三台の馬車それぞれから降りて来た子供たちは、みんなが包帯でグルグルにまかれている。明らかに怪我はノキアよりも酷いものだった。その嫌な予感通り、やって来た大人たちが、出迎えた執事に詰め寄っている。


「お義母様、大丈夫でしょうか? お義母様!?」

「負けないんだから! リリアーネちゃんは、待っててね!」

「ちょ、ちょっと待ってください!!」


元気に力こぶを作り、腕を上げるお義母様。か弱いお義母様には、まったく力こぶはないけど、息込んで行ってしまった。




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