第5話 呪われた骸骨公爵様とクビになった聖女 5
「結婚を申し込むはずだったが……」
「求婚をしようとしている時に、ラッセル殿下が来られたのですよ」
「それは、すまない。失礼をした」
自国の殿下から、ジークヴァルト様への結婚を言い渡されるとは思わなかった。それに、聖女をクビになったのは、聖女の力が弱いせいだけではない。私を妾としてもらい受けるために、どこかの貴族が手を回したのだ。借金を聖女の給金で必死で返していたから……仕事を増やして、聖女の手当を増やしていたせいで、いつまでも私が首を縦に振らなかったばかりに……
「だが、聖女を解雇になっているのは都合がいい。リリアーネを連れて帰りやすいからな。馬鹿な教会だ」
ジークヴァルト様が、悪そうな笑顔で言う。何だか、怖い。
「あの……でも、私には、借金がありまして……」
「借金のことも知っている。リリアーネのことは調べさせてもらったと言っただろう? シルビスティア男爵家は多額の借金を抱え、それを君が返済していたと……」
「はい。ですから、ジークヴァルト様にご迷惑がかかります。それに、私がいなくなったら、お義母様や弟のノキアのところに借金取りが行っては困ります。だから、私はこの国から離れられません」
「借金のことは気にしなくていい。すべて俺が返済した」
「……は? 返済?」
「そうだ。先日すべて終わらせた」
「い、い、いつですか!?」
「だから、先日だ。借金の返済をダシに、聖女をやめさせられたのだろう。表向きは聖女の力が弱いせいにしていたようだが……ずいぶんと手を回したようだな。人のモノに手を出せばどうなるか、しかと教えてやった」
いや、手を回したのは、どこかの貴族様もそうだけど、ジークヴァルト様もだ。私の知らないうちに、話が進んでいる。恐ろしい行動力だ。
「何をしてもリリアーネが欲しい。わかってくれるか?」
「そ、そんな気がしてきました」
熱っぽい視線が突き刺さる。でも、ここまでジークヴァルト様が私を好きになる理由がわからなくて戸惑う。借金がいつの間にかキレイになっていたことにも戸惑う。
「リリアーネ嬢。これは我が国にとっても、フェアフィクス王国にとっても理になることなのだ」
ジークヴァルト様に返事のできない私に、ラッセル殿下が真剣な眼差しで言う。
「フェアフィクス王国とは、同盟を築いた。そのおかげで、争いが終わったことは知っているだろう。その証として、私はフェアフィクス王国の王族に連なるフォルカス公爵家の一人娘を娶った。そして、息子を授かった。その子供が、我がアルディノウス王国の次期王太子殿下だ。だから、フェアフィクス王国も、アルディノウス王国からの貴族を娶ってもらいたい。フェアフィクス王国の王太子殿下は、すでに結婚しているから、次の王位継承者であるジークヴァルト様には、アルディノウス王国の貴族を差し出す予定だったのだ」
「で、でしたら、公爵令嬢が適任です! 私は、領地も持たないお金で買った男爵家の令嬢なのです!」
「だが、聖女はリリアーネ嬢だけだ。高位の令嬢たちに、ジークヴァルト様を解呪できる聖女はいない。何よりも、ジークヴァルト様はリリアーネ嬢がお気に入りだ。君ほどの適任者はいない」
突然の国同士の取り決めに混乱する。私が、同盟に関わる結婚をするなんて考えたこともなかった。
「リリアーネ嬢。深く考えないで欲しい。せめて、ジークヴァルト様の呪いを解けることに尽力してくれないか? 彼は、私の息子を庇ってこのような姿になったんだ。息子の父親としても、王太子殿下としても、次期王太子殿下を庇ってくれた恩人に何もしないわけにはいかない。そして、助けられるのは、リリアーネ嬢だけだ」
ラッセル殿下が、私に頭を下げて懇願してくる。王太子殿下として、アルディノウス王国の次期王太子殿下を庇って呪われたのなら、アルディノウス王国が何もしないわけにはいかないのはわかる。
それに、ジークヴァルト様が王太子殿下の息子を庇ったのも、本当だと思う。彼は、あの雷雨の中、少しでも濡れないように子供を大事に抱えてシルビスティア男爵邸に雨宿りを頼んできたのだ。
「リリアーネ嬢。今夜、特別にリリアーネ嬢のためにデビュタントをしたな」
「はい。陛下から、ティアラを授かりまして……」
「理由があったと思わないか?」
「ええーっと……」
ちらりとジークヴァルト様を見る。骸骨姿で表情は全く分からないけど、先ほどから私のそばを離れない。
「理由は、デビュタントもしてない令嬢を、フェアフィクス王国に送れないからだ。ジークヴァルト様は、王位継承権のある公爵だ。その彼の願いでもあった。君に、ティアラを贈りたいのだと……」
それって、逃げられないようにでは。ここまでするのだから結婚の拒否はできないのではないだろうか。
知らない間に、周りを固められている気がしてきた。
「聖女としての給金も出そう。呪いを解くためには、聖女の力は不可欠だ」
「お給金も?」
「ああ、それほど君には価値がある」
ラッセル殿下が言う。
視線を感じると、ジークヴァルト様が私を見つめている。骸骨姿だから、瞳孔どころか眼球が見当たらないからよくわからないけど、ジッと私を見ている。
「リリアーネ。結婚してくれるか?」
「……あの夜で、結婚を決めたのですか?」
「そういうわけではないが……あの夜はきっかけだ」
「きっかけ?」
「すぐに思い出す……だから、来てくれるな?」
妾になるよりは、結婚のほうがずっといい。誰もがそう思うけど……王太子殿下にまで勧められた結婚を誰が断れるのだろうか。しかも、ここまでされて……
「リリアーネ」
ジークヴァルト様が、私の前に跪いて優しく名前を呼んだ。
「ジークヴァルト様……その……私で良ければ、どうかよろしくお願いします」
「ああ、大事にする」
粛々と頭を下げた私に、ジークヴァルト様が骸骨姿で抱き着いて来た。少しだけ懐かしい。あの雷雨の夜も、私をこの姿で抱き締めてくれていた。
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