第4話 呪われた骸骨公爵様とクビになった聖女 4



「骸骨様、ありがとうございました。こんなに素敵なドレスに、ティアラまで……」

「気に入ってくれたか?」

「でも、何とお礼をすれば……」

「そうだな……」


骸骨様のエスコートで、ティアラを授かった。シルバーに骸骨様と同じ蒼い宝石があしらわれているティアラ。そして、彼とファーストダンスをした。


その後は、骸骨様が話があるからと言って、彼の控え室へと連れて来られていた。


「骸骨様、お話とは……」

「名前で呼んでくれないか?」

「ジークヴァルト様ですか……そう、お呼びしても?」

「もちろんだ。ジークと呼んでほしいぐらいなのだが……」

「そ、それはちょっと……」


男爵令嬢で、しかも没落寸前。デビュタントも出来なかった令嬢が、明らかにこんな高位貴族を愛称で呼べない。畏れ多いのですよ。


「まぁ、それはいずれでもいいが……リリアーネにお願いがあるんだ」

「はい。何でしょうか?」

「実は、リリアーネを俺の国に連れて帰りたい」

「えっと……?」

「国に一緒に帰って欲しい、と言ったのだが……名前は、先ほど名乗ったと思うが、俺はジークヴァルト・フォルカスだ。隣国フェアフィクス王国のフォルカス公爵家の当主だ。そこに、リリアーネを一緒に連れて帰りたい」


予想したこともないことを言われて困惑する。即答ができない。

それに、私が隣国に言ってしまえば、借金はどうなるのだろうか。お義母様と弟は?


二人のところに借金とりが行けば、グラッドストン伯爵様に迷惑がかかる。

ただでさえ、我が家では貴族の生活ができないどころか、弟ノキアの学校のことも考えて、二人はお義母様の実家であるグラッドストン伯爵様を頼って身を寄せているのに……。


即答できずに顔が曇ってしまう。ジークヴァルト様は心配気に腰を下した。


「どうした? リリアーネ? 一緒には、来てくれないのか?

「急に言われても……」

「何か困りごとがあれば、何でも解決する。どうしてもリリアーネが必要なのだ」

「私が……?」


ジークヴァルト様がそっと手を握ってくる。薄暗い部屋で、月明かりが差してくる。返事がすぐにできずに彼の手を見ていると、光が瞬くように手が骨ばってきた。

顔を上げれば、ジークヴァルト様のお顔があの骸骨様の顔になっていた。


「呪いが……」

「完全には、解けてないんだ……」

「それで、私に? それなら、すぐに魔法を使います」

「それだけでは……」


その時に、ジークヴァルト様の言葉は遮られて部屋のノック音がした。


「ジークヴァルト様。入ってもいいだろうか?」


威厳のある声音に、繋がれた手のままで扉を見た。ジークヴァルト様は、「まだ、話しが終わってないというのに……」と憎々しく呟いて立ち上がった。


扉を開けると、そこには夜会で陛下に挨拶をした時に一緒にいた殿下だった。

殿下と目が合うと、にこりと笑顔を見せらる。


「入ってもかまわないか?」

「……もう少し待っていただいて欲しかったのですけど……」


ジークヴァルト様が、仕方ないと言う風に招き入れる。やって来るなり、殿下が私の前で一礼した。


「リリアーネ嬢。私はラッセル・アルディノウスと申します。夜会でのデビューは、とても素敵でした」

「は、はい!」


慌てて立ち上がる。殿下に声をかけられるなんて驚いた。


「ラッセル殿下。こちらが俺を救ってくれたリリアーネ・シルビスティアです」


ジークヴァルト様が私を紹介する。それは、私が殿下に膝を折って挨拶するタイミングだ。そう思い出して、ドレスのスカートを軽く持ち上げて膝を折って挨拶をした。

ラッセル殿下は、挨拶に満足したのかよくわからないが、満足げに顎をさすっていた。


「それにしても……やはり、まだ呪いが……」

「ええ、今しがたこのような姿に……」


ジークヴァルト様とラッセル殿下が顔を見合わせて話していると、くるりとラッセル殿下は私の方を見た。


「リリアーネ嬢。ジークヴァルト様の呪いを君がここまで解いたと聞いた。どうか、彼に聖女の力を貸してやってくれないか? 彼のこのような姿は、ほとんどの者は知らない。だから、誰にでも頼めることではないんだ」


確かに、呪いが解けてないから、また骸骨様の姿になっているのだろう。


「もしかして、あれからずっとですか?」

「とても不安定だ。いつ骸骨の姿になるかわからない。俺は気にしてないが……」

「ジークヴァルト様が気にしなくても、我々も周りも困るのですよ。息子も気にしているのです」


骸骨姿で、顎の手を当てているジークヴァルト様の発言に、ラッセル殿下が呆れたように言う。


「そういうことだ。おかげで、ずっと国にも帰れなくてだな……だが、そろそろ帰らねばならん。どうか、リリアーネの力を貸してほしい」

「私の、ですか……あの、フェアフィクス王国の聖女様では、ダメなのですか?」

「……他の聖女に頼む気はない。それに、聖女自体が珍しい存在であるし、他の聖女では無理だ」

「何よりも、私の息子の呪いを解いてくれたのも、リリアーネ嬢だと聞いている。君にしか頼めないんだ。君なら、必ず解けるはずだ」

「でも……私は、聖女をクビに……解雇されているんです」

「解雇されているのは知っている……聖女の力が弱いからだとは聞いたが……」

「聞きましたか……」

「君には、ジークヴァルト様に嫁いで欲しいから、悪いがこちらで勝手に調べさせてもらった」

「と、嫁ぐ!?」


突然の話に驚いて上ずった声で骸骨様を見た。







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