第7話 先へ

目が覚めると、知らない部屋の天井だった

「んん……」

目が覚めたハルは辺りを見回す、周りには綺麗な医療器具が置かれている、しっかりと使用済みのメスと新品のメスで分けられているのがわかる、自分の体には包帯が巻かれていて、まだ少し痛むがちゃんとした治療を受けたことだけは理解出来た。

窓の外では街の復興作業が進んでいる、魔法使い達が瓦礫を浮かせ、修復魔法をかけていく、瓦礫を人力で運ぶ人達もいた。

(ショウは別の部屋か?)

そう思いながら急いで廊下に出て、隣の部屋のドアを開ける、そこにはベッドの上に上半身を起こし本を読むショウの姿があった

「ショウ!」

急いでショウを抱きしめる、よかった、ちゃんと2人で生き残ったのだ

「ハル!良かった…」

「体の方は大丈夫か?」

「僕の方は魔法の酷使で疲れただけだから ちゃんと寝たから治ったよ!」

そう言いながらショウは元気よくポーズを取る、その姿にハルは安心する

「ハルの方こそ大丈夫?まだ動かない方がいいと思うけど…」

「ん 俺は大丈夫だ 切り傷とか刺されたところはちゃんと縫われてるし ちょっと痛むぐらいだな」

「魔法を使った回復技術はすごいからね この街にもちゃんと魔法医師がいて良かった」

「あなたの傷を治療したのは私ですけどね」

そう言いながら部屋に入ってきたのは、昨日助けてくれた魔法使いだ

「ステラさん!やはり来てくれたんですね!」

「ええ あなたの鳥はちゃんと私の部屋の窓を叩きましたよ」

目の前のステラという名の美女はショウとやりとりをする、どうやら2人は顔見知りのようだ

「助けて頂いて ありがとうございます」

ハルは照れながら頭を下げる

「いえいえ 感謝は君の親友にしてあげてください」

ハルは疑問になっていたことを聞く

「で ショウとはどういった関係なのでしょうか?」

ハルの顔はいつになく真剣だった。

ショウは説明しようとするが、先にステラが答えてしまった

「ん〜そうですね 大人の関係でしょうか?」

思わぬ返答に2人は驚く、ハルは取り乱しながらショウに怒鳴りつける

「おい!彼女が出来てたなら俺に教えてくれてもいいだろ!」

「違う 違うってばハル!」

「ふふふ」

「何笑ってるんですかステラさん!」

肩を揺さぶられながら、ショウは怒った

「ハルさん 嘘ですよ」

肩を揺さぶる手が止まる

「なんだ 嘘かぁ…」

そう言いながら安心しながらハルは部屋の椅子に座り込んだ

「からかってみただけです」

「冗談きついぜ…」

「全くですよ ステラさん」

そう言いながら2人は冷静になる、その様子を見てステラは笑う

「私は彼が受けた1級魔法使い試験の試験官です」

それを聞いてハルは椅子から立ち上がり頭を下げながら

「そうですか! うちのハルを1級にして頂きありがとうございます!」

「1級にしたのは私ではないですけどね…」

「僕は君の子供になった覚えはないよ」

ハルは下げた頭を上げる

「1級魔法使いの同僚として 彼から応援の手紙を頂いたんです それでこの町に来たらあなた達の周りにワイバーンが」

ハルは装備を整えた後にショウが鳥を飛ばしていたのを思い出した

「だからあん時鳥を飛ばしてたのか」

「ちゃんと届いて本当によかった 本当にありがとうございますステラさん」

ショウは涙を流しながら感謝を告げる

「いえいえ ではそろそろ私は街の修復の手伝いをしなければいけないのでこれで」

そう言いながら彼女は部屋を出ていった

「またショウに助けられたな」

「ハルがワイバーンを倒してくれたから助かったんだよ」

「あん時ショウが…」

ハルは、思ってしまった事を口にしなかった、ショウいなかった時のことを考えないようにしようと思っていたからだ、ショウがいなかったらそもそも旅に出ていたかも怪しい

「いや なんでもない」

「なんだよ 気になるなぁ」

「ありがとな」

「うん こちらこそ」

そう言いながら、2人は色々な話をした



夕方にもなると町の修復はほとんど終わっており町の人も帰ってきていた、割れた地面など気になる部分は残っているものの、人々が過ごす分には問題なかった。

2人は旅人という扱いなので、冒険者協会からの報酬は出なかったが町長から報酬を頂いた、彼らがいなければ被害がもっと広がっていた可能性があったからという理由あっての報酬だそうだ。

2人はその報酬金を少し使い酒場で美味しい食べ物と酒を頂いてから次の日に町を出て行こうという予定にした。

酒場に入ると、見覚えのある顔がいた

顔を赤くしながら前の男に話しかけ続けるステラとそれを軽くあしらいながら淡々と酒を飲み続ける男がいた

「だーからー あなたがもっと早く王国を出れてればですね」

「もうその話はいいだろ 俺だって治せるならとっくに治してる」

「そうだ! もういっその事貴方に道を間違えたら雷が落ちるようにしましょうか?」

「それはもうやっただろ」

どうやらステラは酔っているようだった、呂律は回っている方だが少しゆらゆらしながら話をしている、それに対し男はテーブルの上の樽を見る限り飲んではいるのだろうがさほど酔ってはいない様子だった

「あのー」

「あぁ 君たちか」

「朝はどうもありがとうございます あなたも魔法使いの方ですよね?」

「そうだ ステラと共にこの町の応援に来たウィルだ」

そう言いながらウィルが酒を飲むと

「あぁ!2人とも〜!」

と言いながらステラは2人に抱きつく

その状況にウィルは思わず酒を吹き出す、ショウは顔を赤くしながら驚く、香水のいい香りだ、酒に酔っている人とは思えない香りだ

「ちょっと!ステラさん!」

隣ではハルが固まっている、どうやら抱きつかれて思考が止まってしまったらしい

「まぁ とにかく2人とも座ってくれ…」

ウィルは頭を抱えながら言った


酔っているステラをウィルの隣に座らせると彼女は寝てしまった、2人は対面の椅子に座る、そのまま2人は料理と酒を頼み、ウィルと様々な話をする

「さっきはステラがすまない こいつは酒に弱くてな 酔うとこうなるんだ」

2人は理解しながら運ばれてきた酒を飲む

「俺1級魔法使い3人と酒飲んでるよ…」

「まぁ 僕が応援を呼んだからね…」

「応援を呼んだのは懸命な判断だった」

酒を飲みながらウィルは続ける

「そして ここまでの被害で済んだのは君達がワイバーン達の親玉を倒してくれていたのも大きい」

「それは どうも…」

「ありがとうございます」

「2人ともよくやった 我々2人からの礼だ」

そう言いながらウィルはズボンのポケットの中から短剣と小さな水晶玉を取り出し、短剣をウィルに、水晶玉をショウに渡した

「これは?」

「短剣の方は強力な祝福のかかった短剣だ 鉄ぐらいなら力を入れずに切れる」

「あ ありがとうございます」

「その水晶玉は俺やステラと話す事ができる水晶玉だ ここから先 応援を出しても俺達は駆けつけられない だがそれを使えばアドバイスぐらいはしてやれる」

「ありがとうございます あまり迷惑にならないように必要な時だけ使わせてもらいます」

そう言いながら2人は道具をしまい、料理と酒を楽しむ

「あ いーなー 私もご褒美欲しい」

いつの間にか目を覚ましていたステラはウィルにねだる

「悪いがお前にやる褒美はない」

「えー 私だって今日頑張ったのにぃ」

「飲み終わったら今日はこの後帰って仕事の続きだ」

朝方ここに着いてワイバーンを倒し、町の修復と負傷者の治療をしたのにこの後すぐに帰って仕事をするとは…

1級魔法使いとはとても大変なのだなと2人は思った

「やだぁ!帰りたくない!仕事したくないー!」

と言いながらステラは泣き出す、いつもの妖艶で落ち着いた感じの彼女とは一変して酔うととてつもなく子供になる、酒に酔うのは恐ろしいのだなと2人は実感する

「わがままを言うな 強制的に酔いを覚ますぞ」

そういうとウィルは彼女に魔法をかけようとする、しかし彼女は手を掴み抵抗する

「ねぇ… ウィル だめ…?」

あまりに可愛すぎる彼女の懇願に、ショウは焦って蒸せてしまう、ハルは顔を赤らめながら樽を落としまたも固まってしまう、顔が赤いのは酔っているからだろう、たぶん。

ウィルは彼女を見ながらため息を吐き

「仕方ない ここで1晩泊まっていこう 明日の朝には帰るぞ」

その返事を聞いて笑顔になりステラはウィルに抱きつく

「やったぁ!ウィル大好き!」

子供のような彼女の頭を撫でながらウィルは酒を飲み進める、なぜあそこまで冷静にいられるのだろうか、2人の世界に新たな疑問が生まれた


話は進みに進み、彼らが気がついた頃には、店は閉店の作業を進めていた、4人は店を出て宿屋に向かう、途中でウィルは寝ている彼女をおぶって挨拶をして別の道に進んでいく、どうやら自分達とは別の宿に泊まるらしい。

宿へ歩いていく中、酔った2人は感想を述べあっていた

「ステラさんいい人だぁ あぁ」

「綺麗な人だよねぇ ああいう一面もあるのには驚いたけど」

2人は先程の子供のような彼女を思い出す、2人とも学校では恋愛に興味がなかったため、彼女の存在は2人にとって刺激が強すぎた

「でもああいうところも素敵だぁ」

「そうだねぇ」

そういった話をしながら2人は夜の町を歩いた



翌朝 2人は激しい頭痛と共に目を覚ます、ショウが痛みを軽減する魔法をかけるも痛みは続く、痛みに耐えながら2人は度の準備を進め、山脈の前の洞窟にたどり着く。

洞窟近くの市場で楽しそうに買い物をする2人を見つける

「ステラさん! それにウィルさんも」

手を振るハルにステラが気が付き

「あら おはようございます2人とも」

「昨日はあの後大丈夫だったか?」

「大丈夫です! 頭痛はまだ少ししますけど」

2人は頭痛に悩まされてる感じはしなかった、恐らく魔法をかけ慣れているのだろう

「ここから先は応援を呼んでもすぐに駆けつけてあげられる保証がありません」

そう言いながら彼女は指で空中に魔法陣を描き、詠唱をする

「これから長き旅に出る君達に一時の加護を」

そう言いながら彼女は魔法陣に息を吹きかける、彼女の魔法が2人を包む、かけられた魔法は優しく暖かく感じた

「これで君達は少しの間、魔物に襲われなくなります これで少しは旅が楽になるでしょう」

「「ありがとうございます」」

2人は同時に照れながら感謝の言葉を述べる

落ち着いたハルは2人に質問をする

「お2人はこれから帰ってしまうんですよね?」

その質問にステラが悲しそうな顔をする、それを見て察したウィルは質問に返す

「いや もう少しこの町に残ろうと思う この町の店は素晴らしい所が多い」

その返事にステラは途端に笑顔になる

「いいんですか!」

「その代わり 溜まった仕事はちゃんと消化してもらうけどな」

その2人のやり取りを見て、2人は察した、このまま2人を見ていたくもなったが、邪魔をすると悪いので旅に戻ろうと思った

「では 僕達は旅に戻ろうと思います」

「そうか 頑張れよ」

「幸運を祈ってます」

「ありがとうございま」

「必ず王国に戻ります!」

そう言いながら2人は洞窟に進んで行った、最後に町の中の2人に手を振り、そのまま洞窟に入る

洞窟の中はしっかりと道と壁が舗装されており、崩れる心配をする必要はない、洞窟の中の明かりが道を照らす、途中で様々な人や馬車とすれ違う

「旅の再開だな」

「うん 加護を頂いてる間に進めるところまで進んじゃおう」

2人が洞窟を出ると森に出た、途中まで道と呼べる所を歩いていたが、分かれ道で左に進む、長らく誰も歩いていないためか草が生い茂っている、彼らは歩きやすいように草を切りながら進んでいく。

高くに登る青い太陽が2人を照らす、今日はとても暑くなりそうだ

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