第6話 赤い夜

ハルの前にいるワイバーンが頭を前に突っ込んでくる

「来い!」

ハルは剣をシンプルに持つ、構えは必要ない

ワイバーンは途中で姿勢を変え、尾を突き出してくる

「尻尾を突き出してくるのがわかりやすいな」

そう言いながら華麗に尾の攻撃を避け、尾の色の違う部分を両断した

「ガァッ!」

苦しみの声を上げながら空の方を向くワイバーンの首をハルは両断する

「本当に柔けーな!」

ハルの人生初の竜退治はあっさりと終わった


「僕はあそこまで運動神経良くないからね」

間合いを測ったまま動かない慎重なワイバーンを前にして、ショウは冷静に語る。

先に動いたのはワイバーンだった、高温の炎の玉を飛ばしてくる

「水よ」

そう詠唱すると、水の壁が目の前に張られる、炎の玉は壁に阻まれ火力を落としていき消えた

ワイバーンは近距離で噛みつき、勝負を付けるために高速で突っ込んできた。

杖を振りながら詠唱する

「水よ 貫け」

杖を思いっきり振りながらワイバーンの突進を姿勢を低くして避ける、盾となっていた水は塊になり、次に円錐状になりワイバーンの頭から尾までを削り取る、羽だけが残ったワイバーンはその場に落ちた。

「大丈夫か?」

別で戦っていたハルがやってくる

「うん ひとまずはね」

「あんまし強くないな」

「意外と単純な奴らなのかもね」

他の場所ではワイバーンによる炎が原因で爆発が起きたり、火災が起きてしまっていたりしているのが、ここからでもわかる

「俺は他の援護に行ってくる」

「うん 僕は火を消しながらワイバーンを倒していくよ」

そう言いながら2人は逆方向に走っていった。


町の様子を山の頂上から赤いワイバーンが見つめている

「厄介なのは……」

と人語を話しながら、軽やかにワイバーン達の首を正確に切っていく男に狙いを定める

「どうやら貴方のようですね」

そう言いながら山を破壊し飛び立つ、まだ気がついていない彼へ突進していく。


「キリがねぇな……」

既に20匹近くのワイバーンを兵士たちと協力し倒したハルは少し疲れが溜まっていた

「次はあっちです」

「わかった すぐに行く」

休む暇もなく次のワイバーン退治に行こうとする。

その瞬間謎の耳鳴りを感じたハルは違和感を感じた方向を見る

しかし赤いワイバーンは既にハルの腹に頭を直撃させていた

「ッ!?」

何が起こったか理解する前にハルは後方に連れていかれ、赤いワイバーンはそのまま建物を破壊しながら突進を続ける

「剣士さん!」

気が付くのが遅かった兵士は彼の事を呼ぶも、既に建物の奥に消えてしまっていた


ショウは民家の炎を消しながら、向かってくるワイバーンの頭に正確に岩の塊をぶつけては潰していくの繰り返しだ。

「ふぅこっちの方は燃え広がる心配はないかな」

そろそろハルと合流しようと思ったショウは違和感に気がつく、向こうの方から建物を破壊しながらこちらに向かってくる何ががいることに。

ショウは杖を前に向け、いつでも詠唱ができるように構える、音が近づいてくる、来る

「吹き……」

詠唱を始めた瞬間、破壊された建物からは赤いワイバーンの頭にしがみついた血だらけのハルが出てきた。

状況が呑み込めず、詠唱が止まる。

赤いワイバーンはその場で停止し、頭を前に振り払いハルを建物に吹き飛ばした、吹き飛ばされたハルは奥の建物を破壊し、瓦礫に埋まる

「ハル!!」

今までに出したことの無い大きな声を上げながら彼を助けようと考えた、が目の前で起きた出来事に杖を振る手が止まる

「ここで合流させることが出来たのはのは奇跡ですね」

ワイバーンが人語を話したのだ、自分の知識に人語を話す魔物や竜などは聞いた事がない

「お前 一体何なんだ」

激しい怒りと恐怖で我を忘れたショウは自分の口調が悪くなっていることに気が付かない

「私ですか 私は人間の名前だとワイバーンというらしいですね 仲間達からはグヴァンと呼ばれていて ここ一帯のワイバーン達の王です」

淡々と自己紹介を済ませたグヴァンは話を続ける

「で あなたは?」

「お前に名乗る必要はない」

「冷たいですね 私はちゃんと答えたのに」

「どうせ殺すんだからもうどうでもいいだろ」

「それもそうですね なら対……」

「岩石よ 奴を殺せ」

相手の話を遮り、ショウは不意打ちで岩石を飛ばす。

しかしグヴァンは不意打ちに冷静に対応してきた

「吹きとべ」

グヴァンの詠唱で岩石が全て吹き飛ぶ

ショウはグヴァンが魔法を使ってきたことに対して驚きを隠せず、次の詠唱に頭が回らなかった

「人の話を遮って殺しに来るとは…… 失礼な人ですね」

そう言いながら殺意の目がショウに向けられる

「ですが魔法同士の対決というのも面白いものですね 相手になってもらってもいいですか?」

そう言いながら無詠唱の岩の塊が飛んでくる

ショウはそれを無詠唱で弾きながら

「いいだろう 相手になってやる」

こうして静かな魔法対決が始まった


「おや こんな時間に誰からの手紙でしょうか」

手紙を持った鳥が窓をつつく

女はそれを受け取り読み上げる、読み終えると同時に部屋にある水晶玉に話しかける

「緊急案件です 急ぎアスルールの町に向かいます」

別室で執務をこなす男は水晶玉越しに会話をする

「わかった」

会話を終えた2人は同時に窓から外に出ていき、高速で城下町を駆けていった


魔法対決は長時間にわたり続いていた

攻撃魔法の術式を組み、相手からの魔法は防御魔法で遮断する、しかしいつもより激しい魔法の打ち合いのせいで、彼の体力と魔力はだんだんと削られていった

魔法の障壁が欠ける、そのまま飛んできた礫が彼の頬を掠める、そんな些細な事を気にせずに修復と攻撃をする

クヴァンの方は息切れする様子はない、攻撃魔法と防御魔法の同時展開にも難なく対応出来ている。

そして決着の時は唐突に訪れた

「うっ……」

ショウは鼻血を出しながら地面に膝をつく、あたまがいたい、せかいがゆがんでみえる、脳の酷使と絶え間ない魔法の使用によって彼の体は危険信号を発していた。

まずい、早く立って何とかしないと殺される、そう思いながらも上手く立つことができない

しかし、クヴァンはすぐにトドメを刺さなかった

「ふぅ とても疲れました 魔法を使い続けるのは思ったよりも体力を使うものなのですね」

クヴァンはそう言いながら頭上に巨大な火球を生み出す

「では あなたのその戦いに経緯を評して…」

クヴァンは違和感を感じた、左側で物音がしたのだ、そう思い左側を見る

その瞬間、目に激しい痛みと同時に左側の世界が見えなくなった……

「ガァァァァァ!!!」

右目だけから得られる情報からは先程吹き飛ばした血だらけの男が血だらけの剣を持っている、剣に付いた血は私の血だということまでは理解できる

「ハル……」

「あまり喋らなくていい とにかくまずは落ち着いて回復してくれ」

「ハルこそ……大丈夫なの?」

「大丈夫だ あとは任せろ」

ハルは笑顔で返事を返した、とにかく今はハルに任せよう、そう思いながらショウは杖だけは離さず、後ろで座り込む

「何故 動けるのですか……」

「根性だ お前らには到底理解できないだろうけどな」

「理解できません 人間とは理解出来ないことが多いです」

「できなくて結構 今殺してやるからな」

そう言いながら剣を構える、全身が痛く確実に何本か骨が折れている感じがしていたが、動ければ関係なかった

「重すぎて邪魔だな」

そう言いながら胴や腰の鉄の装備を脱ぎ捨てる、水の加護はまだ残っている、尾は避ける

そう考えながら前へ出る。

クヴァンは尾を突き出すも簡単に避けられる

(左目がない分少しズレてるな 避けるのには苦労しなさそうだ)

そう思いながら脚を切るも、手応えは無い

(さっきしがみついて感じた硬さだ 目を攻撃したのは正解だったな)

クヴァンの旋回に合わせて尾を避ける、屋根の上に乗り、炎の魔法の攻撃もかわす

(どうせ首も1回じゃ切れない 何回かに分けて切るしかないのか?)

クヴァンの左側の建物の瓦礫に隠れる、奴に気が付かれてはいない様子だった

(まずは手負いから潰しますか)

「岩よ 貫け」

クヴァンが詠唱をする、その対象はハルではなくショウに向けられていた

(まずい!ショウ!)

この距離では間に合わない、親友を守るために身を乗り出そうとする

しかし

ガンッ!

岩が弾かれる

(何!?まだ余力があるのか!)

「根性」

にやりとクヴァンを嘲笑いながらショウは防御魔法を展開していた、そして同時にハルと剣に魔法をかける

ハルはその魔法の意味を理解する

(ありがとう ショウ 必ず仕留める)

そう言いながらハルはクヴァンの後ろに回り込む

「この人間共がァ!必ず殺す!」

クヴァンは初めて怒りを覚えた、その本気の怒りを目の前の障壁にぶつける、しかしその障壁にヒビは入っても貫ききる事は出来ない。

しかし途中で気がついた、もう1人はどこだ?

クヴァンは一瞬考える。

だが理解した、見えない左側だ、足音も聞こえる!

「そこにいることはわかっている!死ね!」

左側に放った火球は瓦礫にぶつかる、いるはずの男が居ない……

その部分を見て理解する、魔法の跡、そこから足音が鳴っている

(足音を魔法で偽装した!?)

そう思うのも束の間

首に衝撃が走る

(首ががががが 痛い痛い痛い痛い痛い痛い)

「ガッガガ……」

首を取った、だがしかし皮と肉は厚く、骨も両断できていない、しかし親友の風の魔法がその手助けをする

(もっと深くに 両断しろ! 魔法が切れる前に!)

少しづつ刃は入っていく、骨が割れる感覚もする、あと少しだ!

しかし……

「ぐっっっっあぁっ!!」

背中に鈍い痛みを感じる、最後の抵抗で背中を刺された、だが浅い部分までで貫通してはいない、この手を離す理由にはならない

「これで 終わりだぁぁぁぁぁ!」

最後の力を振り絞り、ワイバーンは悲鳴をあげながら耐え続ける

ズバァァン!

ワイバーンの首が落ちる、そのままハルも落下する

「はぁ はぁ 終わったぜ ショウ…」

そのままショウの方に這って向かう、ショウはどうやら疲れ果てて先に眠ってしまっていた

「何先に寝てんだよ…」

そう言いながらハルはショウの上にもたれかかる

とにかく終わった、このまま昼まで寝てしまいたい、そう思いながら眠ろうとする。



しかしまだ夜は終わっていない

「ギァァァァァァッ!」

「シャァァァァァァッ!」

「グォォォォォォッ!」

王を失い、引いたと思っていたワイバーン達が一斉にやってくる

そのうちの数匹はクヴァンの死体を捕食していた

(何やってるんだ……こいつら……)

ハルがそう思ったのも束の間、2人の周囲にワイバーンが降りてくる、前3匹、後ろ3匹で囲んでくる

「まじかよ……どうすればいいんだよ……」

最初の方にすんなりと倒せたワイバーンとは何も変わらないのに、その図体は自分の10倍以上もあるように感じた

「まだ……終わりたくねぇぞ……」

そう言いながら立ち上がり、剣を持つ

ここで旅を終わらせる訳にはいかない、2人でこの場を生き残り、必ず太陽に行く。

だがしかし、すぐにその場に倒れる

「ジャァァァァァァッ!」

目の前の一匹が口を開け前に出てくる

終わりだ……




そう思った瞬間、目の前に男が現れた

男は拳に魔力を込め、前に突き出す

炸裂した魔力が一匹のワイバーンを吹き飛ばす、そのままワイバーンは山脈に激突した

「何とか間に合ってよかった」

そう言いながら続けて前にいる2匹を脚に込めた魔力を回し蹴りと共に炸裂させ、吹き飛ばす、2匹もまた山脈に激突した

(誰だか分からねぇけど……とんでもねぇ人だ……)

そう思ったところで、後ろの3匹の前の存在に気がつく、ワイバーン達の前で女が宙に浮いていた

「本当です 貴方が方向音痴でなければもっと早く着いてましたよ」

女はそう言いながらワイバーン達に向かい苛立ちをぶつける

「あなた達 こんな時間に私達を働かせるなんていい度胸ですね 永遠の眠りを与えましょう」

そう言いながら彼女は指を振る、すると3匹のワイバーンの頭が1つに纏まっていき、パァンという音を立てて頭だけが潰れてしまった

(この2人が助けに来てくれたんだ……もう安……)

ハルはそう思うと親友のそばで眠り始める。

山脈からは朝日が上り始めようとしていた









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