第4話 旅の始まり

「てか 1級取ったんだな」

「うん すごく大変だった」

門を出た2人はお互いに直近の話をしながら舗装された道を歩く

「別に2級まで取ってれば旅するぐらいなら大丈夫な気がするけどな」

「禁書庫でキアラール山について調べたかったから ほら僕ら山の事とかそこまでの道のりとか分からないでしょ?」

「それもそうだな それで収穫はあったのか?」

「うん とりあえず道のりは簡単に地図にしてある ハルの分も作っておいてあるよ」

そう言いながらショウはちいさなバッグの中から1つの丸まった羊皮紙を取り出す

「おっ ありがとな」

ハルは羊皮紙を大きなリュックにしまいながら

「別にショウがいれば必要ないと思うけどな」

「念の為だよ」

そういった会話をしながら2人は道の途中にある橋のかかった川に着く

「ここで一旦休憩しようぜ」

「そうしようか」

そう言いながら2人は川のほとりに荷物を降ろした


王国が舗装している道はこの橋で終わっており、そこから先は草木の生えてない部分が1番歩きやすい道になっている。

2人は川のほとりで休む事にした、川の水は冷たく綺麗で飲み水としては最適である。

ハルが水入れに水を汲み終わるとちょうどショウが話し始める

「そういえばさ 昔読ませてくれた太陽の本 他のページには何が書いてあるの?」

実際あの時ショウはハルに急かされて太陽のところしか読めていない、その後彼が本を持っていた所を見ていない辺り、ちゃんと本を返しに行ったのだろう

「あー それが俺も読めなかったんだ 文字なのかも怪しくてさ」

「そうなんだ」

「なんだったら今読むか?」

「え?」

ハルはそう言いながらリュックの中からボロボロの本を取り出した

「返してなかったんだ……」

「旅に出る時持っておきたくてさ」

ショウは呆れながら本を受け取る

懐かしい本だ、自分にとってはこの本とハルが人生の全てであり、自分の人生を変えてくれた本なのだ。

7年ぶりに手に取った本はとても小さく思えた、こんなにも小さく薄かったのかと思いながら最初のページを開く。

そこに書かれていたのは謎の記号達だった、何本もの棒で構成されていたり、緩やかな曲線を描く記号もある、だがしっかりと整えられたその記号の列が文字であることは何となく理解出来た

「本当だ これじゃなんて書いてあるか分からないね」

「だろ?俺達でも読める部分はあのページしかないんだ」

座りながらハルは本を覗き込む

「ショウでも読めないなら俺に読めるはずないな」

「術式の類ですらないからね 多分世界で読める人そういないよ」

そう言いながらショウは本の裏側を見る

そこには消えかかった4文字があったがやはり読むことはできなかった。


通りかかった行商人から買ったパンで腹を満たした2人は休憩を終え、旅を再開した。

森の中で2人は初めての魔物と遭遇した

「おっ 初めての魔物か」

2人の前に現れたのは1匹のスライムだった、大きさは中くらいといったところか。

背中の剣を抜き臨戦態勢に入る、しかしそんなハルをショウは止める

「待ってハル!スライムに剣は効かない!」

「えっ」

そう言いながら前に出て詠唱する

「風よ!」

そう言いながら放たれた緑色の風の玉はスライムの中心部の核を貫き、スライムはそのまま崩壊した

「スライムって剣が効かないのか」

「学校で習わなかったの?」

「教官の訓練が厳しくて……」

授業を寝てたんだなと思いながら、ショウは知識のない彼に歩きながら説明をする

「スライムはどの種類も液体のような魔力を持ってるんだ 体の中の核自体は破壊しやすいけど液体がそれを覆ってるような感じだからいくら切っても切れないんだ」

へーと簡単に返す彼を傍目にショウは続ける

「スライムはその体の特性を利用して対象を窒息させて取り込んで大きくなるんだ 初めての冒険者や旅人が命を落とす割合でスライムはかなり高いんだよ」

「じゃあショウがいなかったら俺今ので死んでたってことか」

「馬鹿なこと言わないでよ!」

ショウは怒りながら声を荒らげる。

一応剣で切れないことはないのだが、ハルが1人で練習して命を落とされても困ると思ったショウはこの話をしなかった

「へへ 悪い悪い」

「もう とにかくスライム系は僕が相手するからハルは他の魔物をお願い」

「おう!任せとけ!」

初めは少し不安だったが、彼の言葉はその不安を吹き飛ばしてくれた。


「やっと着いた……」

「ここまでかなり歩いたな」

あれから2人は様々な魔物を倒しながら、休憩を繰り返し疲れながらもアスルールという町にたどり着いた。

アスルールの町、王国ではないため城などがある訳では無いが目を引くのは奥に見える大きな山である、我々が超えなければならない山のひとつ、アスルール山脈を町の壁とするという世界的に見ても珍しい町だ。

「とにかく宿を探さないとな」

「そうだね もう日も暮れちゃってるし」

彼らが町に着いた頃にはすっかり日が暮れてしまっていた、2人は急いで宿屋を探す

大きな宿屋で風呂と夕食を済ませた2人は一旦別れショウは忘れていた買い出しに、ハルは部屋に戻った。

買い物を済ませたショウが部屋に戻ると、机に向かうハルがいた、どうやら日記をつけているようだ

「えぇ あのハルが日記をつけてる……」

「学校の頃からの習慣なんだよ 入学初日から教官に言われてさぁ 最初はめんどかったけど教官に拳骨を食らううちになんか体が勝手に書くようになってた」

「そうなんだ……」

あの教官の拳骨がハルに日記を書かせていると思うとどれだけの拳骨なのかが気になったが、ショウは好奇心で彼に別の頼み事をする

「じゃあさ! 学生時代の日記を読ませてよ!」

「それがなー ここには無いんだ」

「えっ じゃあ今書いてる日記は?」

「旅に出る記念で新しくした 前のやつは置いてきちまった」

「えー 残念だなー」

「旅が終わって帰ったら読んでもいいぞ」

「その約束忘れないでね」

一体どれだけ先のことになるのだろうと思いながら、ショウは一足先にベッドに飛び込む、日記を書き終えたハルが別のベッドに飛び込み、ショウは部屋の明かりを消しながら

「おやすみ」

「おう おやすみ」

そう言って2人ともすぐに眠ってしまった



アスルールの町の見張り塔では1人の兵士がうたた寝をしながら見張りをしている、あと2時間ほど見張りを続ければ交代なのだが昼に遊んでいたせいで彼の睡魔はすぐそこまでやってきていた。

キーンという謎の耳鳴りで睡魔が飛んだ彼は眠い目を擦りながら辺りを見回す、しかし何も異常はない。

そう思いながら彼が後ろを振り向くと

目の前には赤い竜がいた

「うわぁ!」

と声を上げた瞬間、赤い竜の尾が彼の腹を静かに貫き、赤い竜は彼を貫いたまま、そのまま空高くに連れ去ってしまった。



翌朝、日が昇り始めた頃、店を開く準備のために女が外に出ようとした瞬間

ドチャ

鈍い音を立てながら、腹と口から血を流す兵士が空から降ってきた

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

と大きな叫び声を上げながら女は気絶する。


新たな一日が始まろうとしていた

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