第七話 罠へと導く
罠というのは恐ろしいものだ。
単純なものから複雑なものまで様々なものがあるが、材料と時間さえあれば殺傷力のあるものは幾らでも作り出せる。
問題はどんな罠を作ろうが、対象が引っかからなければ意味がない。
時として、身体を張ってでも獲物を誘い込む必要もある。
それこそ、勝つためにも。
「こっちだ!」
イツハは叫ぶ。
その手には、彼が先程入手した物が握られていた。
「いっちゃん?」
ミュナの疑問の声と共にケルベッシュが吠え立てる。
そして、怒涛の勢いでイツハの前へと接近する。
「来るか」
イツハはホフリの剣を鞘から抜く。
攻撃には使えないが、爪による攻撃を防ぐのには有効だろう。
彼は
脚は短いというのに、走る速度は尋常ではない。
「いっちゃん、危ないわよ!」
あともう少しという所でケルベッシュが飛びかかろうとしたその時だった――。
「あら?」
ミュナは驚く。
ケルベッシュが甲高い鳴き悲鳴と共に動きを止めたからだ。
「掛かってくれたか。ミュナおばさん、今がチャンスです!」
「いっちゃん、ありがと♪」
ミュナは長机を担ぎ上げようとするが――。
「あらあら」
ケルベッシュの毒と攻撃に耐えきれなかったらしく、机はボロボロに崩れ落ちてしまった。
金属製の脚が一本だけ残され、ミュナはそれを手に取る。
「さあてと」
ミュナは走った。
走ったというべきなのだろうか。
イツハにはほんの一瞬だけミュナが地面を蹴ったのだけが見えた。
まるで、その場で飛び跳ねてダンスの練習でもしているかのようだったのだが――。
「あ――」
イツハはぽかんと口から間の抜けた声を出す。
気が付くと、ミュナはケルベッシュのすぐ隣に現れる。
音すら立てずに近づいてから、ミュナは机の脚を振りかぶり――。
「えい」
相変わらず気迫のない声と共に攻撃を行う。
ちょこんと机の脚をケルベッシュの背中を触れる。
その瞬間、ケルベッシュの身体が稲妻にでも撃たれたかのように激しく痙攣し、やがて目を回して昏倒してしまった。
「皆、勝ったわ~!」
ミュナは飛び跳ねて大喜びしていると、タブレットからは歓声が響いて来る。
視聴者と一緒に勝利を分かち合うのはいいかもしれない。
だが、少々呆気ない点は流石にどうなのだろうか。
「ミュナおばさん、お疲れ様です」
「いっちゃんもお疲れ様~。もふもふ☆ハンターとしての初勝利ね! ところで、その手に持っているのは何かしら?」
「あ、これですか。これは骨みたいです」
「骨? もしかして、ケルベッシュちゃんが埋めていたのかしら?」
「はい」
イツハはどうにかケルベッシュの注意を引きたかった。
そして、ケルベッシュが茂みに何かを埋めているのかと考え、試しに掘り起こしてみたところ、彼の考えは見事に的中した。
大切な宝物を取られれば誰もが怒り狂うだろう。
あとは彼の仕掛けた罠へと誘導した結果、ケルベッシュが見事転んでくれたのだ。
「こうも上手くいくとは……」
イツハは喜ぶも、すぐに嫌な考えが頭をよぎる。
――次はこうも上手くいくかな?
そう、人生何もかもが自分の思い通りに行くわけではない。
今回はたまたま運がよかっただけなのだ。
次回は失敗してしまうかもしれない。
自信過剰なあまり前進すると、それこそいざという時に命を落とす。
そう、人生の罠というのは、案外自分で作り出してものなのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます