第六話 長机は苦労する
イツハは配信アプリを起動する。
そして、慣れない愛想笑いを準天使達の構えるカメラへと向けた。
「皆様! お待たせしました! ミュナ&イツハの配信を再開します!」
すると、まばらではあるがタブレットから喜びの声が上がった。
「ミュナ&イツハ……。素敵なコンビ名ね♪」
ミュナが楽しそうに笑う中、イツハは回り込みながらもケルベッシュの注意を引く。
改めて彼がケルベッシュを観察すると、やはり三つも首があるために死角がどこにも見当たらない。
中々の強敵だなと思いつつも、イツハが罠になりそうなものを探していると――。
「皆~! 応援よろしくね!」
ミュナが呼びかけを行った瞬間だった。
ケルベッシュはミュナへと視線を向けると、先程と同じようにそれぞれの口から火の玉を吐き出した。
「ミュナおばさん!」
イツハはとっさに叫ぶも、すぐさま不要な心配であることを思い知らされる。
「そいっ!」
ミュナは手にしていた長机を強引に振り回す。
すると、暴風が巻き起こり、容赦なく火の玉を吹き飛ばしてしまう。
「む、無茶苦茶な……」
単純な力技で防いでしまうとは。
イツハは唖然としながらも、周囲を探る。
ケルベッシュがミュナを狙っている以上、彼が何とかしてケルベッシュの注意を逸らさなければならない状況だ。
「ど、どうすれば……」
イツハは悩みながらも、落ちていた枝や葉に目線を向ける。
どれもこれももふもふとしており、糸には困りそうにない。
ただ、これをどう利用すればいいのか。
イツハの頭の中には、先程入手した『罠知識レベル1』が何度もチラつく。
ケルベッシュを罠にかけることが出来れば反撃に繋がるだろう。
だが、罠に簡単にかかってくれるほど世の中甘くはない。
「どうすれば……。ん――!?」
ミュナの方に目をやると、ケルベッシュは火の玉での攻撃を諦め、前脚での爪と角による攻撃を試みていた。
前脚が短いせいでどこか微笑えましいようにも見えるが、ミュナが構えている長机を貫通するほど鋭い。
さらによく見ると爪の先端から何やら紫色の液体がにじみ出ている。
それに触れた机の板面からは白い煙が吹き上がり、どうやら毒の類らしい。
「な――!?」
頭部の角による攻撃も容赦なく、机の板面を貫通してしまった。
早くしないとミュナが危ない。
イツハは周囲の地面に触れながらも、必死に考える。
どうすればいいんだ――。
彼が悩んでいると、あることを思い出した。
「そうか、もしかすると――!」
イツハは足音を殺しつつも懸命に走る。
ミュナの安否を気づかないながらも、彼は何とか目的の場所へと辿り着く。
「どうか、気づかないでくれ――」
祈る気持ちで彼は手を必死に動かす。
暫くすると、彼は安堵の溜息を零した。
その顔には、勝ち誇った笑みが浮かんでいる。
そして、ゆっくりと余裕すら感じさせる動作で立ち上がり、ケルベッシュの方へと振り向くのだった。
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