一話 B
配信開始と同時、ダンジョンに潜る。
「おはよーす」
「よーす」
「よすよすー」
「……」
定例の挨拶、分かりやすく親しみ易い、シンプルな案。
《おはよーす》
《よーす》
《よすよすー》
《……》
戦士は、挨拶には参加しないが……基本皆は、推しの挨拶を返す。
完全なる人気商売だ。
《今日はどこ行くの?》
《これ近所じゃね》
《マ?》
《もう同接150万だ、すげー》
「その通り、今日は、東京の目黒ダンジョンに来てるよ」
要約すると以下の通りだ。
新しく作られたダンジョンで、魔物が強く、イレギュラーやパンデミックが起きた場合の対策が大変だから、
このダンジョンをぶっ壊します。
と言う事。
コアを破壊する為にコアモンスターを殺すのだが、今回は敵が強そうだから任されたという訳だ。
撮ってる片手間に、分身に編集を命じる。無論編集のできる分身は、リアルタイムで今言ったことを文字起こししながら、右のスペースに表示させている。
ちなみに脳は共有。
さて、早速、目黒ダンジョンに向き合う。
「レンズはいつも、僕たちを写している――
ダンジョンサクサク攻略シリーズ第13弾。
よーい――ドン!」
キャラ付けしまくりの掛け声を出して、スタート。それと同時に、タイマーを作動し、全画面表示からの、圧縮して左上に移動。
カメラマン俺は勿論、四人の全力疾走についていく。
階段を下り、部屋を開け、雑魚を蹴散らす。
《はやい……》
《やっぱバケモン》
《勇者パーティーすげええええ》
この時、雑魚のヘイトが俺に向かったら大変なので、気配遮断と透明化を併用している。
勇者と戦士がビジネス息ぴったりで同時に雑魚を切断したところをしっかりとカメラに収め、次。
だいたいいつもこんな感じだ。
ラグはジャスト二秒、リアルタイムで討伐数の加算、状況に合わせて分身体を増やす労力、二秒の間に全部終わらせる編集力――
全てを全力の三倍くらい出し切って、ブレ一つなく、次の部屋に向かう。
行き止まりがあれば即引き返し、トラップを無視するところも、視聴者にしっかり分かるようにして、数字を伸ばすための作業をする。
全部が決めゴマで、全部が素晴らしい。ダンジョン系なろう小説のチート主人公の作品の全戦闘シーンを神作画にする作業。
そして、舞台は二層目に突入。
二層目に入ってすぐ、場に似合わない、スライムが現れた。
スライム。環境への適応能力が高く、人間しか好んで食さない生物。攻撃すれば敵対する、という中立モブ。
ダンジョンの癒しであるが、連れ帰った途端に溶けるので、注意が必要。
しかし、この配信には、ルールがある。
スライムを見掛けたら、カメラマンが必ずスライムを真正面からドアップで映す事。
時間はきっかり三秒。今複製した分身体に別のカメラを持たせ、視点切り替えの後、きっかり三秒間真正面から映す。
《きた》
《今北産業》
《スライムを
愛でて
楽しいな》
《字余り》
カメラはぶつ切り、回収に今まで通ってきたルートを通らせる。
その間に並列して、現在の戦闘シーンを映す。
そして、いつもより強い敵と戦いながらも、およそ六時間、現在は200階層にまで到達していた。
ボス部屋の扉を遠慮なく開け、中に鎮座するのは――
「魔王――」
そうだ。
そこにいるのは、魔王なのだ。
「……」
瞬間、緊張が走る。魔王。出現するかどうかはランダム、ただ、この世のものでは無いのは確かだ。
同接が急に一億人増えた。そのまま十六億にまで登る。世界記録だよ。
「ここで会ったが百年目――」
先代、先々代の勇者が見せた姿で、魔王の存在は知っていた。
だが。
「……は?」
全員死んだ。
今の一瞬で。
なにが……起きた。
分からない、ただ、紛れも無いのは。
先々代は、錫杖を使わせたのに対し、こっちはそんな物を使うまでも無く、
全員、ぺしゃんこに潰された、と言う事だけだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます