勇者のダンジョン無双録

suger

一話 A

 この世には、三面の世界がある。


 機械のある、ユニバース。

 魔力のある、異世界。

 神々の在る、神界。


 (中略)


 と言うわけで、異世界でも配信技術が流用され、現在は大きな娯楽となっている。

 純日本人である黒宮は、何の因果か、幼馴染のよしみで、栄誉ある勇者一行に付いて行った……

 のだが。


「使えない」「もっとあおって」「エフェクト遠隔操作して」

「ウス」

 無茶振りを受けています。


 現在の勇者パーティーは単純明快、

 勇者→ユーシャ

 魔法使い→マーシャ

 戦士→センーシャ

 賢者→ケンージャ

 カメラマン→俺――もとい、黒宮

 である。


 勇者パーティー。名誉あるパーティーではあるが、実態は只のブラック企業だ。

 まずはパワハラ。ユーシャが圧を掛け、センーシャが乗っかって、女性陣と俺がいたぶられる。

 次にセクハラ。ユーシャ達により性癖が歪み、処女も無くし、まともな恋愛もできない女性陣がサキュバス、インキュバス対策に選ぶのは、勿論俺。人権なんて知ったこっちゃない、死ぬほど搾られる。

 俺の下半身に付いているもう一つのレンズが歩く度に割れそうなのを放っといて、映える動画を撮りまくる。

 普通に地獄だ。毎回テイスト変えて、引き、寄せ、俯瞰の三種類で撮り分けなきゃいけないし、ブレをゼロにしなきゃいけないし、戦闘の余波でついでに切られた俺の血は見せちゃいけない。

 後は放送できない数の罵詈雑言である。


「……あんまりだ」


 聞こえたら真剣で一回切られるので、聞こえないように口だけ動かす。

 今日は配信じゃなかっただけマシな方だろう。

 だが、明日は午前中から六時間、水分を摂る間もなく動きっぱなしだ。

 何だよ巫山戯んなよ、別視点のカメラ二刀流とか。馬鹿じゃねえの。

 編集も終わんないし。


 ――はあ……




 バズらねえ……お前、ちゃんと撮ってんの。


 ――これは――


 もう十九だろ、彼女くらい作れねえの?

 ほら、サキュバスの生け捕り。


 ――そんなん、食えねえって――


 数字取れない奴に金は上げねえ。


 ――は――何で、札束切って――


 汗かいた……あ。今日一日、汗だけ飲んで過ごしてみる?


 ――クソ――クソ、クソ――


 ねーね、どう?

 バラした君の分身体。


 ――……――


 あ、ごめん、落としちゃった。


 ――――


 ――


 ほら飯、食えよ。

 無能はその脳でも食べればいいじゃない。


 寝るな、起きて編集しろ。

 ……腕切るか。


 早く勃たせろよ。

 早く、早く、早く、早く、早く、早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く――




「……」


 ある時から、声帯が変化した。

 何色の声でも再現できるようになった。

 それは多分、奪われた性欲のお陰。


 ある時から、寝ることが怖くなった。

 気絶こそが唯一の睡眠に成った。

 それは多分、奪われた睡眠欲のお陰。


 ある時から、食べれなくなった。

 全部、胃に残って、全部、吐いて。失調してるはずなのに、俺は生きていた。

 それは多分、奪われた食欲のお陰。


 痛みを感じないのは、生存する気が無いから。

 回復薬を掛けられれば回復するし、休む必要なんてどこにもない。

 夜、皆が寝静まった頃に、一人で狩りに出て、取りに行く。


 俺は。


 ……




 思い出したくもない、追憶を。

 忘れ難き負の全てを。


 今日も、全てを押し留めて、押し留めて、押し留めて――

 やがて、灰になって消滅する。


「――」


 配信、か。


 行かなければ。

 カメラマンなのだから、やらなければ。

 ……撮らなければ。

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