二 季節
アハトが目を覚ましたのは、それから一日後のことだった。目を開き、しばらくぼうっと眺めていたのは、すでに見慣れてきた洞窟の天井だ。
「アハト、気がついたんだね」
視界外から至近距離にシュウの顔が突き出てきて、アハトはつい咄嗟に体を強張らせた。
視界を巡らせると、声を聞きつけた螺鈿がこちらに近寄ってくる姿が見えた。シュウと二人きりになっていたわけではなかったことを知って、僅かに警戒を解く。
「シュウ。俺は、どうしたんだ」
「昨日、ゼンゼン帰ってこないからさ、三人で探しに行ったんだよ。倒れてるところを見つけたんだ。アハトは、オアシスの水を飲んだんだよね? 螺鈿が処置してくれたんだけど、回復するかどうかは運だって言ってたから。本当に気がついてよかった」
アハトの横に座り込んでいたシュウが、アハトが気を失っていた間のことを簡単に説明する。
「気分はどうだい? どこが痛いとか、気持ち悪いとかあるかな。本調子とはいかないだろうが」
シュウの隣に膝をついた螺鈿に問いかけられ、アハトは自分の体へと意識を向ける。筋肉に力が入らず、未だ思うように体を動かせないが、危機感を覚える息苦しさはなくなっていた。
「すぐに起き上がって活動するのは無理そうだが、回復しているようだ」
アハトが自分の体調について話している間にも、螺鈿はアハトの下瞼を親指で軽く引き下げて、なにやら確認をしている。
「それは何よりだ。いまシュウも聞いていたけど、君は調査しに行ったオアシスの池の水を飲んで、あそこに倒れていたという認識で間違いないのかな? 具体的に、どのような症状だったのか聞きたいのだけど」
「池の水を飲んでからある程度時間が経ってからだから、それが原因だと断言はできないが、思い当たる節はそれしかないな。どのような症状っていっても、俺もよくわからん。ただとにかく、全身の筋肉がどんどん弛緩していったっていう感じだった。息も思うようにできなくて、あのまま放置していたら心臓さえ止まっていたかもしれない」
アハトはそこで一度言葉を区切ると、改めて螺鈿の顔を見返した。呼吸を一つ。
「助けてくれて、ありがとう」
そう素直に感謝の言葉を述べると、螺鈿は一瞬驚いたような表情をしてから柔和に目を細めた。
「早い段階で君を探しに行こうと言い出したのはシュウだし、吉野も、君を助けて洞窟に連れ帰ってくるのに尽力してくれたから、その言葉は全員に言ったほうがいいね」
「そうだな。シュウも、ありがとう」
「どういたしまして、だよ。アハトが死ななくて、本当によかった」
促されて続けられた言葉に、シュウは嬉しそうに笑う。
アハトはもう一人に礼を言うため横になったまま周囲を見回すが、見える範囲に吉野の姿はなかった。
「吉野は?」
「吉野は朝から一人で探索に出ているよ。もうそろそろ帰ってくるんじゃないかな。僕たちの方も、昨日は飲める水や食糧になりそうなものはなにも見つけられていなくてね、別行動する場合は三対一で行動しようっていうアハトの提案を守ってるわけだ」
螺鈿の説明を聞き、アハトは吉野が一人で外に出ていることを意外に思った。
「吉野一人で大丈夫なのか?」
「彼自身から、今日は自分が探索に出ると言い出したんだよ。流石にこの星についてこれだけ日数が経ったら、吉野もだいぶ落ち着いてきたんじゃないかな」
「昨日一緒に探索してたときも、この星の天気がこうなるのは天体の動きがどうとか、その影響で地形がどうこうとか、色々外の様子を観察しては話してたから、探索は得意なんだと思うよ。吉野が話してるコト、シュウはほとんどわかんなかったんだけどね」
「そういえば、上層の研究員の息子だったとか言ってたか」
アハトはそう頷きかけ、はたと、自分が一人倒れていたときに感じた気配を思い出した。
「三人が倒れていた俺を見つけたとき、すぐ近くに不気味な生き物がいなかったか? 奴はどんな見た目をしていた。どうやって追い払ったんだ」
「不気味な生き物?」
シュウが首を傾げ、確認するように螺鈿を見た。その視線を受け止め、螺鈿が答える。
「特になにも見当たらなかったと思うね。あの場所には花畑の中に突っ伏しているアハトしかいなかったよ」
「シュウも気づかなかったな。ナニかあったの?」
二人から問いかけられ、アハトは一気に己の記憶への自信がなくなる。そもそもあれは呼吸がうまくできずに、意識が朦朧としていた中でのできごとだ。
しかし、戸惑いながらも一応話しておくことにする。
「アンタたち三人に声をかけられる直前、すぐ近くになにか得体の知れない生き物の気配を感じていた。俺は突っ伏したままで身動きがとれなかったから、それの姿も見ていないんだが。ただ、『贄だ』ってそれが言った気がしたんだ」
「にえだ?」
シュウが不思議そうに復唱する。
「俺は、それが俺のことを『生け贄』と呼んだように感じた」
「この星の生物が、僕たちと同じ言葉を話したと言いたいのかい? 流石にそれは無理があるんじゃないかな。もし本当にあの場になにか生物がいたとしても、それはたまたま、生物の鳴き声がそう言っているように聞こえただけのことだよ。僕は、生物自体も君の幻覚だったんじゃないかなと思うね」
螺鈿にそう淡々と理詰めで言い切られると、アハトの記憶はさらに揺らいだ。
「そう、だな……アンタたちがそばにきて、わりとすぐに気を失ったし」
「むしろ、あのときまだ微かながらに意識があったのか。なにも反応がなかったから、すっかり気絶しているのかと思ったよ。意識があったから、そのぶん身体機能がまだ維持できていたのかもしれないね。池の水の毒が遅効性でよかったと思うばかりだよ」
アハトはあのときに感じた気配は幻覚であったのだと己を納得させて、螺鈿の言葉に頷く。
三人はそれからしばらく昨日の探索について情報交換を続けたが、まもなく吉野が洞窟へと戻ってきた。
「ああ、よかった。アハトさん、気がついたんですね。すごく心配しましたよ」
会話の中心にいるアハトを見て、帰ってくるなり開口一番に吉野は言う。安堵に緩むその表情は、彼が言葉通りにアハトの身を案じていたことが伝わってくるものだった。
「手間をかけたな、すまない。ありがとう」
アハトが他の二人にしたのと同じように礼を言うと、吉野はひどく嬉しそうに笑った。
続けて、螺鈿が今日一日探索に行っていた吉野を労う。
「お疲れ様、吉野。危険なことはなかった? なにか見つけたかい?」
「幸いなことに、危険なことは特になにもありませんでした。ボクは今日、洞窟を出てから墜落地点を通り越してずーっとまっすぐ進んでみたんです。そしたら、アハトさんとシュウさんが仰っていたものとまったく同じようなオアシスを見つけることができました。これが、そこの池で汲んだ水です」
吉野はそう説明しながら洞窟の岩盤の上に腰を下ろし、持っていたボトルを螺鈿に差し出した。ボトルの中には白濁りした液体が詰まっている。
螺鈿は救急セットの横に置いていた別のボトルを持ってきて見比べはじめた。保存してあった別のボトルの中身は、アハトが飲んで倒れたオアシスの水である。
アハトとシュウが見つけたオアシスは、洞窟から墜落地点まで行き、そこから右手に曲がって進むと到着する位置関係にある。まっすぐに歩き続けて見つけたオアシスならば別のものであることがわかるが、その池の水は、アハトとシュウが見つけたオアシスの池の水と同等のもののように見えた。
「白濁具合も、少しだけとろみのついたような水の調子も、まったく同じもののように見えるね。まさか、吉野はこれを飲んでないね?」
「はい。ボクもアハトさんの飲んだものと同じに見えるなと思って、汲んできただけで飲んでません。というか……アハトさんが事前に倒れていなくても、こんな得体の知れないもの、飲む勇気ありませんよ」
「誰かが飲んでみなければ、安全かどうかなんてわかりようがないだろ」
螺鈿と吉野の会話にアハトは口を挟んだが、毒味によって生死の境を彷徨い、いまだにまともに動けないような状態では、アハトも再度その水を飲んでみる気にはならなかった。
「アハトが飲んで倒れたものと、どう見ても同じものなんだ。飲まなくて正解だよ」
「ボクもそう思います。それと、オアシスを見つけたときに、この星についてひとつ気づいたことがあります」
「気づいたことって?」
吉野の言葉に興味を惹かれたように、今度はシュウが問いかける。
「このあたりはずっと平地が続いているんですから、もっと色々なものが見渡せていいと思うんですよ。なのに今日も、かなり近いところまで接近しないと、そこにオアシスがあることに気づかなかったんです。つまりこの星では、ボクたちがイザナミで過ごしていたときの感覚よりも、遠くのものがずっと見えにくくなっているんだと思うんです」
「それって、どういうこと?」
「この星の大気は、イザナミの中にあった空気とは構成成分が違うんじゃないかと思います。そのせいで光の屈折が変化し、遠くのものが見えにくいのでは、と。呼吸は問題なくできているんですから、そういう意味の不具合はないわけなんですが」
「なるほどね。外を歩いていた時に、なんとなく感じていた違和感はそれか。軽い霧の中にいるような状態に近いってことだね」
相変わらずシュウは不思議そうな表情を浮かべているが、螺鈿が納得したように頷いた。
「はい。なのでこれから探索を進めていくにあたり、『実際に行ってみる』ということが重要になると思います。一見何もなく見えても、そう決めつけるのは早計かな、と」
吉野はそう言って、星の特性についての話を締めくくる。つまり、遠くからなにかを見つけてから目的を決めるということができないので、この星での探索はいっそう困難だということだ。
「オアシスの、水以外の様子はどんな感じだったんだい?」
「硬い宝石のような木が八本生えているだけで、他に食べられそうなものなどは見つけられませんでした」
「そうか」
別のオアシスと、この星の特性を一つ見つけることはできたが、囚人たちが生きていくにあたり重要な収穫は、一日かけてもなにもないというわけだ。
螺鈿は短く嘆息すると、残り僅かとなった水と食糧を見る。
「僕たちの飲み食いできるものは、この星に存在するんだろうか」
螺鈿のその一言は、この場にいる囚人全員の懸念を代弁していた。
翌日になっても、アハトの体には弛緩が残ったままで、まだ一人で起き上がることはできなかった。
そんなアハトを一人残しておくわけにはいかないということで、三人が洞窟に残ることが決まる。
順に勤めを果たすため、吉野と交代する形で螺鈿が一人で探索に向かった。
しかし。夜明けから日が暮れるまで、その日一日螺鈿が探索に出ても、水や食料になるものを見つけることはできなかった。
疲れきった様子で洞窟に戻ってきた螺鈿の報告は、要約すれば『何も進展はない』の一言で済む。特筆すべきは星の様子の変化についてくらいのものだ。
「今日は、一日中強い風が吹いていたよ。鉱石花が風に崩れ、帰ってくる頃には、すっかり一面の砂漠に戻ってしまった」
洞窟から外の様子を窺ってみれば、すっかり日が沈んだ満天の星空の下、囚人たちが墜落した夜と同じ寂寞とした砂漠が広がる。一日前まで一面に広がっていた鉱石花は跡形もなく消えており、鉱石花を踏み締めて歩いた実感がなければ、花畑の存在は夢か幻だったのかと疑いたくなるほどだ。
囚人たちはその日の夜も洞窟で寝て過ごしたが、明け方が近づくにつれ、気温の急上昇を感じることになる。
出入り口からじりじりと伝わってくる灼熱を避けるべく、囚人たちは洞窟の奥まったところまで移動する。
すっかり夜が明ければ、洞窟の外は人間が長時間活動していられるような気温と日差しではなくなっていた。洞窟の中にいればその地獄のような環境から逃れられることは、囚人たちにとっては大いなる救いだった。
アハトの体調は徐々に回復の兆しを見せているもののまだ万全ではなく、出入り口に近いところから洞窟の奥まったところまで向かうという短い移動ですら、螺鈿とシュウの肩を借りる必要があった。
「これはボクの希望的観測ですが、もしかしたら、この星の季節のようなものを一巡したのかもしれません」
「イザナミにも設定されていた、春夏秋冬みたいなことかい? 僕はめちゃくちゃな気候が続いているだけのような気がするんだけど」
すっかり蒸し暑くなった洞窟の中で、吉野が考察を口にし、螺鈿が問いかける。
イザナミは真空の宇宙を漂う宇宙船であり、船内の空気や気温は自然に発生しているものではない。リサイクルシステムの中核で生み出され、コントロールされている。場所により温度変化の激しい宇宙にあっても船内温度を一定に保つことは可能であり、むしろ管理的にはその方が楽ではあるのだが、船内に住む人間並びに動物や植物の健全な育成のため、地球の環境を模した四季が再現されていた。
「わざわざ寒かったり暑かったりする環境を作りだしている上層の人間は、頭がどうかしてると思ってたな。環境変化に耐えきれなくて死ぬやつまでいるってのに」
イザナミにあった四季を思い、アハトが小さくぼやくと、墜落してからの記憶しかないシュウが驚いたように目を見開く。
「えっ。自分たちで設定してる温度なのに、寒すぎたり暑すぎたりして、死んじゃうの?」
「年寄りとか、弱ってる奴はな。下層の方が季節ごとの気温差がでかいんだ」
イザナミは上層と下層にエリアが分かれているが、宇宙船を作り出す設計段階でエリア分けをしたわけではない。
本来、人間の住環境として想定されていたのは上層だけであり、下層はイザナミの機関部にあたる。人口が増えすぎたがために、本来は人の住む場所ではない場所にまで人が住むようになってしまっただけの話だ。
温度も上層を元にコントロールされるため、下層では時期と場所によって暑すぎたり寒すぎたりする事態が発生し、貧しく体力の衰えた下層民は冬の寒さに耐えきれず死にいたることがある。
吉野は仮説を続けた。
「イザナミでは地球の周期をそのまま引き継いで、二十四時間を一日、三百六十五日を一年とカウントしていましたが、それも地球が自転をしながら太陽という恒星の周りを公転する惑星だったからです。この星も昼夜があって、太陽のようなものが見えますから、なにかの恒星の周りにある惑星であることは間違いありません。ならば、周期ごとに一定の気候を繰り返すはず、だと思うんです」
空のボトルを一本ずつ置いて四季をカウントしながら、吉野は話す。
「墜落した日が灼熱の夏だとして、温暖な秋になり、極寒の冬があった。それから花が芽吹く春を経て、また今日が夏に戻ってきた、と。イザナミでの感覚からすると、あまりにも周期が早いし気温が極端ですが、四季と言えます」
「アンタの言う通りだとすると、今日の夜からこの暑さは収まって明日は一日活動できるようになるが、その夜からはまた極寒になるってことか」
冬を示すために置かれたボトルを見やってアハトが言うと、螺鈿は表情を曇らせる。「そうだとしたら、また地底湖のある空間に戻って、あの寒さをなんとかやり過ごすしかないね……」
地底湖のことを考えると、そこにまだ横たわっているであろうエイタの死体に思考が及ぶ。だが、問題は別のところにある。螺鈿は眉を寄せたまま話を続ける。
「アハトが前回と同じ要領で着火することができたとしても、もう燃やせるものがない。前回と同じように人面タニシの襲来を期待するしかないけど、不確定要素すぎるしね」
「水と食料に加えて、なにか燃やせそうなものの調達が必要になるってことですよね。あの生き物に襲われるのは、ボクはもう嫌です」
人面タニシの姿を思い返し、吉野が強張った表情で言う。生理的嫌悪感から小柄な体は小刻みに震えていた。
再度巡ってくるかもしれない冬のことを思い、アハトの口からは深いため息が漏れた。前回の経験で、手持ちにある道具で火を起こすことが可能なことはわかっている。だが仮に火を起こして、それを継続して燃やしておけるだけの物も確保できたとして、次も同じように乗り切れるかどうかはわからない。それほど、一度経験して身に染みた極低温の辛さは強烈なものだった。
「そもそも、今日で残り僅かだった物資の水と食糧も尽きる。食い物はともかくとして、飲める水を確保できなきゃ、寒さを避けて洞窟の中に篭っている間に脱水症状で死ぬな」
冷静に状況を分析し、アハトは側に置いていた水のボトルを軽く振った。それはアハトの持つ最後の水であり、ボトルの底の方に僅かに残るばかりだ。自分が安全に飲めるとわかっている水がこの星からなくなるという事実は、目の前に醜悪な星棲生物が迫るのとはまた種類の違う恐怖を感じさせた。
しかしいくら気を揉んだところで、炎天下を出歩くことはできない。この星の地表が人間の活動できる温度になるまで、夜を待つ他になかった。
危険のない範囲で探索をしたり、曲がりなりにもキャンプ地として比較的快適に過ごせるように環境を整えたりする程度しかやることのない洞窟の中は、四人の人間がいるにも関わらず静かだ。話題をふる人間がいるわけでもなく、各々が物思いに耽っているため、辺りは沈黙が支配している。
オアシスの水を飲んで倒れてから四日間、体が回復していないアハトは、他の誰よりも暇を持て余している。
横になったまま、地面の上に投げ出した自分の掌を見るともなしに見る。
そこではじめて、自分の掌の中央に、奇妙な形状の傷跡がついていることに気がついた。掌を横切るように走る一本の線の上に、より深く食い込む傷が三点。まるで星と星を繋いで星座を作っているかのようだ。
——こんな傷、どこでつけたんだっけ。
そんな他愛もないことを考えながら、無為な時間を過ごすしかなかった。
極寒の数日間がやってくる前に残された時間は一昼夜だけ。水が見つからなければ全員の生存が危うくなるという瀬戸際。日が沈み、そろそろ人が出歩ける外気温になっただろうというところで、吉野が提案する。
「明日の夜が探索のデッドラインと考えるなら、今回ばかりは、動ける三人全員が外に出て、バラバラに行動して探索を進めた方が良いのではないでしょうか」
だが、螺鈿は首を振る。
「いや、いままでだって切羽詰まっていたことには違いないよ。それでも一対三での行動にしていたのは、その必要があるからだ。崩すべきじゃない。それに三人で探索に出たら、アハトがここに一人残されてしまうだろう。洞窟が完全に安全という保証があるわけでもないし、アハトがトイレに行くのを手助けすることもできなくなる」
洞窟の中にトイレなどあるわけがないのだが、囚人たちは出入り口に近く、岩陰に隠れる辺りを排泄をする場所として取り決めていた。アハトは現在一人で立ち上がることもできないので、アハトが催した際には他の者たちに肩を借りて介助してもらっていたのだ。
「んなこと気にすんな。なんとかする」
据わりの悪さを覚えてアハトはぶっきら棒に言ったが、シュウが至極当然といった調子で声をあげる。
「ダイジョーブだよ。探索、次はシュウの番でしょ。シュウが一人で行ってくる。螺鈿と吉野はアハトと一緒にいてね。皆が飲んだり食べたりできるものと、寒さを凌げるものを、ゼッタイ見つけてくるからね」
「本当にそうなったら、すごくありがたいんですが、その自信はいったいどこから出てくるんですか?」
吉野が訝しげに聞くが、シュウは自信満々に胸を張る。
「なんとなく。でも、ダイジョーブ」
つまり何の根拠もないと言っているのだが、追い込まれた状況下でも揺らぐことのないシュウの落ち着いた様子は、不思議と囚人たち全員の精神状態を安定させていた。
そうして、シュウは未だ蒸し暑さの残る星空の下、洞窟を出ていった。
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