Yの字で駆け出す背中パパ帰任

ワイの字で駆け出す背中パパ帰任


 娘が保育園のころ夫が単身赴任になった。

 

 半月か一月に一度は飛行機で帰ってくるのに、小学生の長男が毎回必ず「お土産は?」と言い、いらないよと私がくぎを刺しておいても夫は律儀に何か買ってくる。

 そして娘はパパが家を出ていくときに毎度必ずえーんと泣いた。またすぐに帰ってくるから、と言ってもパパ大好きな娘は涙を止められない。娘が泣くと夫の目もうるうるとして足が鈍り、飛行機に遅れるからいい加減もう行きなさい、と引きはがす私がまるで冷たい人のような役回りだった。


 長男が保育園児だったとき、車で大きな公園までよく遊びに行った。近所の公園にはない目新しい大型遊具は魅力的で、特にどこから始まってるのかわからないほど長いローラー滑り台は子どもたちに大人気だ。

 公園の入り口に着いたとたん、長男は滑り台に向かってわぁっと手をあげて駆け出していく。その英語のYの字のような後ろ姿をあわてて追いかけながら、子どもって嬉しいと万歳しながら走れるんだなぁと感心した。「やったー!」の万歳と「早く行こう!」と走り出すのが一緒になるのだろう。大人が両手をあげて走る姿など、ゴールテープを切るランナーくらいしか見たことはない。


 夫の単身赴任が終わって帰ってくる日を、子どもたちにはあまり早くに知らせなかった。子どもの時間感覚は長いから、待ちわびさせるのがかわいそうに思えたからだ。

 今日帰ってきたらその後はずっとパパはうちにいるよとついに伝えて、戻ってきた夫を見たとき、娘はわぁっと手をあげてパパに向かって駆け出していった。


 子どもって万歳しながら走れるんだよなぁ。

 でも、任地や任務が危険だったとしたら、大人でも手を上げて駆け寄ってしまうだろう。

 

 どこの子もみんな安心して笑って過ごせたらいいなと思う。

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