さくらが咲いたら

チョコレートストリート

豆のよな園児の遠足春うらら

豆のよな園児の遠足春うらら


「春はあけぼの」を食べ物で考えると、私ならきっと「春はお豆」になる。


 ぱりぱりのさやえんどうもしゃきしゃきのスナップエンドウもぽきぽきのいんげんも好きだけど、一番好きなのは豆ごはんになるうすいえんどうだ。

 さやをぱかっと開いて、はじけそうにふくらんだ豆がつやつやに光りながらみっちり並んでいるのを見ると、美味しそうと同時にかわいいなぁと思ってしまう(食べるのだけど)。


 娘が通った保育園では年少さん(3歳)の春の遠足に別学年の保護者のお手伝いがあった。遠足に付き添って道中と現地での安全を見守るのだが、私がお手伝いしたときの行先は園から1キロの少し大きめの公園だった。 


 お弁当の入ったリュックを背に、2列に並んで手をつなぎ、園外を歩いて遊びに行くといういつもと違うイベントに、体中からわくわくがあふれ出して笑顔が転がる園児たち。はちきれそうな元気を秘めて行儀よくぎゅぎゅっとさやに並ぶ青々つやつやのお豆みたいだ。むっちり丸いお豆は、さやから外すときポーンと飛び出したり転がっていったりする。保護者は道中、周囲とともに園児たちにもしっかり目を配って、一切気を抜けない。


 年少さんの遠足はお弁当を食べて少し遊んだらすぐに帰路となる。いつもなら給食の後はお昼寝の時間だからだ。


 1キロは大人の足では15分くらいだけど、公園で存分に走り回ってくちくなった後の3歳児の小さな足には途方もない距離かもしれない。


 歩き始めてしばらくすると疲れて泣き出してしまう子や、ふと見ると歩きながら目をつむって半分寝ている子もいる。そんな園児の歩みは遅れるので、行きのときとは違って前後の間がどんどん開いて、行列は長くなる。


 付き添いの保護者では全員を抱っこするには足りない。だから先生は「みんな、お友達を応援してー!」と声をかけ、余力のある園児たちは「がんばれー!」と声をあげ、泣いているお友達も座り込むことなく歩き続ける。

 途中でお茶休憩をはさみながら、行きの半分以下にパワーの減った子どもたちはそれでも、ついに園の屋根が見えるとわぁっと大きな歓声をあげ、保護者は行事の無事終了にほっとため息をついた。


 春にリュックを背負った園児たちがてくてく歩く行列を見かけると、私は心の中で「がんばれー!」と声をかける。ほぼ反射的に今日は豆ごはんにしようかなと思い立ち、手をつなぐ園児のかわいい姿と好物の豆ごはんを思ってほくほくとする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る