第3話 受風航機(セルタ)



「もっと頭を下げてー。」


リットが言うがすでにゼデは失速してクルクルと錐揉み状態で墜落している。


ある程度高度が下がると自動的に翼が開いて風を受けて再び滑空を始める。


上昇気流に乗り損ねたので今は緩やかに降下している。


降下を始めると速度が上がってくるので頭を上げて高度をとる。


気流に乗れればまた高くまで上がれるので航続距離は伸びる。


上手いタイミングで首の浮動器(プミル)を使って高度をとる事もできるがそれは大きな魔力を消費するし、空族としてはあまり格好のいい事ではない。


セルタの操作に風以外のもの使うなんてダサいってね。


「まあ初めてにしちゃ上出来かな。」


リットがハラハラしながらも感心している。


クラリスはハラハラしすぎて自分のバランスを崩しているリットを地上から見上げて苦笑する。


「弟の事になるとメロメロになってしまうんだから兄バカね。」


そう言うクラリスも似たようなものなのだけど。


「見上げ過ぎて首が痛くなってきたわ。」


隣にはやはり子供がセルタの練習をしているところを見上げている女性がいる。


戦士ガウラだ。


虎獣人でクラリスの後輩だ。


「先輩の弟さんなかなか筋がいいじゃないですか。今日が初めてって感じじゃないですよね。」


「あの失速状態からの復帰はベテランでも難しいぜにゃ。」


ガウラの亭主のちょっと小柄な猫獣人のミクスだ。こう見えて大賢者なんだ。


なんか少し調子がおかしな夫婦だが言っている事はお世辞ではない。


セルタは順調に飛んでいる分にはそんなに難しいものではない。


トラブルが起きた時の対処こそが腕の見せどころなのだ。


ゼデは少し無謀なところがあるのでそこは要注意。


大胆さや無謀な行動は仲間を危機に引き込む恐れがある。


だからチームメイトやリーダーにはどちらかと言うと大人しくて臆病な方が好ましい。


ガウラの子ナイクはゼデのすぐ後ろをゆっくりと滑空している。


安定した操機術だ。


空族(プミタス)の子は5歳になるとセルタの操機を学び初める。


6歳の空族学園(プミタスグリ)入園には自力でセルタを操って通うのだ。


もちろんそれまでに天測儀 や羅針盤の使い方も身につける必要がある。


通常はこれらは親が子に授ける。


ゼデに両親はいない。


両親はゼデが幼い頃大山脈を超えた先にあるギラクリラ大陸の捜索に行ったまま帰って来ない。


ギラクリラ大陸は名前は知られているが誰も行って帰ったものはいない。


魔大陸とも言われている。


それでもゼデには年の離れた優しい兄と姉がいる。


寂しい思いをしたことはない。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る