第2話 ゼデ6歳



腰につけたカプセルのボタンを押すと白い翼が広がる。


翼に対してゼデはまだ小さい。


重力が制御されていて風に飛ばされてしまう事はない。


これは受風航機(セルタ)と言って推進機を持たない空航機でグライダーのようなもの。


6歳になって空族園(プミタスグリ)に通うまでに操作をマスターする必要がある。


子供達はセルタでプミタスグリに通う。


プミタスグリに通園することが航空術の訓練になる。


空族(プミタス)の子供は5歳になると天測儀 と羅針盤を持たされる。


そして小さな魔導浮動機(プミル)。

これを首輪のようにつける。


外す時はプミタスをやめるか死んだ時。


これにはセルタを操る事とパラシュートの役割がある。


高いところを飛んで仕事をするんだから安全装置は必須。


空族3点セットを兄のリットから渡されたゼデはなんだか誇らしげだ。


春からはプミタスグリに通って航法や操機術、 空鯨(ザウリリ)の解体術などを学ぶ。


10歳になる頃にはほぼ一人前のプミタスになる。


この過酷な世界ではいつまでも何もできない子供でいさせてはもらえない。


「まだ、こんなにぷにぷにの子供なのに。」


そう言ってクラリスがゼデを抱き上げる。


でもクラリスもリットも同じように幼少の時から鍛え上げて来たんだ。


2人ともゼデの誇り、自慢の兄姉だ。


「慌てなくても卒業する頃には一人前になっているから心配するな。」


クラリスは名残り惜しそうにゼデを地面に降ろす。


自動的に畳まれていた翼が広がる。


ゼデは腰から伸びた操機桿を掴んで空を見上げる。


「じゃ、いってきまーす。」


白い翼が浮き上がって行く、


同じ島の部族の子供達も一斉に舞い上がって行く。


セルタは子供達の首に巻かれたプミルによって一時的に重力の束縛を離れてセルタを適度な上空へと持ち上げる。


後は風を受けて滑空する。

うまく上昇気流に乗ればより高く遠くに行くことが出来る。


クラリスは空を見上げる。


子供達はそろぞれ勝手に動き回っているように見えるけど各々の力量に応じて概ねプミタスグリに向かっているようだ。


白い翼がクルクルと舞ってカモメの群れのように見える。


リットも自分の過去を顧みているのだろうか。


手を振ると上空の白い翼が一つくるりと旋回してから飛び去っていった。


「あいつまだ1年しか経っていないのにうまいじゃんか。」


「兄バカね。」


クラリスが笑う。

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