第4話 それ本当に初級魔法??

――その瞬間だった。


「っ゛つ゛!!!!!」


足……というより、下半身全体に激痛が走った。


(何!?この痛み……!!)


私は痛みを感じた瞬間にすぐさま動く事を止めると、必死に思考を巡らせる。


何故走り出した瞬間に激痛が走ったのか――前世で一回でもこんなことが起こったかどうかを思い出す。

しかし、いくら記憶を辿ろうと、ここまでの激痛を体験したような記憶は無い。


「…………まさか、今の私の体が過剰な身体能力に適応できていない?」


――まだ確証を得ているわけではないが、思えばリミッターが外れたときの私は山で数百日過ごして多少なりとも仕上がっているような肉体だった。

だからこそなし得た技というか、過剰な身体能力に適応できたんだと、そう考えればこの説の信憑性は高いだろう。


「はぁ……学園に入るまでには出来るだけ体を仕上たいなぁ」


15歳になる頃に、人は学園に入学しなければならない。

それに則り、私も例外なく学園に入学するつもりでいるのだが――。


その入学しようとしている学園というのが、名門校と名高い――確か、ティレニアム統合学園という名前だったか。


魔法に剣術、ありとあらゆる術に重きを置く学園であり、今も数々の実力者を生み出し続けていると噂の名門校。

そんな場所へ通うことができれば、現代の魔法や知識なんかもより学べて、自身の成長に繋がる事だろうと思い、是非とも入学したいのだ。


その為にも、私自身が名門校に通うに足る優秀な人間であるとアピールする必要があると思うのだが……悲しいかな、この調子ではそれも難しいだろう。


――――さて、私のさっきの仮説が正しいとすれば……。

私は力の入れ方を調節し、身体能力を1割程度まで引き出せるようにして、またしても走り出した。


「お!行ける行ける!!」


先ほどとは違い下半身に痛みを感じる事はなく、自由に走り回る事が出来た。


「それじゃあ次は――!!」


そう言って私は、いい感じのデカさの木の前で急停止し、そしてそのまま――拳を握って腕を引き、全力でぶん殴った。

すると、木は風穴とまではいかなかったが、真ん中程度まで抉れてそのまま音を立て倒れた。


「うん!いい調子!それじゃあ次は2割!」


私はまたしても走り出しながら、そう言って体のギアを上げてみたのだが……。


「痛っ」


どうやら、2割以上を引き出すと先程の様な激痛ではないが、少しばかり下半身が悲鳴をあげるらしい。

これは思った以上に使い物にならないかもしれないな。


というより2割でこれってことは、もしさっき全力で走った時に激痛を感じても構わずそのまま走り続けていたら――私の下半身は使い物にならなくなっていたかもしれない。

無闇に全力を出すのは控えたほうが良さそうだ。


私の回復魔法なら常に全開で行けば多少無茶は出来るだろうけど……激痛を感じながらの戦闘というのは、あまり好ましくない。


一般的な回復魔法は、根本的な回復を行う事は出来ない。

失った部位を治したり、使えなくなったものを治したりと――そのような事は出来ない。


しかし、何事も極める事によって進化する。

私が扱う回復魔法は、自分の体限定だが失った部位を治す事が出来るのだ。

無論、これは私だけが出来る技術というわけじゃなく、前世の頃でも出来る人間は少数だが存在した。


「ま、一応引き継げてたし良しとしよう!次は――」


魔法でも、と言いかけた瞬間。

私の後方から、息を吐く音が微量ながら聞こえてきた。

それに気付いた私は、瞬時に後方に視線を向けながらバックステップで下がる。


「……私の気配感知能力すら上回るなんて、どうしてそんな魔物がこんな辺境の森に?もしかして、私が知らないだけでここは名がある有名な森だったとか?」


そう問いかけても、魔物が答えるはずもない。

あの魔物は前世にも居た、確かバフォメットって名前だったような……?でも、バフォメットにそこまでの気配を消す能力はなかったはず。

それに、足音だってまるで聞こえなかった。


……いや、ただ単に私の勘が鈍ってるだけか。

これは想像以上に弱体化しているっぽいな、私。


しかし丁度良かった。

魔物退治する次いでに他も試してみるとしよう。


そう意気込んだ最中。

先に仕掛けてきたのは――魔物だった。

頭に生えた立派な角を突き出しながら一直線にこちらに向かって突進してくる。


さて、最初は。


『フラ――』


私は右の手のひらに魔法陣を展開し、魔物に向ける。

そして、魔法を解き放とうとした。


――――――しかし、その瞬間。


「ゼスカちゃん危ない!!!!!」

「え?」


突然、女の子が私の名前を叫びながら、魔物の突進すら遅く感じるほどの速度で横から飛び出し、私の前に現れた。


「え?リア……!?」


飛び出してきた少女の姿に、私は思わず驚きの声を上げてしまった。

何故なら、その少女の正体というのが、私の幼馴染である少女――“リア・インゲニウム”だったのだから。


「ゼスカちゃんに近づくな」


そうしてリアは私の目の前に背中を向けて立ち尽くすと、とても7歳とは思えない怒気を孕んだ声で言葉を発しながら手のひらを前に出す。


氷結フロスト!!』


瞬間、リアの手のひらから魔法陣が展開されて――


「……嘘、でしょ」


次の瞬間には、辺り一面……半径は優に50mは超えていたであろうか。

向かってきていた魔物も、森も、地面すらも――そのすべてが凍りついていたのだ。

これは明らかに、五歳であるはずの少女から発せられるであろう魔法とは常軌を逸していた。


私が呆気に取られているとリアがこちらに体を向けて急ぎ足でこちらに向かってきた。


「ゼスカちゃん大丈夫?!」

「う、うん大丈夫!助かったよ、リア……」

「よかったぁ~!あ!ねぇゼスカちゃん!あれって魔物だよね!」


リアが少し興奮気味なテンションで氷漬けになっている魔物に指を指しながらそう言葉を発す。


「う、うん、そうなんだけどさ、リア。これって……?」


私が動揺を顕にしながらリアに指を指して説明を求める。


「?これってなぁに?」


キョトンとした顔を向けながら、小首をかしげ問うリア。


「えっと、リアが今出した魔法の事」

「――あ!そうなのそうなの!私ね、実はちょっとだけ魔法を練習してたの!ほら、ゼスカちゃんっておっきくなったらティレニアムとうごうがくえん?って所に行くんでしょ??だから、私もそこに行きたいなって思って練習してたの!!」


ちょ、ちょっとだけ……?ちょっとだけって何?その言葉の意味分かってる?一回誰かにちょっとだけとは何かって聞いた方がいいよ?明らかにちょっとだけ練習した人の魔法の威力じゃないからね?


てか、さっき確かに氷結フロストって言ったよね?氷結フロストって私の知識と言うか常識が間違っていなければ初級、誰でも出来るような魔法だよ?こんな威力持ってちゃいけないんだよ?初球の意味分かってる??


……というより、リアとは3歳の頃からの付き合いだけど、ここまでの魔法の威力を引き出せる程の魔力の質を感じた事は無かった…………いやまさか、魔法陣に過剰に魔力を込めたとでもいうの……?


――本来、魔法はそれぞれ発動時に流し込める魔力量の上限値が定められており、魔力を上限まで流し込むことで初めて魔法が発動出来る。

……が、もし上限値以上に魔力を注ぎ込むというのなら、それはもう繊細な魔力操作が必要になるのだ。


例えるなら、針の穴に糸を湿らせず50回連続で一回もミスらず通すような作業。


だからこそ、これ以上の威力を発揮させたいのならより強力な上位の魔法を扱うのが主流なのだが――。

明らかに、リアがさっき発動させたのは初級魔法だ。


だがそうだとすると、リアは私ですら少し手こずるような繊細な魔力操作を異常な速度で実現し、行使したという事になる。


「そ、そうなんだ、リアなら絶対に行けると思うよ……あはは」


こんな少女がこれほどの威力を発揮できるほどの才能を持っていることに対しても驚きを隠し得ないが、それ以上にこの歳でここまでの魔力操作の練度を誇っているなんて……。


――――面白い。

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