第3話 人を超越した身体能力
魔力を練って、練って、質を高めて、高めて――そんな事ばかりを繰り返すうちに、私事“ゼスカ・カイレンス”は7歳へとその年齢を重ねていた。
それ故、私が置かれている現状が色々と分かってきた。
先ず、この時代はどうやら、私が生きた時代から200年は過ぎた先の時代のようだ。
だからと言って別に何か問題があるわけではないのだが――ソレを知った当初はそんなに経ってるの!?と驚いたものである。
そして、転生した私はどうやら、何て事の無い平凡な村に住まう仲睦まじい両親の元に生まれた一人娘だった。
…………そう“娘”だったのだ。
男から女にシフトチェンジ……まぁ、元男としては思う所が無いと言えば嘘になってしまうが――中々どうして、それ以上に新鮮味みたいなものを感じるな。
しかし、男に生まれようと女に生まれようと……私の目的は変わらない。
別に、男と女で実力差が明らかに出るわけではないし、なんなら私まだまだ成長してるし――前世より確実に強くなれる事は間違いないだろう。
(……にしても、よかったな)
私は、ホッと息をつく。
そして思い出すは――かつての記憶。
(前世で……なんか威厳でそうだからって一人称を俺から私にしておいて)
ソレのおかげで、こうして“私”という一人称を難なく扱える……ありがとう、前世の私。
そんな事を思いながら、現在。
私が何をしているかと言うと……。
「さて、魔法の前に先ずは身体能力チェックかなー、正直大丈夫そうだけど」
体をほぐすための軽めのストレッチをしながら、呟く。
体も十分動くようになってきたという事で、私は自分の力がどれ程まで引き継げているのかをチェックしに生命の気配を一切感じない近くの山へと足を運んでいたのである。
……勿論、親に内緒で。
前世で私は、修行の一環として当時数ある実力者ですら好んで足を踏み入れる事を拒むような魔物が住む山の中で、どんな状況に陥っても魔力を一切使わないという変態的な縛りを己に課し、その身一つで何千日とその場で過ごしたことがあるのだが――人間とは弱いもので、魔法がなければ魔物と対等に渡り合うことは出来ない。
それは当然、私も例外ではない。
本当に小さい魔物程度ならそう苦戦することはなかったが、大型となれば話は別だ。視認してしまった際にはすぐにその場から離れる事を徹底していた。
その他にも常に安全に気を配り、周辺を警戒するだとかも怠らなかった。
そのおかげか、私は魔法に頼らなくても、気配をより感じ取れるようになり、足音や
気配がより鮮明に消せるようにまで成っていた。
だが何百日と過ぎた辺りだっただろうか、どうやら警戒していたのは私だけではなく、魔物も同様に私の事を集団的に警戒し始めていたらしい。
その事に気付いた時には遅かった。
何百日と辺りに気を配りながら生きているとどうしても熟睡というものはできなく、私の体は徐々に徐々にと疲弊していた。
そのせいか、私は警戒を解いてその場にへたり込んでしまったのだ。
しかし間が悪いかったのか、それとも魔物がタイミングを見計らっていたというのか――小型の魔物を引き連れた大型の魔物が私の真後ろに現れたのだ。
私が背後に居た魔物に気づいたその刹那、腕に異常なほどの激痛が走ったかと思えば、次の瞬間には私は吹っ飛んで木に体が打ち付けられていた。
すんでの所で腕をクロスさせ防御することに成功していたが、魔力を用いずにモロに受けたダメージに加え、木に打ち付けられた体へのダメージは計り知れなかった。
そんな私を畳み掛けるかのように大型の魔物が我先にと先行して私の前にまで現れた。
次の瞬間、放たれたのは大ぶりの拳、しかし流石は実力者でも好んで入る事を拒むような山に住んでいる魔物だ。
大ぶりの拳でも速度が違う。それは腕を振り上げた瞬間にはもうすでに拳が放たれているレベルだ。
ただの人間である私が大型の魔物に素の身体能力で太刀打ちできるわけがなく、一方的な暴力を躱すか防御で防ぐかをし続けた。
数十発耐えしのいだ辺りからだっただろうか――もうすでに、私の腕はあり得ないような方向に曲がっていた。
ただ幸か不幸か、この森で過ごしているうちに私の体も丈夫なものへと成っていたらしい。
魔物の攻撃の衝撃が体にまで届くことはなく、腕だけで完結していた。
だがいつまでも攻撃を耐えきれるわけがなく、私は一撃をもろに喰らってしまいまたしても吹っ飛んで木に激突した。
徐々に暗くなる視界。
どんな状況に陥っても魔力は使わない。
そんな己に課した縛りをすぐさま取っ払って回復魔法を使いたい気持ちが溢れてきたが――「ここで自分が決めたことすら最後まで貫けれないのなら、最強なんてのは夢のまた夢だ……」と何とか意地を見せ踏ん張った。
しかし、意地を貫き通した所で意味が無い。
眼前にはもうすでに、大型の魔物が歩み寄って来ていた。
(これは、死ぬな……)
あの時は本気で、死を悟った。
それと同時に、魔物が拳を私めがけて振り上げた。
(――だ、が……!!!!)
――その瞬間だった。
「ここで幕を降ろすわけには、
私は魔物すら反応し得ない速度で飛び出し、魔物の頭を蹴飛ばした。
はっきり言って何が何だか分からないが、その時、恐らく私の体は死に直面した事でリミッターが外れ、身体能力が人の域を超越したんだと推測している。
その結果、私は身体強化の魔法を使用せずとも私は生身でそれ以上のパフォーマンスを引き出すことが出来るように成ったのだ。
――――とまぁそれが今の生まれ変わった私にもできるかって話なんだけど……。
とりあえず全力で走ってみ、ついでに丁度いいサイズの木を見つけたらとりあえず殴ってみよう。
そう目的を定めた私はストレッチを終え、走る体制へと身を構えると――勢いをつけて走り出すのだった。
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