第14話 団子屋


 福島の実家から15分ほどの小さなショッピングセンターへ車で行ってみた。ここに来るのに数年を要した。Google調べでは西角にクリーニング屋が営業していたが、曇りガラス越しに店舗は空っぽになっていた。昨年いっぱいで営業を終了したらしい。今はネットで調べれば大抵のことがわかる。彼が自己破産しているのもネット情報から知った。官報から個人情報をあげて、削除するのに手数料を請求するという手口だ。住所をGoogleで検索したのがこのショッピングセンターだ。たしかに、当時の彼の実家から遠くない。東角は何の店だったのかシャッターが下りている。真ん中の団子屋だけが営業していた。店に入ってこのチエーン店の味が懐かしく、胡桃や胡麻など、両親の茶うけに注文した。お座りになってお待ちくださいと言われ、ショーケース前の無駄に広いスペースに置かれたテーブル椅子に腰掛けた。中で団子に餡をのせているらしいが、結構な時間がかかった。そのうち若い女性が2人、店の中に入って来た。客ではないらしく、店の壁際に立って店員の手が空くのをじっと待っている。一人が意を決したように手に持った何かを店員に差し出した。店員が事情を察したように受け取るのを見るとそれは鍵だった。2人はサークル室の鍵でも返却したようにさっさと出て行った。

 自分は団子包を受け取りながら、経営者とは思われない、痩せた中年の女店員に2階の空き部屋は貸し出してるんですか?と聞いてみた。店員は無愛想に、この建物は老朽化して近々、取り壊しになるので入ることはできないと答えた。先ほど鍵を返却にきた方は?と問うと店員は露骨に困った顔で近くの生活文化大の学生が短期間の約束でアトリエとして使っていると答えた。Googleで数年前に確認した時は商店の看板の上に2階の窓が半分見えており、室内の様子が伺えた。彼の部屋と思われる東端の部屋は格子という格子の障子紙に穴が空いており、白のアンダーシャツが1枚ハンガーにかけてあるのがわかった。他の部屋は洗濯物の量がもう少し多かった。生活の活動量を表しているそれらが、今では一切が消えている。あの障子の格子さえも取り外されて、伽藍堂の空虚な部屋の天上だけが見えた。




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喘鳴 @KaoruAndou

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