第13話 ブルーシート
警察署で対面した息子の顔は氷のように冷たかった。両手で覆って体温を足の先まで伝えようと試みた。涙の温かさで溶けると思った。今まで見たこともないような立派な意志に満ちた表情だった。口をキッパリ結んでいたので、若い刑事に顔を直したのかと詰問した。刑事は直していない。マスクが張り付いていた。そこは息子さんを信じましょうと説き伏せられた。体は左腕が変に持ち上がっていて覆いが被されていた。触ろうとするとああっ、体は!と言われて遠ざけられた。その後、夫が印を押して司法解剖に回された。失踪した日の最低気温は零下3度である。水面は氷結していなかったとはいえ、風があったので低体温症は免れられない。しかし、司法解剖の結果は溺死であった。肺に溺死の証となる水疱が現れ、肺は破けてそこから水が漏れていた。あとで知ったが肺に空気が残っている場合は体は直立に近くなり水面に頭が浮くことになる。水を飲めば飲むほど水平に近くなり、四肢が川底に向かって垂れ下がる形になる。従って水面には背中しか見えない。息子は青い防寒着を着ていた。チラシを作成して近所や正月休みに入った工場にポスティングした。当然、警察署にもチラシを配布したので、服装のことは知っていたはずである。県警は年が明けて十日過ぎに漸くヘリを飛ばした。行方不明者の捜索願を公式に隣接する県や川の流域の市町村に配布するため、自費で印刷を決めた直後である。ブルーシートが浮いていると思いましたよと若い刑事は言った。でも、青い服を着ていると聞いていたので。息子の身体は何かで引っ掛けられ、水面を引きずられて陸上げされた。
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