第2話 センターラインの子猫

 家を新築する前は、川向こうのアパートから県をまたいで車で通勤していた。帰宅時、夕焼け空を背景に橋の上の車は数珠つながりになっていた。なんとか橋を渡り切ると車の流れが緩やかに動き出し、ふと見るとセンターラインに子猫が数匹固まっているのが目についた。ちょうど車の流れが止まったので体を浮かせてよく見ると、生まれて数週間の子猫がブルブルと体を震わせて身を寄せていた。排気ガスと騒音の中、いつからそこにいるのか。アスファルトの粉塵が舞い、少しでも動けばその小さな体は微塵もなく巨大なタイヤに踏みつぶされるに違いない。むしろ故意に轢き殺す車がないとも限らない。誰がどうやってこんなところに捨てたのか悪意を感じた。どうする?車を止めようかと思う間もなく流れが再び動き出し、後ろからクラクションを鳴らされそうになった。渋滞しても降車しようか一瞬迷ったが、先々のことを考えてしまった。そのまま直進しアパートに帰宅した。夕食の準備をする頃には忘れることにした。生きるために。

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