第9話 新しいスタート

「全く、なんなの学園長は!私たちを便利屋だと思ってるんじゃないの!?」


珍しくヴァイオレットが怒っている。まあ、怒りたい気持ちもわかるけど……


「まあ、怒っていてもしょうがないわよ、私たちがここで文句を言ったところで変わらないから、そっちの方に取り掛かりましょう」


とジュミ。助かった……


「そうね。ところで、曲はどうする?短期間だけど作る?……って言うほど短期間じゃないかもしれないけど、tearの方も進めながらだと大変ね。でも、正直言うと、私は作りたい」


私は三人の目を見ながら言う。三人は何も言わずに私の言葉を待ってくれている。


「5人の曲は、5人で歌いたいの。私にとって去年の曲は、アガーシャも含めた5人のWorld Flyers!の曲なの。だから、大変なのはわかってるけど、新しく作りたいの」


私たちは、ユニット名を変えない。なぜなら、このユニット名には私たちの願いを託しているから。


私たちは、アイドル部ではなく異文化発信部として部活動登録をしている。これには理由があるのだ。


そもそも私たちの活動はアイドルだけではない。それぞれの母国の文化などを学校主催の交流会や地域外国関連のイベントで発信し、理解を深めてもらうというのが本来の活動。アイドル活動はその一環に過ぎない。もちろん本気でやっているけどね。


そして、アガーシャも含め、私たち5人がこの活動をしているのには、理由がある。


それは、この世界を変えたいから。


この学校に通う生徒の中には、外国にルーツを持つ生徒、外国から来た生徒など色々な生徒がいる。そんな人たちが日本で暮らすのにはやっぱり少し大変で、彼らは日本を理解しようと思っていても、日本人から「これだから外国人は」「外国人にはわからないかもしれないけど」なんて言われることも多々あるのだ。


私たちは、そんな世界を変えたい。

人種がなんだ。言語がなんだ。国境がなんだ。

そんなもので他人をカテゴライズするのは馬鹿げている。


だから、私たちは世界を変えたいのだ。互いの文化を知って、人種も言葉も国も性別も関係なく、互いが相手を思いやる世界に。どんな人も笑って暮らせる世界に。

そのために、私たちは今、ここにいる。


……なんの話だったっけ。そう、ユニット名の話だ。

「World Flyers!」には、世界に飛び立つという意味以外にも、私たち自身が広告塔……フライヤーとなって、世界に思いを発信していく、という意味を込めている。


だからユニット名は変えない。だけど、5人の思い出は5人のものにしておきたい。


私のそんな思いをくみ取ってくれたらしく、ティー、ヴァイオレット、ジュミはそれぞれ笑顔で「いいよー」「さんせーい!」「いいと思うわ」と言ってくれた。


「だったらさー、アリス、部室のパソコン借りていい?歌詞作る!」


とティー。


「いいよ」


と私が言うと、ティーは素早くパソコンの前に行き、起動してUSBメモリを差し込んでいた。


ティーに続き、ジュミも部室に置いてある机に向かう。


「アリス……私やることないんだけど」


困った顔をして言うヴァイオレットには、「放送部にマイクを借りる許可を取ってもらえるかしら?」と告げる。ヴァイオレットは振り付け担当だから曲が出来ないとどうにもならないのだ。

はーい、と返事をして部屋を出ていくヴァイオレットに手を振り、私は自前の電子ピアノに向かった。

まあ、中古品の安いものだけど。


「ティー、とりあえず私はtearの方の作曲を始めるわね。歌詞が出来たら持ってきて」


そうティーに声をかけると、私はヘッドフォンをつけ、作曲に取り掛かった。

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HIghschool Dream Live! World Flyers!編 薄氷 暁 @usurai_aki

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