第8話 一難去って……?

「あー!そう言えば!」


忘れてた!感動の仲直りですっかり忘れてたよー!


「どうしたの、ティー?」


アリスが尋ねてくる。声をかけてこないけど、練習着に着替えていたヴァイオレットとジュミもこっちを見てきた。


「あのねー!すっかり忘れてたんだけど!ティーね、昨日歌詞作ってきたのー!みんなの曲!」


私は言った。だって、忘れてたんだもん!全米が泣いた映画ばりに泣ける仲直りシーンだったもん!全米が泣いたっていうキャッチコピーの映画は一回も見た事がないけどね。


「そうなの!?どんなー!?」


ヴァイオレットが楽しそうに聞いてくる。聞いてくれるのは嬉しいけど……ヴァイオレット、服着よう?いくら暖かくなってきたからって、東京で四月にタンクトップは見てるこっちが寒いよ……

まあ、それはいっか。ヴァイオレットも多分着るだろうし。

そう思って私は、鞄の中から歌詞を書いた紙…書いたんじゃなくて印刷。ティーの字は丸文字だから読みにくいって前言われてから、歌詞を書く時はちゃんとパソコンで打ってプリントアウトしてから見せるようにしてるの。もちろん、ティーが傷つかないようにオブラートに包んで言ってくれたけどね。


で、それはいいとして!早く見せよっと。


「コレ!」


そう言いながら私は、アリスに紙を手渡した。すると、ヴァイオレットとジュミがアリスの手元の紙を覗き込んだ。


「tear……涙?」


ジュミが呟く。

そうだよ!


「あのねー、タイトルはtear、ジュミが言ったように涙だよ……って、みんな分かるか。あのね、歌詞を見てもらったらわかると思うんだけど、それはアガーシャに向けた曲なの。寂しいけど、私たちも前に進むよっていう私なりのメッセージ。これを私たち新生World Flyers!の最初の曲にしたいの」


これは紛れもない、私の本心だった。私たちはアガーシャが居なくてもちゃんと前に進むよ、頑張るよ。だから、アガーシャもそっちで頑張って、決勝の舞台で戦おうっていう、私の気持ち。


「これ……凄く素敵!さすがティーね」


アリスが笑顔で言って、私の頭を撫でてくれる。えへへ。アリス優しい。


「いいわね、さすがティー!私としてはバラードにして、ダンスより映像メインのPVにしたいんだけど、みんなはどうかしら?」


とジュミ。分かってるー!

するとヴァイオレットが高く手を挙げ、「さんせーい!」と言った。


「もう少ししたら桜が咲くからそのときに撮ろ!絶対カッコイイよ!」


桜をバックに撮る……


「ヴァイオレット!その案サイコー!やろやろ!」


私たちがめちゃくちゃ盛り上がってたそのとき。


ドアノブが回り、私たち異文化発信部の顧問・吉岡菜穂先生が入ってきた。


「おー久しぶりー」


相変わらずやる気のなさそうな口調だなぁ。なんでこの人、顧問を引き受けてくれたんだろう?


「アリスー、新しいリーダーはアリスなんだろ?」


先生の問いに、「はい、それが何か?」と答えるアリス。それを聞き先生は「了解」と言ったあと、歌詞の紙を持って集まっていた私たち四人の方を向き、言った。


「あのさ、2週間後の新入生歓迎会。異文化発信部は部活紹介だけするってことになってただろ?」


先生のなんの脈絡もない発言に、アリスは戸惑いながら「そうですけど」と答える。すると、先生は私たち4人を見て言った。


「あのさ。オープニングでパフォーマンスしてくれってことになった。急で申し訳ないんだけど、新曲じゃなくてもいいからって、学園長が言ってきてさ」


「「「「えーーーー!?」」」」


四人の声がピッタリ重なる。


少し申し訳なさそうに言う先生。いや、先生は悪くないんだけど、遅すぎでしょ!!

どうしよう、仲直りして一難去ったと思ったらまた一難来ちゃったよ……!?

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