第6話 もうひとつの決意

部室に行きたくない。

私、ヴァイオレット・スミスは下駄箱で立ち尽くしていた。


だって、私、アリスのこと傷つけた。アリスが嫌いなわけじゃない。むしろアリスのことは好き。だけど、アガーシャみたく振る舞ってるアリスは嫌。


メンバー内では口数が少なめで、かといって輪に入らないわけでもなく、話しかけたら普通に乗ってくれる。私たちの話をいつも優しく聞いてくれて、時にアドバイスをくれる。それがアリスだった。

リーダーシップがあって常に率先して行動し、よく喋るアガーシャとはまた違った良さがある。

そう、例えるならば、優しい保健室の先生が急に学年主任になったみたいなものだ。……わかるかな、この例え。


それはいいとして。

私は、自分の思いを上手く言えなくて、アリスを傷つけた。

だから、会いに行きたくない。今更どの面下げて会いに行けばいいのだろう。


謝らなきゃいけないのはわかってるけど、足が進まない。やっぱり今日は帰ろっかな……

そう思ってると、肩をとんとん、と叩かれた。


誰……?

そう思い、私が振り向くと。そこにいたのは私の友だち、オリビアだった。


「ヴァイオレット、おはよう。どうしたの?下駄箱で立ち止まって」


オリビアが普段と変わらない、のんびりとした口調で言うのを聞いた瞬間。

私は泣き出してしまった。


「どう?落ち着いた?」


オリビアは、泣き出してしまった私を保健室に連れて行って、泣き止むまで隣に座っていてくれた。

先生は気を利かせてくれたのか、職員室に行ってくれた。


「ゴメン……オリビア」


私が謝ると、オリビアは


「いいのよー。私も急いでた訳じゃないし、ヴァイオレットが心配だったからね。私でよければ聞くから、なんでも言って?」


と言って、にこっと笑ってくれた。

その笑顔を見てると私はなんだか安心して、ゆっくりと話し出した。


「あのね……私、アリスのこと、傷つけちゃった。アガーシャがいなくなるって話したでしょ、でね、次のリーダーはアリスなの……アリスがリーダーなのがイヤなんじゃなくて、アリスはアガーシャみたいになろうとしてて、ソレがイヤなの……だけど、上手く言えなくて、アリスを傷つけた。謝らないといけないけど、会いに行くのが怖い。」


私の言葉が終わるまで、黙って聞いていてくれたオリビア。そして、私の言葉が終わると、私の背中を撫でてくれながら話し出す。


「そう、アリスが……World Flyers!は前回優勝したものね、緊張して気負ってしまうのも無理はないと思うよ。でも、ヴァイオレットが言うみたいに、アリスはアガーシャみたいにならなくていい。アリスらしくいたらいい。それをもっと優しく伝えられたら良かったね。アリスもヴァイオレットも間違ってないよ。上手く噛み合わなかっただけだと思う」


オリビアは、私のことを責めず、ただやればよかったことを言ってくれた。優しいな、オリビアは……


ああ。やっぱり、早く謝りに行かなきゃ。アリスと仲が悪いままなんて、耐えられない。


「私、アリスに謝ってくる。アリスと仲悪くなりたくない」


そうオリビアに言うと、オリビアは笑顔で、「頑張れ!」と言ってくれた。


アリスに会いに行かなきゃ。ゴメンって伝えなきゃ、本当に言いたかったことを伝えなきゃ。


そう思って私が部室に足を向けると、ポケットのなかのケータイがブルブルと震えた。

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