第5話 決意

ヴァイオレットが、来ていない……

それは、そうだよね。昨日、あんなことがあったんだから。今日の練習に来たら逆に驚いちゃうよ。


ああ、どうしよう……私やっぱり、リーダーなんて出来ないよ。アガーシャみないに、グループをまとめることなんて出来ない。

そもそも人を引っ張るようなタイプじゃないし、人前に出て何かをするのも苦手。私は、人の上に立つことは向いてないよ……


「ジュミ、ティー。私やっぱり、World Flyers!をやめる。リーダーなんて向いてないし、私がいる限りヴァイオレットは戻ってこないと思うの」


ヴァイオレットはアガーシャが大好きだったから、多分、私が……去年、あまり前に出たりしなかった私が、リーダーをやってることが気に食わないんだと思う。


だから、私がやめたら……アガーシャは帰ってこないにしても、私がグループをやめたら、ヴァイオレットも来てくれるかもしれない。


そう言うと、ジュミに頭をぺし、と叩かれた。

思わず頭をあげると、ジュミが真面目な顔をして立っていた。


「あのね、アリス。人は人、自分は自分よ。アガーシャにはアガーシャのいい所があるし、アリスにはアリスのいい所がある。アガーシャと同じことをしようとしなくていいんだよ。アリスはアリスらしくいていいの」


え……?

私らしくいてもいいの……?


私がなにか言おうか迷っていると、ティーが口を開いた。


「聞いて。私ね、昨日帰ったあと、アガーシャと話したの。それでね、その時、アガーシャが教えてくれたんだ。アリスをリーダーに選んだ訳を」


アガーシャが……

ということは、私がミスをしたことを知ってるんだな……ダメだなぁ……


「ほらダメだなぁ、なんて顔しないの!いいから聞いて!あのね、アガーシャは言ってたんだ。私たちの中で、一番メンバーのことをよく見てるのはアリスなんだって。ダンスも歌も、みんなが出来てないところをちゃんと見て、言ってくれるからいいパフォーマンスになるんだって。無理にまとめようなんてしなくていい。アリスは今まで通りでいいんだって。ジュミでもなく私でもなくヴァイオレットでもなく、アリスだから出来ることがあるって思って、アガーシャはアリスをリーダーに指名したんだよ。それに、私はアリスがリーダーになってくれて良かったって思ってる。私だったら変な方向に突き進んじゃうもん」


ティーがリーダーになったら、変な方向に突き進むかどうかは置いといて。


私が、周りを見てる……?

そんなすごいこと、してないよ。ただ気付いたことを言っただけ。


でも、なんだか、軽くなった。我ながら単純だと思う。けど、あのアガーシャに、そう言われたなら。私も捨てたものじゃないかもしれない。


ティーに同調するように、ジュミが言う。


「私もリーダーがアリスで良かったわ。アリスなら、私たちをさらに成長させてくれると思う」


ジュミ……ティー……


「ありがとう……二人とも」


二人はどこまでも優しくて、寄り添ってくれて。それがなにより私は嬉しかった。


「それにね。ヴァイオレットもティーと同じことを言いたいんだと思うわ」


とジュミが言った。

え……?どういうこと?


「あのね、ヴァイオレットは言ってたでしょ?アリスは無理してるって。アリスはアガーシャじゃないって」


アガーシャにはなれないとも言ってたけど……


「ヴァイオレットは好き嫌いが激しい子でしょ?だから、アリスのことが嫌いだったらそもそも一緒にアイドルなんかしてないわ。アガーシャみたいになろうとしなくていいって言おうとしたと思うの。アガーシャみたいにまとめる必要は無いんだって」


「あのね、ティーね、思うんだ。ミーティングとか司会とかは別の人が担当すればいいんじゃないかな。まとめるだけがリーダーじゃないと思う。後ろからみんなを見てアドバイスしてくれる、そんなリーダーがあってもいいんじゃないかな」


ジュミとティーの優しい言葉が心に響いてくる。


「ティーは、アイドル活動なんてしなくたっていいよ。ただ、アリスとヴァイオレットが仲直りしてくれたらそれでいい」


仲良しの友達が喧嘩してると辛いもんね。

そう言って笑うティーの言葉で、私は決心した。


「ヴァイオレットに連絡してみる……!」


私の言葉を、ジュミとティーは黙って……けれども優しく、受け止めてくれた。

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