第3話 仲間割れ
「あ!思いついた。今年のソロ曲は、それぞれの個性をアピールするような曲にしたい!」
今年のソロ曲をどうするか、皆がうーんと悩むなか。部室にティーの元気な声が響いた。
「それぞれの個性?」
アリスが尋ねる。すると、ティーは笑顔で頷き、
「そう!それぞれの個性ティーが思うみんなのアピールポイント!どう?どう?」
どう、凄いでしょ?と言いたげに胸を張るティーに、アリスは「いいと思うわ!楽しそう!」と言った。
確かに、楽しそう。それに、ティーから見た私がどんな感じなのか、興味があるわね。
「ねね、ジュミ、ヴァイオレット、どう?」
嬉しそうな顔で聞いてくるティーに、「私もいいと思う、面白そうだもの」と返す。そして、私に同調するかのようにヴァイオレットも頷く。
「よし、決まりね。えっと…今年も去年とだいたい同じ役割分担でいいかな?私が作曲、ティーが作詞、ジュミが衣装でヴァイオレットがダンスね」
アリスの言葉に各々がうん、と頷く。去年もそんな感じで、アガーシャはそれぞれのサポートと広報、ネットまわりをやってくれていたのよね。
今年はどうなるかしら…そういえば。
「アリス、あと、キャッチコピーとかも考えなきゃ。余裕があればグループ曲も作れたらいいわよね。とりあえずキャッチコピーと方向性、今年はどうする?」
「あ、そうだね。ありがとう、ジュミ」
そう、私が思い出したのは、キャッチコピーとかを考えなきゃいけないということ。ハイドラ用のグループホームページのトップに載せるキャッチコピーを考えなきゃ。
ちなみにこのキャッチコピーは、ハイドラ公式ホームページのコラム「今週のピックアップユニット」やハイドラ決勝戦でも使われるので、慎重に考えないといけない。
「んー、どんなのがいいだろう。皆、なにか意見はある?」
腕を組みながらアリスが言う。
何がいいだろう……
去年のキャッチコピーは「世界を変えるFlyer」だったわね。今年もそういう感じにするのかしら?
「んー、何がいいかなぁー?ねー、ヴァイオレット、なにか意見あるー?」
ティーがヴァイオレットにふる。そういえば…ヴァイオレット、今日は全然喋ってないわね。いつものヴァイオレット節が炸裂しないなんて…珍しい。
ていうか、ティーが話を振っても答えないなんて…今日はなんだか様子がおかしいわ。
「ねぇ、ヴァイオレット。大丈夫?さっきから全然話してないけど、体調悪いのだったら無理しなくていいからね」
アリスがそう言い、ヴァイオレットの背を撫でようと手を伸ばした。
その時。
ヴァイオレットがアリスの手を払い除け、アリスに向かって叫んだ。
「ムリしてんのはソッチでしょ!」
え……?どういうこと?
ティーとアリスを見るけど、二人とも何が起こっているかわかってなさそう。
「ねぇ、どういうこと…?」
アリスが少し苦しげな笑顔で問うと、ヴァイオレットはアリスを睨みつけて叫んだ。
「それ!今日のアリスはムリしてるでしょ!今まで仕切ったりとかしなかったじゃない!アリスはアガーシャじゃない!アリスはアガーシャにはなれないの!もうやだ、私やめる!」
ヴァイオレットはそう叫ぶと、勢いよく立ち上がり、そのまま部室から出ていった。
理解が追いつかない私とアリスを見て、
「追いかけてくる!」
とティーが叫び、部室を出て走り出した。
部室に取り残された私たち。これから、どうしようか…
「ね、ねぇ、アリス……」
とりあえずと思い、アリスに声をかけると。
私の言葉に振り返ったアリスの目には、大粒の涙が溜まっていた。
「アリス……!」
私が急いで駆け寄ると、アリスは涙を拭うこともせず、ただ一言、呟いた。
「私が一番、やめたいよ……」
アリスは、もともとアイドルをやりたくて異文化発信部を作ったわけじゃない。それを知っているからこそ、その言葉は私の胸に重く響いた。
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