第2話 新たな一歩
「これから、朝のミーティングを始めます。気をつけ、礼。お願いします」
「「「お願いします」」」
私たちWorld Flyers!の新リーダー・アリスの号令により、今日も練習が始まった。
今日はアガーシャのいない、初めての練習日。まだ学校は始まってないけど、次のハイドラにも出ようというのなら春休み中も練習して当然だと思う。
でも、アガーシャがいない。 次のリーダーになるアリスのことを頼りなく思ってるわけじゃない。だけど、アガーシャは私たちの絶対的リーダー。王者の風格を持った、アイドルになるべき存在。去年優勝できたのは、アガーシャのおかげと言っても過言ではないだろう。
私たちだけで優勝出来るのか。いや、私たちだけで決勝まで残ることが出来るのか。
「今日やることはウォーミングアップと発声、ハイドラ用のソロ曲についての話し合い、走り込みね。例年通りなら今回もソロ曲は必要でしょうから、早めに作っておきましょう。何か意見はある?」
アリスがティー、ジュミ、私を見回して言う。
「特に何も無いよぉ」
「私も」
「うん、何も無いよ」
それぞれに答える私たち。やっぱりどこかぎこちなさが漂っていて、なんだかとても居心地悪い。
アガーシャも含めた五人でやってた時は、こんなこと無かったのに…
「よし、それならウォーミングアップを始めましょう。ジュミは私と、ヴァイオレットはティーとね。それじゃ、腹筋五十回一セットめ、はじめ!」
いーち、にー、と数えながら腹筋をする。私はティー、アリスはジュミに足を持ってもらいながら腹筋。効率は悪いかもしれないけど、一人でやるより相手のことを考えながらやるから、チームワークの向上に繋がるだろうっていうアガーシャの一言から、私たちのウォーミングアップは二人、もしくは三人でやるようにしている。
そんなこんなで腹筋五十回、腕立て伏せ二十回、スクワット十回のメニューを三セットやるウォーミングアップが終わった。
これ、結構疲れるなぁ。始めたばかりの頃より格段に出来るようになってきているけど、今でもまだ大変。
みんながスポーツドリンクやら水やらを飲み終えたのを確認して、アリスが言った。
「さあ、次は発声ね。久しぶりだから簡単なメニューからにしましょうか。くれぐれも喉を潰さないようにね」
そう言いながら、部室に置いているキーボードの前に座るアリス。アリスはピアノが弾ける、グループの作曲担当兼発声練習係なのだ。
あー、まー、といった言葉では無い音で発声練習をする。時々アリスが音程や伸び方、声を飛ばす位置について注意しながら。
そして、いよいよ大本命、曲作りについての話し合いの時間になった。
ハイドラはほぼ一年を使ったコンテストだ。
四月末までにエントリーし、五月末までにホームページを作り、自己紹介動画、グループ曲一曲以上、メンバー全員のソロ曲をアップする。これが出来ていないとハイドラへのエントリーは取り消しになるので注意が必要だ。そして六月末に一次予選、八月末に二次予選、十月末に準決勝があり、十二月末に東京のファイブスタードームで決勝大会が行われる。それぞれの予選では事前にテーマが発表され、そのテーマに沿った楽曲(PV付き)をアップし、ログインしている人の高評価数が多ければ予選突破できるという仕組み。
「去年はそれぞれが好きな国をイメージした歌にしたわよね」
「今年は変えた方がいいよねぇ。ワンパターンだと飽きられちゃうだろうし……」
それぞれ意見を言うジュミとティーをみながら、私は去年のことを思い出していた。
五人で立った決勝の舞台。ステージのライトがとっても眩しくて、見に来てくれた人たちの歓声が心地よかった。
今年は、World Flyers!のセンター兼リーダーだった絶対的エース、アガーシャがいない。アガーシャは決勝で会おうと言っていたけど、アガーシャがいない中で、私たちは決勝まで残れるのかな。
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