HIghschool Dream Live! World Flyers!編

薄氷 暁

第1話 別れ

それは、突然の出来事だった。

その日、先生の手伝いをしていた私は、3月最後の部活に遅れて顔を出したのだ。


私たちWorld Flyers!は私立俊英高等学校のアイドルだ。異文化発信部という名前で、アイドル活動と異文化交流イベントの企画や実施という2種類の活動をしている。メンバーは私……アリスこと有栖川美優、アメリカ出身のヴァイオレット・スミス、日本と台湾のハーフ、ジュミこと西門珠美、ティーこと茶畑多愛、ロシア出身のリーダー、アガーシャの5人。

そして、昨年度開催のHIghschool Dream Live女子部門で優勝したグループだ。

先生の手伝いに思ったより時間がかかったため、急ぎ足で部室へ向かう。


「遅れてゴメン……皆」


呟きながらドアを開くと、私の耳に届いたのはチームメイトであるティーの絶叫だった。


「えええーー!?」


どうしたの、と言おうとして口を開きかけたその時、


「そんな……嘘でしょう!?」


「えっ……!?」


ティーの絶叫に続き、ヴァイオレット、ジュミの驚いた声が響く。

私はというと、なんのことやらさっぱり分からないから、黙っているしか無かった。


「ね、ねぇ、アガーシャ!なんで!なんでなの!?」


半泣きでアガーシャに縋るティーを抱きしめながら、アガーシャは言った。


「ゴメンね、皆。私も本当を言ったら行きたくないわ。でも、お父さんが許してくれないの。ロシアの家には帰れないし、お父さんの仕事先のイギリスに行く訳にも行かないから……」


何の話か、さっぱり分からない。とりあえず、アガーシャが何か言ったということだけはわかったけど。


「ねぇ、アガーシャ、どうしたの?」


私が声をかけると、本格的に泣き出したティーを抱きしめながら、アガーシャは話し出した。


「あのね…私も不本意なのだけれど、転校することになったの。本当は今年も、みんなと一緒にWorld Flyers!としてハイドラに出たかったわ。けれど、お父さんがイギリスに行くことになっちゃって…ほら、私、ロシアに帰る訳にも行かないでしょ?イギリスに一緒に行くことも出来ないし。だから、どうしても日本にいたい!って言ったら、一人暮らしは危ないから、学生時代からの友人の所に下宿しろって言われたのね。私も寮があるからって反論はしたけれど、心配だからって…下宿も寮も変わらないわよね」


寂しそうに笑うアガーシャに、厳しい顔をしたままのジュミが問いかける。


「ねぇ、アガーシャ。下宿先ってどこなの?」


その問いに、アガーシャは斜め下を向きながら答えた。


「それが、広島、なのよ……」


広島…広島なんて、この東京から何時間かかるんだろう。少なくとも、通学は無理だよね。というか、アガーシャが言う通り、寮でいいじゃん!アガーシャだって高校生なんだし、大丈夫だよ。

でも、まさか他人の家庭に口を出す訳にも行かないから、私は何も言えなかった。

俯く私たちを励ますように、アガーシャはパン!と手を叩き、明るい声で言った。


「だから!私は新しく通う学校で、アイドルグループを作ってハイドラに出るわ!だから、皆はWorld Flyers!を続けて。同じ舞台で戦いましょう!」


そう言ってにっこりと笑ったアガーシャは、やっぱりとても美しかった。

未だに泣き続けるティーを撫でながら、アガーシャはティー以外のそれぞれの目をじっと見つめて言う。


「ティー、同じ国の中なんだからまた会えるわ。時々私も遊びに来るし、皆もよかったら遊びに来てちょうだい。ヴァイオレット、そんな不安そうな顔をしないでちょうだい。あなたはとっても素敵なんだから、自信を持って。ジュミ、ティーとヴァイオレットが暴走しないようにしっかり見てあげてね。あなたはとってもしっかりしているから、2人のことを頼んだわよ。そして、アリス」


私の方を向き、優しい笑顔で言う。


「あなたが次のリーダーよ。World Flyers!を任せたわ。決勝戦の舞台で会いましょう」


その瞬間、私は、足が震えるのを感じた。

私が、リーダー。

……そんなの、無理だ。できっこない。私は、アガーシャみたいにはなれない。


でも、優しい笑顔のアガーシャを前に、私はただ一言しか言えなかった。


「……広島に行っても、忘れないでね」


あたしの言葉に、もちろん!と言ったアガーシャの笑顔を、私はずっと、忘れないだろう。


アガーシャが抜けて4人となったWorld Flyers!はどうなるんだろう、と不安になりながら、私は他のメンバーと一緒にアガーシャを抱きしめた。

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