第4話 鏡の世界の義妹
「おねぇさまぁぁぁぁぁぁっ」
「なっ!」
わたくしは驚きました。こちらのベルティーユは、殿下に目もくれず真っすぐに、わたくしに飛び込んできたのです。
「???!!!」
「あ、ああ、紹介……するまでもないね。彼女はこちらの世界のベルティーユだよ」
シリル殿下が苦笑して、義妹はキョトンと首を傾げました。
そうしてわたくしと殿下は再び、鏡の世界の話をしたのです。
「おねえさま、あたしもそちらの世界に行きます! そしてそっちのあたしを叱り飛ばします! おねえさまに無礼を働くなんて、許さない!!」
憤りもあらわに、ベルティーユがぷんすこ騒いでいます。
こちらの義妹は"わたくし"のことが、"オーレリア"のことが好きでたまらないと教えてくれました。
「ややこしくなるから、余計な行き来は控えようか」
こめかみを押さえながら、殿下が義妹を止めています。
「ならせめて。あたしの弱点をお教えしますわ! そちらのあたしが生意気でしたら、お試しくださいませ」
「じゃ、弱点?」
「はい。同じかどうかはわかりませんが……」
そう言ってベルティーユから耳打ちされます。
姉妹とはいえ、こんなに至近距離になったことはなく、ふんわりと香る愛らしい花の香りが、ベルティーユが年下の、幼い少女であることを認識させてきました。ミルクのような、白い肌。
(そういえばまだ十四。道理がわからないことも、寂しいことも多かったのかもしれない)
"父が隠し子を連れてきた"と、素っ気なく接してきたことに、罪悪感を覚えます。
悪いのは外に子を作った父であり、ベルティーユ自身に罪はなかったのに。
こちらの世界のわたくしは、公爵家に引き取られて戸惑う義妹を世話し、だから
ベルティーユがわたくしに付き纏ったのは、心細さから。わたくしと何でも同じにしようとしていたのは、安心感を得たかったから。
わたくしはそのことに、気づかされました。
本当のベルティーユは、素直な性質だったのです。
「ええっ、腕の内側を
ベルティーユのヒソヒソ話は、身体的な弱点の暴露でした。
「はい。特に左が感じやすいです」
頬染めて身をくねらせながら、なぜか期待する目でわたくしを見上げる彼女に、「使わないで済むことを祈るわ」と返しました。
(まだ幼いのに、とんだ敏感さんね?)
義妹を見る目が、変わりそうです。もうすでに、だいぶ変わった後ですが。
「あ、おねえさま。おみ足を
「まあ、ありがとう」
ベルティーユは治癒魔法が得意でしたが、こちらでも同じようです。
(なら弱点も同じかしら)
見せた足首に、ベルティーユからのあたたかな力が
「あら?」
「おや」
義妹と殿下が声をあげました。
(殿下まで、わたくしの足を見てたとか)
そう思いながらも。
「どうかなさいました?」
「きみの靴は、
「え?」
「いや……、リアは
「?! なんですか、それ?」
「蹴られると、痛いんだよね」
うんうんと、殿下とベルティーユが頷き合っています。
(待って。こちらのわたくし、待って。どんな生活をしているの。そしてあちらの世界で、暴れてたらどうなるの?)
そしてそれは"痛い"では済まないのでは? 怪我、間違いないのでは?
内心で滝のように流れる汗。動揺するわたくしに、殿下が呟きます。
「"リア"は、"蝶のように舞い"──」
(はっ!)
レイピアを片手に身体をさばく、カッコイイ女剣士が脳裏に浮かべた直後。
「"
「────!!」
…………ダサい。
「あの、殿下? こちらのわたくしは、ちゃんと"淑女"でしょうか」
一応、公爵令嬢なのですが。
わたくしの疑問に、殿下と義妹がピタリと止まりました。
「もちろんだとも!」
「
ベルティーユに至っては、目を
(あああ、これはますます早く帰らないと!!)
だけど。
我が身可愛さに、「もちろんだ」と言い切った殿下は、ずいぶん人間味あるご様子で。
いつも取り澄まして本心をお見せにならない方だったと思っていたけれど。
(もしかしたら私から、壁を作っていたのかもしれない)
互いに足りない交流が、行き違いを生んだのかも。
「オーレリア。どんなきみでも。きみはすごく素敵だよ」
こちらの世界の殿下が、眩しいものを見るように、目を細めました。
それはとても力の湧く言葉で。
(わたくし。わたくし、やり直してみます!!)
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