異界駅探索

@yousukefc236

第1話

 眼を開けると、黒いものが視界に飛び込んできた。


 それは電車の窓の外に見える暗闇だった。自分が腰かけている電車のシートの反対側のシートには、現在誰も座っておらず、反対側の窓が直接見えるようになっているのだ。

 

 どうも自分は腰かけているうちにいつの間にか眠ってしまったらしい。まあ、今日は大学にも行ったし、そのあとバイトもしたので確かに疲れてはいた。それにしても妙に電車は空いているな、と、卓也は思った。

 いや、待て。そんなことを悠長に思っている場合ではない。ひょっとしたら、とっくの昔に最寄り駅を通り過ぎてしまっているかもしれないのだ。


 というか、確実にそうだろう。今日乗った電車がいくら終電近くの電車だったとはいえ、最寄り駅付近の車内がここまで空いているとは考えづらい。


 今、ここはどこだ、と、思い、卓也は電車の電光掲示板に目を走らせた。すると、そこには「黒池」という文字が見えた。


 黒池? と、卓也は眉を顰めることになった。黒池というのは、卓也の記憶にない駅名である。というより、自分が普段利用している沿線にそのような駅名が存在していたかどうかも定かではなかった。少なくとも確かなのは、自分の最寄り駅までのあいだにそのような駅は存在していないということである―――即ち、自分はやはり眠っているあいだに最寄り駅を通過してしまったのだ。


 不味い‼ と、慌てた卓也は電車から飛び降りた。


 すると、まるで卓也が電車から降りることを待っていたかのように、それまで開いていた電車の乗降口のドアは閉まり、電車はゆっくりと動き出した。


 卓也は何となく走り出した電車の動きを目で追うことになったのだが、その後、激しい違和感を覚えることになった。


 というのも、周囲の空間が妙に薄暗いのだ。もちろん、今の時間帯が夜だからというのも関係しているのだろうが、しかし、どう考えても理由はそれだけではなかった。今卓也が立っている駅のホームの真正面—――つまり、さっきまで電車が停車してい箇所が妙に黒々としているのだ。そこには雑木林―――というか、山が存在している。


 俺は眠っているあいだにこんな田舎の駅まで来てしまったのだろうか卓也は一瞬思い、いや、それはどう考えてもあり得ないだろう、と、頭を振った。


 卓也が普段利用している電車はそもそもそんな田舎まで移動しない。始発駅にしたって、そこそこ栄えている。


 だが、現実問題として、正面の空間には山が存在している。それもまあまあ本格的な山だ。山奥とかでないと、まずお目にかかることのないような山だ。あるいは自分が知らなかっただけで、このような場所が普段自分が利用している沿線には実はもともと存在していたということなのだろうか?


 いや、その前に駅名だ。駅名を確認しなければ。

 

 卓也は今更のようにそのことに思い至った。さっき電光掲示板で確認したときは「黒池」という駅名が書かれていたように思ったが、ひょっとしたら何か見間近いをしていたという可能性もあるだろう。本当は自分がよく知っている駅名を読み間違えていたとか。あるいはそうじゃなかったとしても、その前後の駅名から、自分のおおよその現在地が把握できるかもしれない。


 そう思った卓也は、周囲を見回し、駅名が表記された看板を見つけると、そこまで歩いていった。


 その結果わかったことは、さっき電光掲示板で見たものは決して見間違いではなかったということだった。看板には大きく「黒池」と書かれてあった。ちなみに、「黒池」の前の駅が「赤池」であり、「黒池」の次の駅は「緑池」であるらしかった。


 卓也は眉を寄せることになった。「黒池」にせよ「赤池」にせよ、あるいは「緑池」にせよ、全て卓也の記憶にない駅名だった。


 といって、卓也も自分が普段利用している沿線の駅名を全て記憶しているわけではない。従って、単に知らなかっただけということもあり得るのだが―――。


 と、そこまで考えてから、卓也は自分がごくごく単純なことを失念してしまっていたことに気が付くことになった。というのも、スマホがあるのだ。それで調べれば、一発でわかることではないか、と、卓也は内心で苦笑することになった。


 俺は何を寝ぼけているんだと思いながら、卓也はポケットから最近機種変更したばかりのスマホを取り出し、グーグルマップで自分の現在地を調べようとした。


 ところが、奇妙なことに、グーグルマップは動かなかった。何かやり方がまずいのだろうかと思い、何度か同じことを繰り返してみたあとで、卓也はようやく原因を知ることになった。


 圏外なのだ。スマホのアンテナは一本も立っていない。

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