恋人としての朝
「頭……いた~い……」
朝になり、栞奈さんは死んでいた……二日酔いで。
「そりゃあれだけ飲んでたらなぁ」
「うぅ……お母さまはあんなにぴんぴんしてたのに」
ほぼほぼ同じくらいの量を飲んでいた母さんだが、栞奈さんと違ってすこぶる元気だった。
『まだまだ私には及ばないわね栞奈ちゃん!』
酒の強さなんざ何の自慢にもならないが、俺からすれば栞奈さんは十分に飲める方だし強い方だと思う。
むしろ俺が全く飲まないタイプなので、栞奈さんが酒を嗜むのが好きだと言うなら慣れていくのも吝かじゃない……とはいえ。
(……付き合うことになっちまった)
昨晩、栞奈さんと気持ちを伝え合った。
俺が彼女を好きだと思っていたのはもちろんのこと、俺なんかが彼女のような存在に釣り合うわけがないって……まあ今もそれは若干思い続けているものの、今までの栞奈さんとのやり取りを経て俺たちの間に何もないと思うことの方がまず無理だ。
「栞奈さん」
「なに?」
「……付き合うことになったな」
「う、うん……その、凄く嬉しいよ」
ニコッと微笑み、栞奈さんは胸元に顔を埋めてきた。
「俺……初めての彼女だわ」
「私も初めての彼氏だよ?」
「そうなんだ……栞奈さんモテモテだと思うんだけど」
「う~ん、私って学生時代は陰キャだったからねぇ」
陰キャ……まあ確かにダウナーな部分はひしひしと感じるけど、この見た目でモテないことの方が難しい気もする。
完全に贔屓目は入るにしても、俺から見る彼女は凄く可愛いし綺麗だしスタイルも良くて……性格も最高で一緒に居て楽しい……悪い所なんて何一つ見つけられないほどだ。
「……………」
でもそうなると、そんな彼女に俺は……ってやっぱり考えてしまう。
「旭さん……ううん、旭」
「っ!?」
突然の呼び捨てに俺は息を止めた……なんというか、それくらいの衝撃があったんだ。
「旭の良い所、私は沢山知ってるよ? まだ一緒に住み始めてそんなに経ってないけれど、ゴンザレスとして接してきた時からだもん……いっぱい知ってるのに決まってるじゃんか」
「……………」
「結局、私たちがどうしたいかでしょ? 私は旭と一緒が良い……旭はどうなの?」
そんなの……そんなの答えなんて分かり切ってるじゃないか。
「俺も栞奈さんと……栞奈と一緒に居たい」
そう伝えた瞬間、栞奈さんの……栞奈の顔が近付いた。
昨晩と同じ触れるだけのキスをした俺たちは、どちらからともなくクスクスと幸せそうに笑みを零す。
「一緒に居たいって気持ちが大事なんだな……」
「そうだよ、その気持ちが一番大事なの。ふふっ、でも嬉しいな……念願叶っちゃったから」
「念願?」
「もうずっと抱いていた気持ちだよ? 昨日も言った気がするけど、私はゴンザレスとして接している時からずっと好きだったんだもん。だからもう絶対に離れたくない……私の運命の人を一生愛し尽くすんだから」
お、重い……かなり重たい感情をぶつけられている気がする。
けれどやはり嫌ではなく……むしろここまで重たいまでの感情をぶつけられることに感動すら覚えている。
「それに……」
「え?」
「生きる上で大事な部分のお金だって心配の必要は無し! 旭は私の傍でのんびりすれば良いだけ!」
「いやそれは……」
「旭は私の命の恩人だよ? 人生そのものを失っていたかもしれない恩人なんだから、それくらいの恩恵は受けるべき!」
……いや、流石にそれはプライドというか……ダメな気がする。
栞奈の気持ちは変わらないようだけど……まあ確かに、いくら俺が仕事を再開したところで栞奈さんの稼ぎの半分の半分さえ届かないだろうことは分かる。
それだけ彼女は稼いでいて……成功者としての人生を享受している。
「これも前に言った気がするけどさ、何もしてないわけじゃないじゃん。私がこうして今まで以上に活動を元気に行えているのも、傍に旭が居てくれるからだよ? だからこれで良いんだよ」
「……栞奈は男をダメにする典型的なタイプだぞ?」
「別に見境無しじゃないよ……旭だけ」
「……………」
それでも……それでもごめん栞奈。
俺はやっぱりその内何かやるべきことを見つけるよ……社畜感情が染み付いているわけじゃないけど、やっぱり社会人だから働く方が安心するのかもしれない。
「……その顔だと諦めてないよねぇ」
「まあ……」
「そっかぁ……じゃあもう、本格的に旭には働いてもらうしかないか」
「お、おう!」
何かを思い付いたのか、栞奈はこう言った。
「だから私のメンタルマネージャーというか……何をするにも私のサポーターに就職して」
「えっと……それはどうなの?」
「立派な仕事だよ? それに、ショート動画とか撮りたいし基本の生配信以外にも編集した動画をバシバシ上げたいし……そうなると人手が欲しいじゃん?」
「なるほど……それも前に聞いたっけ」
「そそっ、編集って慣れても結構大変なんだよ? それに私とも意見を擦り合わせながら編集できるし、何より仕事なのに可愛い彼女とイチャイチャしながらやれるってこと!」
「……おぉ!」
単純だ……俺って凄く単純だ。
彼女とイチャイチャしながら仕事が出来るってことが、凄まじいまでのメリットであり魅力をこれでもかと感じたから。
まだこのことに関しては完全な返事は出来ないまでも、栞奈の勢いに押されてしまいそうな気がするぞ……。
「とにかく! 今日から私たちは恋人として歩み出すの……私も旭も、新しい日常の開幕になるわけ。だから……楽しもうよまずは」
「……そうだな」
一先ずは、その形でこれからを過ごすことになった。
付き合うことになったのは両親にも伝え、逆に今まで付き合ってなかったのかとツッコミすら入ったものの、しっかりと祝福してもらった。
次は……その内栞奈の両親にも会う日がやってくる。
それを考えると今から胃が痛いし、何なら今までのどんな出来事よりも緊張してきやがる……ふぅ、頑張るしかねえな!
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