今度は彼女の家へ

「あらあら、あなたが旭君!? あなた~! パパ~! 栞奈が旭君を連れてきたわよ~!!」

「……えぇ?」

「ふふっ♪」


 実家から帰った翌日のこと、栞奈のご両親が住んでいる家に顔を出したら大騒ぎに発展した……いやなんでやねん。


「おぉ君が旭君か!!」

「あ、はい」

「君のことは娘から聞いているよ! いやぁ会いたかった!」


 ……とまあ、こんな風に大歓迎されてしまった。

 俺と違って栞奈は事件のことや、俺が助けたことだけでなく……俺が一緒に住んでいることまで伝えているらしい。

 それに関しても今日こうして初めて聞いたわけだが……それ以上にあまりの歓迎ぶりにとにかく驚きしかない。


「思った以上に好青年ね!」

「あぁ……僕たちの娘が選んだだけはある!」

「……………」


 聞いてるだけで恥ずかしくなる言葉に背中が痒くなる……!

 それから色々と言われる中、どうしても頭を過るのは今の俺……絶賛ニートなんですって部分だ。

 まあこれから栞奈に関する仕事に携わるというか、任せてもらうことにはなるんだと思うけれど……それでも、それに関して何も思わないだろうか。


「お母さんとお父さんってば、本当だったらもっと早く旭に会おうとしてたんだよ。でもまだ早いって、もう少し余裕が出来てからの方が良いって私が言ってたの」

「そうだったんだ……へぇ」

「旭もそれで良かったでしょ?」


 うんと強く頷いた。

 別に挨拶くらいなら問題はなかった気がするものの、確かにこうして身の回りと自分のことが落ち着いたからこそな気はしている。

 それからコソコソと話していたことを微笑ましく見られたりして恥ずかしかったが、お二人の名前を教えてもらい自己紹介を終えた。


「職業柄あまり出会いはないって言ってたけど、こうしてちゃんと恋人を連れて来てくれて嬉しいわ」

「しかも栞奈にとって心から大事に想う人だからな……それに二年前から偶然にもやり取りをしていると聞いた。凄くロマンチックじゃないか」

「はい……その、栞奈とは本当に仲良くさせていただいています」

「そうだよ。すっごく仲が良くてラブラブなんだから」


 ギュッと、栞奈が俺の腕を抱きながらそう言った。

 うちの両親の前でもそうだったけれど、栞奈はこうやって他者に見せ付けることが多い……?

 これに関しては俺自身も凄く嬉しいし、この独占欲のようなものを心地良くも感じる……つまり俺も彼女が大好きってことだ。


「突然こうして時間を作ってもらって、その初めてが交際の報告というのも最初は不安でもありました。けれどこうして温かく迎え入れてもらったこと、本当に嬉しいです」


 そう言って頭を下げれば、すぐに返事が来た。


「頭を下げる必要は無いわ。むしろそうなってくると私たちの方が頭を上げられなくなるもの」

「そうだぞ。だからどうか頭を上げてくれ」


 ……そうだな、そこまで言われたらそうしよう。

 今のやり取りである程度は俺の人物像が分かったらしく、栞奈を交えて話はとにかく弾んだ。

 その上で言うなら栞奈の母である明乃あけのさんと、父の義男よしおさんは俺の両親と雰囲気が似ていることが分かった。


「今思ったけど、うちの両親と旭のご両親似てるよね」

「あ、思った?」


 どうやら栞奈も同じことを思ったらしい。

 ただそうなってくると明乃さんも義男さんも、うちの両親に会ってみたいという話になり……何やら凄まじい勢いで互いの親同士が会う日も決まりそうだ。


(それにしても……こんな風に打ち解けるなんてなぁ。雰囲気が似てるのもそうだけど……あれ? 何が更にそう思わせるんだろうか)


 それに関してはしばらく分からなかったが、デジャブというか……おやっと思う話をその後に聞いた。

 それは栞奈と義男さんがあれやこれやと話している時、俺は明乃さんと離れた場所で会話していた……まあ明乃さんが作ってくれたお菓子の味見をしていただけなんだが。


「それにしても……ふふっ」

「どうしたんですか?」

「いえね……あの子があんなにも誰かに夢中になっていることが嬉しいって思ったのと、流石義男さんの娘だなって」

「?」

「義男さんも昔、私のことを絶対に離さないからって愛を囁いてくれたのよぉ♪ 当時はちょっと怖いなって思う部分もあったけれど、あんなに強く口説かれた結果が今なら全然構わないわ♪」

「……………」


 そう……俺がおやっと思ったのはこのことだ。

 まるでうちの両親が正反対になったような……とにかく、義男さんの熱烈なアピールに明乃さんは最終的に落ちたのだと嬉しそうに教えてくれたのだが、こう言うと彼女たちは怒るかな?


(顔を寄せて話している栞奈と義男さん……まるで悪の秘密結社がニタニタと悪だくみをしている雰囲気があるぞ……)


 まるで黒いオーラが見えるような……そんな気がする。

 とはいえそれを俺が指摘するようなことは当然なく、義男さんとも良い関係を築けるに至った。

 その後としては俺の実家と同じように、今度は俺がこちらに泊まることになって……栞奈がずっと使っていたとされる部屋にもお邪魔し、知らなかった彼女のことを沢山知れる素晴らしい機会となった。


「おぉ……っ!」


 ちなみに、夜に見せてもらったのは栞奈の過去を映した写真だ。

 栞奈は学生時代の自分を陰キャだと言っていたけど、確かにそれを少しばかり感じさせる風貌だったのはそうだが……正直なことを言えば、もしも傍に居れたら間違いなく告白していたくらいには可愛い顔をしていた。

 それを伝えると栞奈は更に惚れ直したと言って抱き着いてきて……とにもかくにも、熱い夜を過ごすのだった。

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