色々と栞奈さんぶっちゃける

「お茶です……」

「ありがとうございます……」


 まだ栞奈さんの配信が続く中、ホラゲ配信を終えて寝れなくなった朝倉さんが部屋にやってきた。


「いやぁやっぱり誰かが傍に居るのは安心するねぇ!」

「その様子だと……今日はこっちに泊まるのかな?」

「うん! もう帰れないし! というか本当はもう一人の子のとこに行こうと思ったんだけど、そっちはそっちでお泊まり配信に行っちゃってるから留守なんだよ」

「へぇ……」


 もう一人の子……つまりまだ会ってないシトリスの子かな?

 というかお泊まり配信に行っちゃってるって……確かそれ、三期生の子がそうじゃなかったか?

 彼女の言葉から完全に察してしまったし、俺としても最後の一人が誰なのか分かってしまったけど……まあ特に言及することもないか。


「ほんと……シトリスのみんなは仲が良いんだな?」

「そりゃあねぇ。後輩がどんどん出来たとしても、今までに仲が良かった誰かとの時間が減るわけじゃないし……ま、小さな喧嘩は時々あるくらいだけど基本的には仲が良いよ」

「……不仲説とか囁かれるもんなそれで」

「あぁあるある! やっぱ人数が多いとそれだけファンも多くなるし、そうなると同じ箱だとしても対立煽りみたいなのをする人は出てくるから」

「それ……面倒そうだよなぁ」

「だよねぇ。アンタらがこっちの何を知ってんだって言いたくなるけど、それはそれで指摘したら面倒になるしね」


 やはり配信者である以上……そして企業に所属するからこその悩みというか、そういうのは多いようだ。


「でも結局、そういうの言ってるのは一部だから放っておけば小さくなって誰も見向きしなくなるよ」

「だな」

「でも少ないからこそ目立つってのも困ったところだけど」


 そこまで話したところで、朝倉さんは目を輝かせながらこう言った。


「ところでさ、どんな風に栞奈と過ごしてるか教えてよ」

「どんな風にって……普通だけど?」

「若い男女が一緒に住んでて普通なわけないでしょうが」


 そう言われると……確かに普通じゃないよな。

 栞奈さんと過ごすようになったきっかけも、そこから今に至るまでの流れも普通じゃない……むしろ異常と言えるかもしれない。

 それでも俺は……今の俺はこの生活を気に入っている。

 流されるがままな部分もあるけれど、栞奈さんの傍に居られること……そしてそれを彼女が喜んでくれることが嬉しいんだ。


「そうだな……栞奈さんとは――」


 そこから聞かれても特に問題のことは伝えた。

 流石に一緒に寝ていることなどは言ってないが……それでも朝倉さんは話を聞く間ずっと楽しそうにしていたので、俺としてもポロッと口が滑らないか不安だった。


「……友川さんから聞く栞奈凄く楽しそうだね……でも、配信終わりに栞奈とやり取りしてるからよく分かってるんだけどねぇ」

「分かってんのかい」

「そりゃあね! でも栞奈が友川さん……男性と一緒に過ごしているのを知ってるのは今のところまだあたしだけ。前も言ったけど、くれぐれも気を付けるように!」

「はは……分かってる」


 そんな風に笑い合っていると、ようやく栞奈さんの配信が終わった。

 朝倉さんと話をしている間もスマホで配信は流れ続けていたので、その終わりにもすぐ気付けたというわけだ。

 しばらくするとふぅっと息を吐きながら栞奈さんがリビングへ。


「お疲れ様栞奈さん」

「お疲れ栞奈~」

「ありがとう旭さん、真衣も」


 栞奈さんは冷蔵庫からペットボトルのジュースを取り出し、ゴクゴクと喉を鳴らして飲んだ。

 そして、俺と朝倉さんの間に座るようにして腰を下ろした。


「わお、普通に分断してきたね栞奈」

「当然。旭さんの隣は私の場所だから」

「ひゅ~♪」


 栞奈さんはそっと手を重ねてきた。

 少しばかりの汗ばんだ感覚は、今まで彼女がずっとマウスを握っていた証でもある。


「……ほんと、仲良いよねぇ」

「仲が良いのは当然だよ。ね、旭さん?」

「あぁ」


 ……こういう状況で頷くのも恥ずかしいもんだ。


「それで、ホラゲをやって寝れなくなっちゃった真衣ちゃん」

「ちょっと! その通りだけど言い方!」

「……でも気持ちは分かる。あのホラゲはマジで怖いらしいし」


 朝倉さんがやったホラゲだけど、俺も何のゲームかは知ってる。

 時代的には昭和というか……その辺りの恐怖伝説みたいなのを追体験するようなものだ。

 俺も多くの配信者がそのゲームを実況する動画を見たけど、どんな配信者も恐怖を感じていた……それだけ凄まじいほどのホラゲーなのである。


「栞奈もやってよ。絶対怖いから!」

「怖いって言われてやりたくないでしょが」

「ネタバレ踏んでないんでしょ?」

「うん」

「じゃあやろう!」

「……………」


 そこで栞奈さんはチラッと俺を見た。


「……旭さんが後ろから私を抱きしめてくれていたらやっても良い」

「良いじゃんそれで。やろう!」

「いや無理でしょ!」


 そんなんバレるに決まってんじゃん!

 流石に本気じゃないのはもちろんだったみたいだが、栞奈さんの目が一瞬本気だったのは……どうなんだろうか。


「ま、今日は一緒に寝てあげる」

「ありがとう栞奈!」

「旭さん……えっと」

「あぁうん、俺はここで寝るよ」

「ごめんね? また明日から一緒に寝よう」

「……ちょっと、二人とも一緒に寝てるわけ?」


 あ……。

 ハッとした俺とは別に、栞奈さんは全く慌てていない……詳しいことはベッドで話すと言って寝室に二人とも行ってしまったけど……明日になってどんなことになっているのか非常に気になる。


「……俺も寝るか」


 その後、俺も眠りに就くのだった。

 ただ……寝る前にホラゲの話をしたせいか、実況動画で見ていた例のホラゲを夢に見てしまい、しばらく眠れなくなるのも困ったことだった。

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