風邪を引いてしまった彼女

:休み明けてからざみさんめっちゃ元気になったなぁ

:喋り方とか変わらないけど、確かにそれはあるかも

:彼氏でも出来たんじゃね?

:止めろ

:彼氏居たら反転アンチになるわ

:草 別に彼氏作っちゃいけないわけでもないのにキモすぎ

:スパチャもらってる時点で彼氏とか作るべきじゃない

:それこそ意味分からんやんけ

:つうかざみさんその辺しっかりしてそうだし仮に居ても隠すだろ



「……なんか盛り上がってるな」


 そう思ったのは、時刻いろはの雑談配信……そのアーカイブに残されたコメントを見ていたからだ。

 最近、何かと栞奈さんの身辺に変化があったんじゃないかと推測するコメントがあまりにも多い……そんなに気になるのかなと声の出し方を確認しても、特に変化は感じられないけどなぁ。


「そう思うのは俺がずっと彼女の傍に居るからかもだけど」


 しばらくコメント欄を眺めていたが、俺は自分のすべきことを思い出して作業に戻った。


「……ふぅ」


 今日、朝から俺がやっているのはリビングの掃除だ。

 もちろんリビングだけでなく、廊下や寝室……はダメとして、それ以外の場所も出来るところは綺麗にしていくつもりだ。


「まあ全然綺麗だけど、一度掃除を始めたら納得するまで止められねえ」


 鼻歌を口ずさみながら床を拭いていく。

 いつもなら話し相手である栞奈さんが居るはずなのに、彼女の声がないだけであまりにも静かだ。

 若干の寂しさを抱きつつ、昼まで掃除を続けた。


「よしっ、続きは飯を済ませてからだな……」


 一旦掃除を中断し、昼食の準備を開始した。

 と言っても作るのはお粥と……リンゴはまた三時くらいに持っていくとするか。


「栞奈さん、入るよ」


 俺と栞奈さんが使っている寝室……そこに俺はお粥を手に入った。


「……旭さん?」


 額に熱さまシートを貼り付けた栞奈さんが横になっていた。

 そう、彼女は風邪を引いてしまった……昨日は全然元気だったし、いつものように配信もしていたんだが……今朝になっていきなり体調が悪くなってしまったのである。


「お粥作ってきたよ」

「あ、ありがとう」


 良いんだよと、そう言って彼女の傍へ。

 体を起こした彼女からぐぅっとお腹の音が鳴り、恥ずかしそうに顔を伏せたが朝から何も食べてないので仕方ない。


「お粥だとあまり腹は膨れないだろうけどさ、やっぱ何か食べた方が良いと思ったから」

「そうだね……凄く助かるよ」


 ちなみに彼女の熱は三十八度……そこそこ出ていることになる。


「……食べさせて?」

「……うっす」


 彼女の要望通り、零れないように気を付けながら食べさせた。

 お粥なんて特に美味しいはずもない……とは言いたくないけど、普通の料理に比べたらあまりにも味は薄く食べた感覚はそこまでだろう。

 それでも彼女は美味しいと、作ってくれたことが嬉しいと言ってくれたのが嬉しかった。


「夜はもう少しお腹が膨れる物を作るよ。今よりもっと良くなることを祈ってるから」

「ありがとう旭さん……でも熱は下がったから。無理は禁物だけどもう少し寝たら良くなりそうかな」

「そっか、なら良かった」


 しっかし……こう言っちゃダメだけど、熱を出して弱った栞奈さんはいつも以上に幼く見える。


「……夜、どうする?」

「……あ~」


 どうすると言ったのはどこで寝るかというものだろうか。

 確かにここで一緒に寝たら十中八九風邪をもらってしまうだろう……それなら別々に寝るのが当然になるわけで、でもベッドはここしかない。

 ズーンっと落ち込んだ栞奈さんはこう言った。


「私……こういうことがあるのも分かってたのに、それなのにベッドを用意してなかった弊害が……あぁっ!!」

「か、栞奈さん!?」


 髪をクシャクシャにするように栞奈さんが荒ぶり、その影響でゲホゲホと咳をしてしまう。


「それに関してはまた考えるとして、リビングで寝るよ。あのソファの上ってめっちゃ寝やすいし」

「……ごめんね?」

「謝らなくていいよ。でも安心した……思ったより栞奈さんが元気になったみたいで」

「それはそうだけど……でも一番は風邪なんて引かない方が良いけど」


 誰も風邪とか病気になりたくてなるわけじゃないし、栞奈さんも体調には気を付けていてこれなんだから仕方ない。

 喉を使う仕事みたいなもんだし、そこに直結するものを気を付けないわけがないんだから。


「でも……ふふっ、こういうの良いよね。本当だったらこうして風邪を引いても一人で治るのを待つのが普通だったから」

「……俺の存在は助けになったかな?」

「なったよ……凄くなってる」


 あぁ……その言葉が聞けるだけで俺は嬉しいよ。


「また三時くらいになったらリンゴ剥いてくる」

「ほんと? ……あの時と逆だね?」

「そうだなぁ……美味しいの買ってきたから」

「ありがと♪」


 それから数分話をした後、寝室を後にした。

 栞奈さんには悪いけどこうやって誰かの看病をするというのも初めての経験で……存外悪くない気分だった。

 やはり誰かのために出来ることをするのは楽しいし嬉しくなる。


「……さてと、それじゃあもっと部屋をピカピカにさせちゃうぜぇ」


 こうなったら今日はとことん掃除に費やしてやろう。

 それで彼女からもらえるありがとうの言葉を原動力に、そんな単純なご褒美を求めて俺は頑張るのだった。



【あとがき】


そこまで続かないので、もう少し頑張ります!

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