第42話

「なるほど...... アシュテアからの手紙か」


 そう銀色の狼のような女性が静かに手紙をうけとる。 ぼくたちは城へと入り、領主であるサイゼルスさまにあっていた。


(サイゼルスさまって女性だったのか...... なんか凛としててかっこいいな)


 アシュテアさまの手紙の封を切り目をとおす。 そしてため息をついた。


「ゴールデンバードの上空通過を認めよ...... か。 自ら来ればよいのに、それでそこにいるのがゴールデンバードか」


 そうサイゼルスさまは鋭い目でこむぎをみる。 


「ピィ......」


 すこしこむぎは怖がり、ぼくの後ろに隠れた。 そしてサイゼルスさまはぼくのほうをみた。


「ええ、こむぎはヒナですが、ゴールデンバードは言葉を理解し、長とも話をしていますので安全です」


「......それは私も聞いたことはある。 しかし今領民は特にモンスターに神経質でな。 不安を覚えていて説得も難しい......」


「ええ、深域が広がっているとききますが、なにもされないのですか」


 アスティナさんが聞くと、サイゼルスさまは困った顔をした。


「......正直モンスター以外の対応に人材が取られていてな。 そちらまで手がまわらん。 何せ一度兵をだしたが、そのモンスターが厄介すぎて手におえん」


 サイゼルスさまはため息混じりにそうはなす。


「そのモンスターとは?」


「ヒュドラという不死のモンスターだ」


 ぼくたちは顔を見合わせた。


「あの、そのヒュドラを倒せたらゴールデンバードの通過を認めてもらえますか」


「それで深域を縮小できるから、かまわんが危険すぎる。 たった二人なんて死ぬつもりか」


「傭兵を雇うので大丈夫です」


 ぼくたちは納得しないサイゼルスさまを、なんとか説得して許可をえた。



「ふふっ! まさかヒュドラとやりあおうとはな」


 ブレストさんがそういった。 次の日、ブレストさんたちに集まってもらった。


 サイゼルスさまにあった昨日、ぼくたちは城からでると町のギルドにいって、ブレストさんを雇った。


「しかし、ヒュドラとはな......」


「腕がなりますね」


「それより大丈夫か......」


 そうディーラさんがこちらをみている。 いや正確にはサイゼルスさまみみてだ。


「サイゼルスさま、やはりついてくるのは......」


 そうブレストさんは困惑して言う。


「お前たちだけを死地に送るわけにもいくまい。 私のことは心配無用だ」


 鼻息荒くサイゼルスさまはいった。


(まあ、ヒュドラなら倒したことがあるし、ぼくとしては戦っている間のこむぎの護衛を雇いたかったんだけど......)


「でも、護衛も二人だけなのは少なくないですか」


「かまわん。 先をいくぞ」


 そういうとサイゼルスさまは歩き始める。 ぼくたちもあとにつづく。


「ほとんどのものは盗賊と隣国の対応に向いてるですよ」


 スクワイドさんがそういった。


「隣国? エクロートとは友好的だろう」


 アスティナさんが首をかしげる。


「この国そのものはな。 だが我々は亜人だ。 エクロートのやつらとは昔から対立してきた。 最近、国はエクロートとここの領地を巡って密約がなされたのではという噂すらでてきた」


 ディーラさんはそういった。


「王女がそんなことしませんよ」


 王女の気性をしっているぼくが反論した。


「まあ、王女じゃなくても、力のある貴族なら考えられる。 亜人より人間と組む可能性があるとな...... 王女も貴族を完全に掌握しているわけじゃないだろう」


 リエルさんがそう返した。


(そうか人間への信頼が揺らいでるからか)


 ぼくたちは森へ入っていった。



「この先にヒュドラがいるという。 だがどう戦う?」


 サイゼルスさまが聞いた。


「ヒュドラと戦って倒したことがあります」


「なっ!? 本当か!」


 皆が驚いた。


「ああ、私もみていた。 ヒュドラの首を持って帰ったからな」


「ヒュドラは切っても切っても再生するはず、どうやってたおしたのだ」


 サイゼルスさまがそう聞く。


「真ん中の不死の首だけ切り落とせば、胴体は再生しませんから」


「なるほど、不死なのは真ん中の首か...... しかし簡単ではあるまい」


「そうですね。 他の首が襲ってきますし、ぼくは空中から首を切り落としましたが、同じ手が通じるかはわかりません」


「トール、お前は親書を届けた上に、そんなことまでするということはアシュテアの部下なのか?」


 サイゼルスさまは不思議そうにきいた。


「いえ、パン屋ですが、頼まれて...... ヒュドラも深域の土地をもらうときにいたもので......」


「お前もアシュテアには困らせられたのだな」


 そうサイゼルスさまは笑う。


(相性が悪いといっていたけど、そうでもないのかな)


 ぼくたちは黒い魔力を追って奥へと進む。

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