第40話

「ここが、ベライドか」


 草原が長く続く道を馬車でいく。 心地よい風が吹いている。


「ピィピィピィ!!!」


「あわてて落ちないでよ、こむぎ」


 久々のお出掛けで興奮気味のこむぎを隣にのせ領内にはいった。


「でも、あの門にいた屈強な獣人は怖かったな」


 そうアスティナさんは後ろの荷台でパンを食べながらいった。 ゴールデンバードの診察をして、話をしたらなぜかついてきていた。


「アスティナさん。 亜人ってなんなんですか?」


「亜人...... そうだな、亜人は人間とは少し魔力がモンスターよりだ。 そのことから昔は魔族と呼ばれていた」


(確かに少し濃い魔力だった...... モンスターほどじゃないけど、どっちかというと動物的な感じか)


「じゃあ、モンスターは」


「何か素体があってその素体に魔力が宿り、変容したのがモンスターだ」


「なるほど」


 説明をうけてすこし疑問がとけた。


「ほらみえてきたぞ」


 大きな町がみえてきた。 


 そこで馬車を降りた。


「へぇ、あまり人間の町とはかわりませんね」


「まあ人との交流もあるし、技術や文化の流入もあるからな」


 ただ周りの亜人たちはこちらをジロジロみている。


「ただ視線を感じます」


「人間もいるから、多分お前とこむぎだろう」


「ピィ!!」


 こむぎが何かを見つけた。 店先にいい匂いのする湯気のでてる白い丸いものがある。 どうやら蒸し物みたいだ。


「これなんですか」


「ああ、ルクサ、蒸した米粉の食べ物さ。 まあたべてみな」


 そういっておじさんが一個ずつくれた。 こむぎにも渡す。


「うまい!」


「うむ! 中はお肉と野菜の香辛料で炒めたものはいってるな!」


(これは饅頭みたいなものか。 惣菜パンのアイデアとしてはいいな。 今チーズの入ったものぐらいしかつくってないけど、米粉もパンがつくれるはず......)


「ピィピィ!!」


 こむぎも両翼でもつと、おいしそうにたべている。 


 数個、ルクサを買う。


「それで、あんたらどこ行くんだ? 観光か」


「ここの領主サイゼルスさまに会いにきたんです」


「サイゼルスさまに? そうか、ただこの先盗賊がでるっていうから気を付けな。 できるなら、あそこの店で傭兵を雇ったほうがいい。 観光客や商人は特に狙われてるからな」


 そう店のおじさんは親切にいった。


「わかりました。 ありがとう」



「盗賊か...... 傭兵を雇いましょうか」


「そうだな。 かってのわからないところだ。 ここの地理や内情に通じてる地元のものの方がいいな」


 ぼくたちはおじさんに教えてもらった店にはいる。


 中は武器を携えた屈強なものたちがいた。


「ここは傭兵ギルド、傭兵が必要ですか」


 カウンターに向かうと、鹿のような角をもつお姉さんが応対した。


「ええ、ルグエイダまで」


「わかりました。 ベテランから新人までいますが、どのかたにしますか?」


 そうリストを見せてくれた。


「やはり、ベテランは一人はほしいな」


「それならば俺に任せろ」


 そう豪快そうな大柄な虎のような獣人が後ろから話しかけてきた。


「そのかたはブレストさん、ワータイガーでかなりの腕前をもつベテランです」


(この中で一番魔力が多いな......)


 周囲をみると、一人だけずば抜けている。


「わかりました。 ブレストさんお願いします。 あとお知り合いを何人か集めてもらえますか」


「わかった。 昔からの知り合いを集めておこう。 今日は日もくれる。 明日出発でいいか」


「はい、ではぼくたちは宿に行きます」


「ああ、明日の朝、ここにきてくれ、それまでに用意しておこう」


「はい」


 次の日約束どおりギルド前にくると、屈強な三人の亜人がいた。


「おはようございます」


「ああ、この三人は、リザードマンのリエル、バードマンのスクワイド、オークのディーラだ」


「よろしく!」


「任せておけ!」


「無事送り届けましょう」


「お願いします」


 ブレストさんの操る馬車の荷台にのり、領主のいるルグエイダへ向かった。


「それにしても珍しい。 ゴールデンバードの雛ですか」  


 鳥のような頭と羽をもつバードマンのスクワイドさんは、そういってアスティナさんと遊ぶこむぎをもの珍しげにみている。


「ピィ」


「ええ、ぼくたちはゴールデンバードと暮らしてるんです」


「ほうモンスターと暮らすなど、おれには考えられんが......」


「ディーラ、ホーリーモンスターを飼ったりするものはいる。 亜人はあまりしないがな......」


 爬虫類のようなリザードマンのリエルさんと、豚のようなオークのディーラさんはそういって話している。


「皆さんは傭兵ということですが、そんなに物騒なんですか」


「まあな。 経済が落ちてるのもあるが、深域が広がってるからだな」


 ブレストさんはそう厳しい顔をしていった。


「深域が...... どういうことだ?」


 アスティナさんが聞いた。


「モンスターが増えてるんだ。 隣国タルタニアが起こしたいくつかの戦争で大勢、人が死んだからだろう」


 ディーラさんが不快そうに行った。


「......戦えば、憎しみや苦しみ、悲しみなど破壊的な魔力でイビルモンスターが生まれますからね」


 スクワイドさんはうなづきながらそういった。


「魔力が近づいてきます...... 待ち伏せかも」


「本当か?」


 ディーラさんがきいた。


「おい......」


 ブレストさんのその声はさらにみんなを緊張させた。

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