第39話

「かなりできたね」


「ピィ」


 ぼくはパンをもち、ゴールデンバードの住みかをこむぎと見にきた。


 多くのゴールデンバードが空をまい、くつろぎ自由にしている。 雛たちはそこかしこを楽しそうに走り回っている。


「どうやら、落ち着いたみたいですね」


 パンをゴールデンバードたちに配りながら、グミナスさんと話をする。


『ええ、飲み水などは確保していただいたうえ、大きな屋根のある暖かい寝床もあり、とても暮らしやすいです』


 そうグミナスさんは穏やかに話した。


「こむぎもここにきたかったらいつでもこれるし、良かった」


「ピィ!」


 こむぎは嬉しそうにパタパタしている。 


「そういえば、アシュテア王女もみにくるっていってたんですが、きてませんか」


 見回しても作業する人しかいない。


『あっ、あの、それは......』


「いるわよ」


 そうグミナスさんの羽毛の中から現れた。


「王女! どこに入ってるんですか!」


「いいじゃない。 ゴールデンバードは雛だけじゃなく、大人も柔らかなの、この滑らかな絹のような肌触り」


 うっとりするように王女は羽毛をさわっている。


「この抜けた羽、枕や寝袋、衣料品など多用につかえますよ。 これならゴールデンバードさんたちの暮らしにも役立ちます」


 そうリディオラさんも羽毛の中からでてきた。


「リディオラさんまで! グミナスさん困ってるでしょ!」


「いいじゃない」


「ぴぃ」


 そういうと、王女はひときわ小さなひなをだいていった。


「もう、それより輸送のほうはうまく行ってるんですか」


「ええ、港町サンセスタ、ガルバインさまの領リンブラント、そして他国に輸送可能です。 ただ......」


 そういいかけ、リディオラさんは困ったような顔をしている。


「ただ?」


「ガルバイン領、以外にも問題がある領は他にもあるのよ」


 ひなを撫でながら王女は真剣な顔をした。


「えっ? 他の貴族ですか。 でもそれはガルバインさまが調整しているって......」


「いいえ、貴族だけじゃないの。 亜人の問題よ」


「亜人、ああぼくのような」


「ええ亜人は人間とうまく共存できてないの」


「でも、町にもうちの店にも亜人はいますよ」


「......ええ、互いに積極的に融和しようとしている者もいます...... しかし互いに敵視するものたちも多くいるのです」


 悲しげにリディオラさんはうつむく。


「人間だって対立はあるんだから、見た目の違う亜人たちとは対立がないほうがおかしいでしょ」


 王女はそういってため息をついた。


「それは、そうですが...... モンスターの脅威や経済の問題もあるから、必然的に協力的なんだとおもってました」


「そう簡単じゃないの...... こころの問題だからね」


「元々亜人たちはかつて【魔族】と呼ばれ、近年まで戦争もしていました。 いまだ他国には亜人をいれない人間の国、人間をいれない亜人の国もあるそうです」


(それほどの確執があったのか......)


「比較的融和的なうちの国だって、100年前は亜人との共存はしてなかったわ。 そもそも比較的最近のことなの共存って関係がね」


「そうなんですね......」


(モンスターや貴族のこと、パン、こむぎのことで一杯一杯で、この世界のことはよく理解してなかったな)


「それで、亜人の領地があるということですね。 そことなにか問題があるんですか」


「ええ、そう...... ベライドという土地に、【サイゼルス】という【ウェアウルフ】の領主がいるの。 でも私とは相性か会わなくて...... 昔はよくあっていたけど、今は疎遠なのよ」


「そこが友好国【エクロート】のそばにあるのですが、その上空を飛ぶことを禁止してきたのです」


「それはやはり モンスターが危険だからということですか」


「ええ、それもあるんでしょうけど、私たちとの感情的なしこりなのでしょうね」


「だとすると、他の国への輸送に手間がかかりますね」


「かなり遠回りになり、時間がかかります」


 リディオラさんが眉をひそめる。


「......とはいえ王女の命で強制すると反発しかねないしね。 穏便にすませたいのだけど」


(ガルバインさまから強権は使うなといわれているからか......)


「そうだ! ちょっとトール、私からの親書を渡しにいってくれない」


「どうしてぼくが?」


「私だと問題になるから、君は人たらしでしょ」


「それはそうですね」


 リディオラさんとグミナスさんもうなづく。


「ひとたらし...... いつからそうなったんですか」


「ケットシーはネコなんだから、なんとか懐柔してみて、それにこむぎと旅でもしてきなさい。 店は任せられてるんでしょ」


「うーん」


「ピィ!!! ピピ!」


 こむぎは跳び跳ねている。 どうやらお出掛けを察して喜んでいるようだ。


(まあ、こむぎには大分寂しい思いをさせたからな。 旅に連れていくか)


「わかりましたが、成功するとお約束できませんよ」


「ええ、でも君なら大丈夫、期待してるわ」


 そう勝手なことをいうと、王女はヒナを抱きしめグミナスさんの羽毛に埋もれていった。

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