第38話
「はっ! こむぎ!」
ぼくがとびおきるとベッドに寝ていた。
「起きたか......」
そこにはアスティナさんがいた。
「ここはどこですか...... いやそんなことよりこむぎは!?」
「あそこだ」
窓の外にグミナスさんが座っていて、その足元にこむぎが横になっている。
「こむぎ! うっ、こむぎ!」
「おい、まて!」
よろけながら外にでてこむぎをみる。
『大丈夫、魔力を失って眠っているだけです。 あなたたちをアスティナさんのもとに連れてきました』
「そ、そうですか、はぁ...... うっ」
立てられず膝をついた。
「ばか! お前のほうが危険なんだ! 魔力を放出して死にかけていたんだぞ。 まだ魔力は回復してないから、ねとけ!」
そう怒られると、そのままへたり倒れた。
「おい! しっかりしろトール! おい!」
それから次の日、こむぎをそばでみる。 こむぎはずっと眠ったままだ。
「まだ寝ている......」
「お前と同じだよ。 限界近くまで魔力をだしたんだ。 すぐ回復したのはお前が異常なだけだ」
「そうなんですか」
『それで、このあとどうされますか......』
そうグミナスさんは、こむぎを翼で優しく撫でている。
「それなんですが......」
(身勝手だけど、考えていたことを伝えよう)
「ぼくはこむぎと暮らしたいと思っています」
そういうと、グミナスさんは目をつぶる。
『そういわれると思っていました......』
「......すみません。 わざわざ預けておいて勝手なことを」
『いえ、この子は我々と暮らすより、あなたと暮らすことのほうが良かったのでしょう。 あそこに押し込めてもまた逃げ出してしまう。 今度は命を落とすかもしれない......』
そう悲しげにいった。
「あの、ぼくなりにゴールデンバードを調べてたんですけど......」
『ええ、それがなにか......』
「元々ゴールデンバードは、あんな雪山に住んでいたわけではないですよね」
『はい、はるか昔、我々はその特異な生態と魔力量ゆえ、人間たちの大きな戦争に利用されていました。 それを避け、人のこないあの雪山へと逃げたのです』
「ええ、それでこちらに移住しませんか」
「なっ!? トール何をいっている!」
アスティナさんは狼狽している。
「ゴールデンバードの住処までいったとき、こむぎに比べて子供たちが少し小さい気がしたんだ。 羽に艶もなかった。 もしかしたら栄養が足りてないのかなって」
「そういえば...... 確かにそうだったな」
アスティナさんが思い出したように答える。
『......あそこは過酷な環境です。 寒さゆえ食物もあまり育たず、魔力を放って魔力の壁をつくり続けなければ、長期間耐えることはできません。 しかし人間の世界に、我らの場所などもはや......』
「ぼくは広大な土地を手に入れました。 あそこならゴールデンバードの群れがすめるはず、もちろん国の許可がいりますが...... あっ!」
「ピィ?」
こむぎが目を覚ます。
「こむぎ!!」
「ピィ!!!」
「ごめん...... 勝手なことして...... こむぎの気持ちを考えてなかった......」
「ピィ......」
ぼくがそばで謝ると、こむぎは翼でやさしくぼくを包み、寄り添ってくれた。
『......そうですね。 人間の許可が得られたなら、そこで移住してもいいかもしれませんね。 皆に話してみましょう』
グミナスさんはそういうと、ぼくとこむぎを翼で包んでくれた。
「いいわよ」
店にきたアシュテア王女があっさりそういった。 ぼくは王女にゴールデンバード移住の話をしていた。
『ありがとうございます王女、皆に話したところこちらにきたいとのことです』
「ええ、ただ少し働いてもらいます」
「いや、王女! ゴールデンバードは......」
「知ってるわ。 かつて人間がひどいことをしたんでしょ。 古代の国家がゴールデンバードを使っていてのはしってる。 でも共存には互いに助け合いが必要よ」
『確かに......』
「ええ、一方的な加護や依存は、傲慢や驕りをうみだし、他方では卑屈さや反発も生むわ。 だから対等な関係が必要、ゴールデンバードには物資の輸送を頼めるかしら」
『ええ、我らは対等であるならばかまいません。 その役お受けしましょう』
「これで決まりね。 食品などの輸送が早まれば、国民や国外にも食料がいきわたるわ」
「確かに、魚などは遠くまではもっていけませんでしたし、かなり広範囲への配達が可能ですね」
リディオラさんがそう喜こぶ。
『それではよろしくおねがいしますね』
ゴールデンバードたちの移住が始まった。
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