第36話

 取りあえず、さきにミネルバさまの洗脳を解くため、リディオラさんにはお説教はまってもらった。


 城へとつくと王女が手に入れた封魔の指輪をつかう。 指輪が輝くと、ゆっくりとミネルバさまの目が開いた。


「ん...... ここは、お兄様」


「ミネルバ......」


 ガルバインさまがミネルバさまを抱きしめた。


 

「そうですか...... 私は洗脳を...... うっすらと記憶があります。 だがじぶんの意思ではどうしようもなかった...... もうしわけないトールどの」


 ミネルバさまはそう頭を下げた。


「いえ、操られていたからしかたないです」


「それでミネルバ、あなたを操っていたものは」


「......王女殿下、あれはダレス。 そう父と母を殺し私をさらった......」


「やはりダレスか......」


 ガルバインさまが拳をにぎる。


「私をさらおうとしたが、母に抵抗されたため殺された。 何か杖を探していたわ......」


(......杖、やはり魔法道具が本当の狙い......)


「まずはガルバイン、ミネルバ、戦争を止めるわよ」


「ええ、わかりました」


 こうしてガルバインさまとミネルバさまは領内に戻り、本物と確認され兵は城にもどされた。 しかしダレスはすでに逃走しておりその姿はなかったと早馬がきてしらせられた。


「ふぅ、これで戦争は回避されたわ」


「そうですね」


「ええ、ではお二方、まずはあなたたちからです......」


「えっ?」


 魔力の高なりを感じる。


 リディオラさんがこちらに怖い微笑みを向けていた。



 そして、こってりリディオラさんに絞られたぼくは、店で待機していた。


「はぁ......」


 疲れた顔をしてガルバインさまが入ってきた。


「おつかれさまです」


「ああ」


「王女は?」


「今もリディオラどのから、お叱りをうけている途中だ。 俺はさきに解放された......」


 ぐったりとして椅子に座る。


 ぼくはお茶をだす。


 今後のため王都にきていたガルバインさまも、リディオラさんに捕まったらしい。


「ありがとう。 いつもあんな感じか」


「ええ、やらかしたときは大体...... まあ、王女はほぼほぼ毎日らしいですが」


「そうか、なかなか王女も大変だな」 


 そうガルバインさまは苦笑する。 


「それでダレスはいなくなったんですよね?」


「ああ、姿を消していた。 屋敷ももぬけの殻だ。 元々奴の挙動には気を配ってはいたが...... 出し抜かれた」


「怪しんでいたんですか」 


「うむ、不穏な噂も聞いていた。 かつて領内に起こった奇病を治したとして、父が重用したが...... 私はあまりにも都合がよすぎ、少し妙だとは思っていた。 裏路地であったことがあるだろう。 その時は奴を探っていた途中だった」


「ああ、あのときですね...... やはり杖を盗んだのは」


「間違いなく奴の手の者だろう。 この間の賊はとらえているが、皆洗脳されていた。 王女が指輪で解いたが、本人たちはよくはわからんらしい」


「最初からこの事が目的だった......」


「それならば王女に鍵を開けさせるため、我が国に潜伏したということだ。 しかも数年もかけ計画していたということだろう...... もしかしたら王と王妃も......」


 ガルバインさまは複雑な顔をしている。


「では完全に糸が切れたのですね」


「ああ、一応隣国タルタニアの動向も調べるが、今のところはなんの手がかりもない。 ん? いいかおりだな」


「ええ、今やいたパンができたようです。 おひとつどうですか?」


「ああ、頼むよ」


 ぼくはパンとおかわりのお茶をだした。


「うまいな! これは甘い!」


「バターロールです」


「トール、我が領内にも店をだしてはもらえぬか。 正直我が領内のパンは自作が多い、味も薄く取りあえず腹を満たしているだけ、民たちもいきる活力もない。 トールのパンならば皆いきる気力をもつかもしれん」


「そんな大袈裟なものではないですが、確かに食べることはいきることですね。 わかりました支店を出します」


「ああ、頼んだぞ!」


 そうガルバインさまは喜んでパンをほうばった。


 ぼくはさっそくガルバイン領内に店舗をかまえ、製作と販売を行いはじめることにした。



「取りあえず、人の雇用と建築の指示はしたから、今度確認にいこうかな。 たださきに......」


 そう森の中をあるく。


「ここを開拓しないと......」


 王女から今回のことで報酬をもらえた。 店奥にある土地の所有と開拓の許可だ。


「畑はまあ足りてるけど、野菜の畑や果樹なんかも植えるのに使えるか...... まずはモンスターの排除か、そして魔法結界をはる」


「ここはまだいったことがない。 国から危険すぎて侵入禁止区域にされていたからな」


 アスティナさんが楽しそうにいう。


 パンを食べに来たアスティナさんに話をすると、どうしても一緒にいきたいといった。 危険だからと断ったが、強引についてきていた。


「危ないですよ。 かなり黒いモンスターもいます」


「やはり深域か......」


「アスティナさんはなぜモンスターを調べてるんですか、やはり......」


「いや、おやじみたいに夢のようなことを考えている訳じゃない。 私はモンスターにただ興味があるだけだ」


 そう淡々と答えて先に歩いていった。


(そんなはずはない...... 一年半しか一緒じゃなかったこむぎのこともぼくは忘れられないのに、子供のときから一緒だったルナークのことを気にしないわけがない)


 そう思いながらも口にださず、ぼくは後をついていく。


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