第34話

 遺跡内部にはいる。 石でつくられたその遺跡内部は大きな円柱の柱がたちならび、荘厳な雰囲気を醸し出していた。


「放置されていた割にはきれいですね。 古代技術、前の遺跡と同じだ」


「今はなくなってしまったけどね......」


「それは戦争でですか?」


「ああ、数百年まえに大陸全土を巻き込む戦争があったらしい。 その時、世界各地に深域ができたという......」


 ガルバインさまは周囲を慎重に確認しながらいった。


「戦争の理由は?」


「一応【魔導帝国】という世界を脅かす独裁国家を倒すために、他の国が連合して戦ったというけど、本当のところはわからないわ。 細かな記述が残ってないから......」


「ああ、歴史は勝者が書き記すからな。 帝国が本当に世界を支配しようとしていた証拠もない。 戦争の規模が大きすぎて、かなりの国が滅んで記述もほとんどない」


 二人はそういった。


「最近こそ大きな戦争はないけど、隣国タルタニアは小国を事実上支配している」


 そういって王女はガルバインさまをみた。


「......疑われているようですね」


「当然でしょ。 あなたは貴族派の筆頭、私の政策に反対している。 敵対する隣国と通じてても不思議はないわ」


「確かに...... ですが当然でしょう。 あなたの父上であった王も、あなたも貴族の力をそぐために、税をあげ締め上げているのだから」


「仕方ないでしょう。 貴族たちは腐敗し、商人や自らの親族を登用してそれぞれの土地を牛耳っている。 それを否定するつもり」


 そうガルバインさまを王女がにらんでいったた。


「......いいえ、あなたのおっしゃるとおり。 しかしあなたのなすべきことは、まず貴族の仲間を作り、少しずつ改革することが必要だった。 性急にしすぎたため孤立し貴族の反発をうけた」 


「ぐっ、そうしないと民たちが苦しむからでしょう!!」


「しかしながら貴族の税を重くしたことで、結局は民が困ることになってしまった。 貴族たちは民のことを考えず、重税をとる、そのことはご存じのはず」


「それは......」


 王女はくちごもる。


「いえ、確かに性急すぎたわ...... わかってる。 でも信頼できる貴族をそうそう見つけられなかったもの」


「わかりますよ。 王女は王、王妃ともに各地を遊説中に殺害されたのです。 その可能性が高い貴族を信じられないのは当然でしょうね」


(そうだったのか...... それで王女は貴族たちを信用していないのか)


「......ではガルバイン、私はこれからなにをなすべきか教えてちょうだい」


 深いため息をして、王女は切り替えたようにそう聞いた。


「そうですね。 私がしりえる民へと寄り添っている貴族たちを、仲間に引き入れてください。 もちろん調べてくださればいい...... そのあと、不正に手を染めるものたちを粛々と減らしていけばいい」


(ガルバインさまは、王家と貴族たちの仲介をするために、貴族側の先頭に立っていたのか......)


「......いいわ。 そのリストをちょうだい。 こちらでも調べてみるから」


「はい」


 王女もそのことに気づいたようだった。


(どうやら、ミネルバさんを正気に戻せば戦争は防げそうだな)


「きます...... 奥から三体」


 ぼくたちは構えた。



「ふぅ、なんとか進めましたね。 少し休憩しましょう」


「ええ、トールの警戒とガルバインの剣のおかげね」


「王女の魔法の補助も助かります」


 二人はそういってる。 


(仲良くなってよかった......)


「ああ、ぼくパンをもってきてまして」


 背中にしょった鞄からバスケットをとりだす。 


「みたことないパンね」


「チーズやハムを挟んでいるのか。 固いとかみきれないが......」


「まあ、食べてごらんなさい」


 アシュテア王女がすすめる。


「なっ! なんだこの柔らかさ! うまい! 信じられん......」


「一応パン屋なんです。 それは軽食用のサンドイッチです」


 食パンでつくったサンドイッチを振る舞った。


「どう。 すごいでしょ」


 なぜか王女が胸を張った。


「すごい。 そういえばすごいパンをうる店があるとは聞いていた。そういえばトールはパンを調べていると、嘘ではなかったのか」


「ええ、パン屋をしています。 王女からの依頼で調べものをしていたんです。 戦争になればパン屋どころではなくなりますから」


「なるほど、確かにな...... うまいな。 しかもこっちは果実が入ってるな!」


 ガルバインさまは感嘆しながらサンドイッチをほうばっている。 王女も嬉しそうに食べていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る