第31話

「ずいぶんお店も大きくなったわね」


 アシュテア王女とリディオラさんが店にやってきた。 興味深そうに辺りを見ている。


(こむぎと住むために増築したから......)


「ええ...... みんなで頑張ってきたので」


「君には感謝してるわ。 店の従業員として仕事のないものに、雇用先を提供してくれたものね。 流通、小売り、このパン屋がこの国に与えてくれたものは大きいわ」


「それはどうも。 それで今日はここになにをされにきたのですか」


「......そうね。 お願いがあってきたの」


「お願い...... 正直いまは少しお断りさせてください」


「わかってる...... こむぎのことは少なからず、リディオラも私もショックだもの。 ただこの国に危機が迫っている。 私は民を守らないといけない、君に力を借りたいの」


 とても真剣な顔でこちらをみた。


「国に危機...... 一体なにが」


「ええ、どうやら、ガルバインが反乱をおこそうとしていると話があるの」


「ガルバイン..... やはりバルデスと繋がってたのは......」


「いまとなってはわからないわ。 ただ兵を訓練して武具を購入している。 隣国タルタニアとも繋がっているようなの」


「タルタニア、隣国ですか...... 確かに軍事的な国だとは聞いてますが」


「むかしから我が国と対立している大国よ」


「かつて何度も進攻してきたこの大陸最大の国。 王女が腐敗した貴族を一掃できなかったのは、彼らが向こうに流れる可能性があったからです。 正当な理由がないと反抗する理由をあたえますから」


 リディオラさんがそう補足してくれる。


「なるほど、それで貴族の力を削げなかったんですね」


「......ええ、正直内乱で国力が疲弊すると、タルタニアはためらわず攻めてきかねない」


「それでぼくにどうしろと」


「もし戦争になれば先制が有効。 ただ確実に彼らが内乱を起こそうとしてるかはわからないの......」


「それを調べろと......」


「正直、私が動かせる人材うちに、君ほど諜報に向いているものはいない」


(確かに、身体能力、分身、多い魔力量で魔鉱石を使っての魔力、姿を消しての探索は魔力が多いぼくに向いている...... しかし)


「お願い。 この国を救って」


 そう王女とリディオラさんは頭を下げた。


「......わかりました。 この国にはよくしてもらいましたし、国も町の人たちも従業員も守りたいですから」


「ありがとう!」


「それで、どうしらべますか」


「そうね。 城に忍び込んで、書状を手に入れてほしい。 もし実際に内通があれば、必ずその旨の書状があるはず。 それを理由にこちらの貴族たちを動せるはず......」


「わかりました」



「城まではなんなくこれたな」


 ぼくはガルバインの城へと潜入していた。


(魔力も姿を消す魔鉱石も、魔力がかなり上がってるから長時間使えるな。 ただ魔法珠で見破られるから、油断は禁物だ)


 更に城の上部に潜入し、魔力感知で中を調べる。 大勢の人たちが移動している。


「書状はどこだ...... 魔法により封印が施されてるから、強い魔力を放ってるって王女はいっていたから、感知に引っ掛かるはず......」


 地下からいくつもの魔力反応がする。


(これは多い、宝物かなにかか...... ここじゃないな。 ん?)


 上部、中央の部屋から強い魔力をかんじた。


「これか...... ここから近い、人も少ない...... よしいくか」


 ベランダからあいてる窓の隙間から、スルッとはいった。


(体が柔らくて簡単に入り込めるな、さすがネコ)


 部屋にはいると素早く部屋をでて、足音もたてずに目的の部屋までむかった。


 そこは書斎のようだった。


「ここは、王か大臣の書斎か...... ここにあるはず......」


 感知して下に人かいないことを確認すると、窓を少し空けてから、机の引き出しをあける。


「あれ...... 書類じゃない、ペンダントロケット?」


 ロケットを開けるとそこには古い小さな肖像画がある。 貴族の夫婦と青年と少女が描かれていた。


(この人!? それにこの絵の女の子って、まさかな...... でも瞳も青い、にている気がする)


 その瞬間、毛が逆立った。 横に飛ぶ。


「何者だ......」 


 そういわれて驚いた。


「!?」


 驚いたのは魔力感知できなかったことよりも、そこにいたのが前にこの町で助けてくれた人だったことだ。


(なぜ、この人がやっぱり、ただ今は......)


「名乗るつもりはないか」


 懐から赤い魔鉱石を出した。 それは赤く輝く。


「お前はあのときのケットシー...... なぜお前が」


 そう言われて手をみるとみえている。


(なっ!? 透明化がとけてる! 魔法珠か! いやいまは)


「あなたは何者なんですか」


「俺の名前はガルバインという」


「ガルバイン!? じゃあ、あなたがあの青い瞳の女の子を使ったのか」


「青い瞳だと!! どこであった」


 狼狽するようにガルバインはいった。


「ガルバインさま。 魔鉱石を使うとは何事です」


 そう部屋へと老人がはいってきた。 後に複数の兵がいる。


「これはケットシー...... 衛兵とらえよ」 


「まて、ダレス、このものにはまだ話がある!」


(まずい!)


 ぼくは半分開けた窓からするりとぬけ、塀を飛び越え、枝に飛びうつり町を走り抜けた。


 後から追ってくる声がする。


(あの人...... いやいまは)


 なんとか町の外へと逃げた。

 

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