第28話

 北の森の中にある白く朝もやがかかるこの湖は、ただただ水面を静かにたたえていた。 


「ここは【レベクレイク】、ここらじゃ一番大きな湖ですよね。 ここにモンスターが...... 確かに黒い魔力を感じる。 さっきの話と関係があるんですか?」


「ああ、ここも昔戦場になったんだ」


 静かな湖畔を歩きながらアスティナさんはそういった。


「そうなんですね。 こんなきれいなところなのに...... ということはここに、イビルモンスターがでる......」


 その時、湖の底のほうから、大きな黒い魔力が上がってくるのを感じた。


「きます! 湖の底から近づいてきます! 大きい!」


「きたか......」


 水面に泡がたくさんはじけると、黒い巨影が一瞬みえるとともに水面が見上げるほどにもりあがる。


 現れたそれは青い首長竜のような姿のモンスターだった。


「クォォォオ!!」

 

 咆哮のようになくとこちらに首をもたげた。


 ぼくは魔晶剣を抜き構える。


「グルルル......」


 モンスターは牙を向けて威嚇はしているが、だが一向に襲ってくる気配はない。


「どうして襲ってこないんだ...... どうみても黒い魔力をもっているのに」


「そうだな......」


 アスティナさんが、もがくように首をふるモンスターを悲しげにみてつぶやく。


「アスティナさん」


「こいつは【ミスティックサーペント】だ。 元々はホーリーモンスターだった。 それがイビルモンスターになってしまった姿......」


 そうかなしげにモンスターを見上げている。


「どういうことですか」


「......このモンスター、ルナークは元々私の母が育てていたんだ」


「えっ!?」

 

「この湖のほとりで弱ってるのを保護した。 あたしはこのルナークと共に育った」


 そうもがくルナークをみてアスティナさんはいった。


「だが、数年前何者かが母を殺した。 その姿を見たルナークは悲しみのあまり破壊の魔力に染まり、イビルモンスターになってしまった......」


「それじゃ攻撃してこないのは」


「まだあたしのことを覚えているんだろう...... 破壊衝動を抑えながら抗っているイビルモンスターになってまでな。 とても苦しいはずなのにな......」


 そういって背をむけ湖からはなれた。 ぼくもついてはなれた。 ルナークは暴れながらも湖の中へと消えていった。


「......人間に近づき過ぎたモンスターはとても繊細で傷つきやすくなる。 心があるし人との関係があるからな。 そして望まないのにイビルモンスターへと変わるかもしれない」


「こむぎも......」


「ああ、あのこが一人で生きられるようにしておいた方がいい。 おまえを失えば、最悪ルナークのようにイビルモンスターへとなり苦しむかも知れん」


 そう後悔したように言った。


「あのルナークをもとに戻せる方法はないんですか! イビルモンスターに変わるなら、逆にホーリーモンスターにだって......」


「そういっておやじは旅だったよ......」


 そう言葉少なにアスティナさんはいった。


(アスティナさんは、こむぎに同じようになってほしくないから、みせてくれたのか......)


 ぼくたちは黙ったまま森をでた。


「ぴぃー」


 店に帰り、甘えてすり寄るこむぎを撫でながら考える。


(こむぎが心をやんで苦しむのはいやだ...... ただ群れのモンスターだともしっているから、一人で生きていかせるのも危険だしできない。 どうすれば......)


「一人は...... そうだ!」


「ぴぃ!?」


 

「なに!! 群れを探す!?」


 次の日、アスティナさんに話をしにいった。


「ええ、群れがいればこむぎも心配しなくてもすむ。 一人だとやはり放置はできないですから」


「............」


 アスティナさんは黙ったまま考えている。 しばらくしてぼくの目をみた。


「しかし、かなり難しいぞ。 ゴールデンバードの生息圏はヒトが住めない極寒、しかもゴールデンバードはとても強く、賢い。 ながくいきるだけ知恵をまし、言語を介するものがいるという記述すらある。 自分たちの領域を守るため攻撃してくるかもしれん」


「ええ、でも、もし群れにかえせたら、こむぎのことは安心できますから」


「......わかった。 ならあたしもついていく」


「えっ!?」


「なんだいやなのか」


「いえ、別に......」


「ちょっと待ってろ!」


 そういってアスティナさんは用意を始めた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る