第27話

「なにしてるのですか?」


「ひぃ! あっ、リディオラさん」


 木に隠れているところを、後から声をかけられびっくりする。 


「なんでこんなところにいるのですか」 


「あれです」


「あれ?」


 樹木の間をトコトコとこむぎが歩いている。


「あっ、こむぎさん」


「ええ、アスティナさんから一年たったら、すこし親離れさせないといけないといわれて外につれだしたんです。 最近離れてひとりでも歩けるようになっていたんですけど」


「それを確認ですか」


「まれに小さなモンスターが現れることもあるので......」


 こむぎは歩きながら、周囲をキョロキョロと見回していた。 そして木から木の実などを取って食べている。


「あれ、食べられるのかな...... 食べてもいいのかな」

 

 つい一挙手一投足が気になる。


「本能で食べられるものはわかるのでは?」


「そうですかね。 でもお腹とか壊すかも......」


「これでは親離れの前に、子離れが必要のようですね」


 そうリディオラさんが笑った。


「そ、そうですね」

 

 ぼくはこむぎを呼び止め、店へと向かった。


(このままでいいのかな。 いいはずだ......)


 喜んで近づいてくるこむぎをみて、すこし不安になる。



「トール...... お前、本当にこむぎを親離れさせる気があるのか」


 こむぎを診察していたアスティナさんがこちらをにらむ。


「えっ、えっと」


「ぴいぴい!」


「はぁ」


 アスティナさんは、こむぎがぼくに抱きついて甘えてる姿をみてため息をついている。


「少しは距離をおかないと、二度と自然にはかえれんぞ」

 

「そ、そうですね。 でもこむぎは賢いので、このままでも......」


「ゴールデンバードは1000年はいきるんだぞ」


「それは聞いてます......」


「ずっと側にいられるならそれでも構わん。 しかしお前がいなくなったらどうするんだ。 この子はこの人間の世界をひとりで生きられるのか」


「そ、それは......」


 言葉に詰まる。 こむぎはずっとすりすりほほをよせてくる。


(確かにぼくが死んだあとこむぎはどうなるんだろう。 やっぱりひとりで生きられるようにしないといけないのかな......)


「やはり少し離したほうがいいな。 よし...... トール明日私とともにいくぞ」


「えっ?」


「ぴぃ?」

 


 次の日、朝からアスティナさんが迎えにきた。


「さあ、いくぞ」


「で、でも......」


「ピィ!」


「こむぎはだめだ!」


 アスティナさんはついてこようとするこむぎをとめた。


「ピィ......」


 寂しそうに言われたとおり、ドアのところにいる。


「こむぎ......」


「ほらさっさといくぞ。 こむぎには必要なことだ。 こむぎもわかってるから我慢してるんだぞ」


 強引にアスティナさんに腕をとられ引っ張られる。


 

「ああ、大丈夫かなこむぎ、ないてないかな」


「あのな。 おまえの店、繁盛して店員も大勢雇ってるだろ。 一人じゃない」


「ええ」


 そう小麦パンが売れに売れて引き合いがあり、ぼくは畑や店を拡張して店員も雇っていた。 今や他国からも買いにこられるほど【ケットシーのふわふわパン屋さん】として有名になっている。


(まあ、店員さんたちもいるし、大丈夫か。 いや、むしろぼくのほうが不安だ......)


「それでどこにいくんです?」


「ああ、おまえにみせたいものがある。 トール、モンスターにも二種類あるのはしってるよな」


「ええ、人や生き物をただおそう【イビルモンスター】、こむぎのようにおとなしい理性のある【ホーリーモンスター】でしたよね」


「そうだ。 その違いは構成する魔力の質にある。 魔力は破壊と創造の二つの力をもつ」


「それは王女から聞きました。 その破壊と創造の力で魔法が発動するとも」


「そうだ。 その魔法を操るのがモンスター、それが普通の生物との違い。 破壊的な力の比重が多いものがイビルモンスターとなり、創造的な力の比重が多いものがホーリーモンスターとなる」


「なるほど」


「そうだな。 おまえは魔力をみえるらしいな。 どうみえる」

 

 そうこちらをみて聞く。 思い出してみる。


「えっと、色とか濃さとかですか。 襲ってくるモンスターはいやな黒で、こむぎとかは隠さないと白い感じです」


「そう。 それが破壊と創造の魔力の差だ...... そしてそれは後天的に変化する」


「えっ、変化ってことはこむぎもイビルモンスターになるかもってことですか!」


 ぼくは驚いて声がでた。


「ああ、ホーリーモンスターも心をやむと破壊的な魔力が感染症のように拡がって、イビルモンスターにかえちまうはずさ」


「そんな話、はじめて聞いた! 本当ですか」


「まだ仮説の段階だが...... だからこむぎがおまえを失い心をやんでしまったら、最悪そういうことあり得るって話だ」


「ど、ど、どうしたらいいんですか」


「心を強くするしかないのさ。 ただ本人がそうでも、周囲からの悪意や魔力などでも悪化するとおもう。 だから戦争などがあったところには深域が発生してイビルモンスターが生まれる」


「それでアスティナさんの森はあんな風に深域に......」


「たぶんな......」


 ぼくたちは湖にたどり着いた。

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