第26話

「やっとこられたわ」


 アシュテア王女がこむぎにだきつき、羽毛をなでなでしながら、そうつかれたようにいった。


「どうされたんです?」  


「どうしたもこうしたもないでしょ。 こむぎが病気だって聞いて、心配してたんだから」


「大丈夫と私が説明したでしょう?」


 リディオラさんがいう。


「それでもよ! 公務が忙しすぎて休むひまが全くないわ。 モンスターの増大は広がってるし、あのこはずっと無言だし!」


「あのこ?」


「バルデスと一緒にいた......」


 リディオラさんに言われて思い出した。


「ああ、あの青い目の女の子」


「洗脳の魔法です。 彼女を支配するために使われているのでしょう。 おそらく離れて魔力が届かなくなって反応がなくなったのかと......」


 リディオラさんがそう考え込む。


「そんなひどい!」


「......だから魔法をとく方法をさぐるしかない。 でもかなり難しいわ」


 王女もあきらめたようにいった。


 ぼくはお茶とパンを王女にだした。

 

「なにこれ!? 柔らかいし甘い! こんなの食べたことないわ!」


「いま、販売しているパンです」


「こんなものをつくるなんて、ケットシーだからかしら、ケットシーのパン屋、そんな童話を昔、読んだことがあるけど......」


 不思議そうに王女はこちらを見ている。


「違います。 トールどのは試行錯誤して作り上げたのですよ」


 リディオラさんがそういってくれた。


(まあ、試行錯誤したのは昔の人だけど......)


「これお城に納めてくれない!」


「でも、今まで城に納めていた人が困りますよ。 品種改良した小麦の種を差し上げますから、それで畑をつくってみてください」


「わかったわ! ありがとう。 ああ、そういえばリディオラ」


「あっ、あれですね」


 そうリディオラさんが鞄から短剣を取り出した。 それは海で拾った短剣だった。


「ああ、それ......」


「これはね」


 王女がうけとった短剣を抜くと、その短剣に刃はついていなかって。


「刃がないですね...... 古いから錆びて折れたんですかね?」


「いいえ、こう魔力をこめると......」


 そう短剣からレーザーのように光がでてきた。


「えっ?」


 それが自在に動いている。


「これは魔力を自在に物理出力できる【魔晶剣】よ。 古代の魔法技術ね」


 そういうとぼくに魔晶剣をわたしてくれた。


「もっておきなさい。 あなたが見つけたからあなたのものよ」


「あ、ありがとうございます。 あの、サリエさんと子供たちはまだ城なんですよね」


「ええ、でも君の話なら、奴らはサリエをつかう必要はもうないみたいだから、新しく教会をたてて、そこに移そうとおもってるわ」


「そうですか。 じゃあ今のところ、なにも進展はないんですね」


「いえ......」


 リディオラさんがうつむく。


「バルデスは死んだわ」


「えっ!? それって......」


「殺されたかはわからない。 一応病死ということになってるしね」


「そうですか...... では謎の貴族をおう糸は完全に切れましたね」


「ただ、君が探ってくれたガルバイン領を監視しているから、おかしなことがあるなら、見つけられるわ」


 そのとき玄関のドアがノックされた。


「はい! 王女、よろしいですか」


「ええ」


 ドアを開けると、アスティナさんがいた。


「よお、どうだ。 こむぎの様子」


「ええ、元気ですよ。 なかへどうぞ」


 アスティナさんは中にはいった。 


「あなたがアスティナね」


「王女さま!?」


 すぐにアスティナは頭を下げた。


「いいわ。 楽にして。 いまは公務ではなくただの休暇よ。 仕事をしてちょうだい」


「そうですか、では失礼します」


 そういうとアスティナさんは、こむぎの羽やくちばし、口のなか等を確認している。


「マフトレインは?」


「おやじ...... いえ父はモンスター調査にでています」

 

 アスティナさんが丁寧に答えている姿が新鮮だった。


「なんだ......」


「い、いえ、別に、それでどうですか、こむぎの様子」


 アスティナさんにじろりとにらまれて、しどろもどろになる。


「ああ、特に問題はない健康だ。 順調に大きくなっているよ」


「おおきく? そうかな」


「ええ、大きくなってるわよ。 君は毎日みてるから気づかないのね」


 そう王女がいった。


(そうか、成長してるのか)


 そう感慨にひたっていると、王女がにやにやしている。


「どうしました?」


「さてと、そろそろあれをしてもらわないと」


「えっ? あれ?」


「ほら、約束したわよね。 マフトレインの場所を教えたらって」


 そういうと、手をリディオラさんにむけた。 リディオラさんは申し訳なさそうに、鞄からあの枕カバーをだした。


(い、い、いった! 教えてくれたら枕になるっていってしまってた!!)


 こうしてぼくは服を脱ぎ枕カバーをきてこむぎの上に寝転んだ。


「むふー これよ、これこれ! もふもふね!」


 そうぼくを枕にしながらもふりだす。


「王女! あたしもいいですか!」


「ええアスティナ、さあリディオラもきなさい」


「......すみませんトールどの」


 三人はぼくを枕にした。



「ふう、堪能したわ。 これで公務にも力がはいるってもんよ」


「ですね!! この柔らかさはパンのようでした」


「は、はい、よかったです」


 王女たちは満足げにそういった。


「は、はい。 それはよかったです......」


 あまりの恥ずかしさに隠れたい気持ちで服を着て答えた。


「ピィ?」


 それから半年の月日がたった。

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