第25話
「ふぅ......」
「どうですか......」
店にすぐもどり、こむぎをアスティナさんにみてもらっていた。
「そのすりつぶした薬草をパンに混ぜてくれ」
ぼくはいわれたとおり、すりつぶした薬草をパンの中にいれた。
「こっちにきてこの子にパンを食べさせて」
そういわれて、こむぎによりそい、パンをちぎって口にもっていく。
「ピィ!」
そっぽを向かれた。 この薬草はかなり独特の強い匂いがある。 それをいやがってるのだろう。
「食べません......」
「いいから、たべさせな」
「ほらっ、食べて。 お願いこむぎ」
こむぎはいやがっていたが、必死にお願いすると、こちらをみて目をつぶりパンを食べた。
「食べてくれた!」
「どうやらそのことちゃんと信頼関係はあるみたいだね」
「ありがとう! こむぎ」
「ピィ......」
こむぎに抱きつくと、こむぎも抱きついてきた。
「これでなおりますか!」
ぼくはアスティナさんに聞いた。
「それはあんた次第だね」
「どういうことですか...... 薬は飲ませましたけど」
「その薬草は、不安を抑える薬なんだ」
「不安......」
「あんた、この子をほっといたろ。 本来ゴールデンバードは一年は母親と暮らすんだ。 この子はみたとこ生まれて半年もたってない」
そうアスティナさんがいいながら、薬がきいたのか、うとうとしているこむぎをなでた。
「えっ? じゃあ」
「そう、不安から不調をきたしたんだ」
「ごっそり抜けた毛は?」
「それは不安で抜けたんだろう」
「そ、そうだったのか...... でも今までは分身をおいておくと、あばれなかったんだけど......」
「分身だとうっすらと見抜いていたんだろう。 賢いモンスターだからな。 それでも無理して我慢していたんだとおもう」
こむぎを悲しげにみてアスティナさんはいう。
(そうか、こんな大きな体だから、大丈夫だとおもっていたけど、まだ赤ちゃんだもんな...... この世界に来て一人だったぼくのそばにずっといてくれたのに...... ぼくは)
ぼくの分身を抱き締めて眠るこむぎに謝りたくなった。
「なんでこの子がここにいるかわからないのか......」
「え、ええ......」
「本来なら南のほうにいるモンスターだし、一人じゃこれないんだが...... まあいい、あんたが原因を理解したのなら、あたしは帰るよ」
そういってアスティナさんは帰っていった。 その日、ぼくはこむぎに寄り添ってずっとそばにいた。
「そうだったのですか...... 確かにこむぎさんはヒナですからね。 不安になるのも当然。 トールどのにお願いをして我が国のために動いた結果で、このようなことになったのは申し訳ないです」
リディオラさんがあやまった。 心配になった王女が見に越させたという。
「いいんです」
「ぴぃ」
ぼくはこむぎの上にうずもれ、窓の外をみながらいった。 帰ってきたあの日からずっとこうしている。
「そもそも、勝手に生き物をかっておいて、生態も調べないぼくがいけなかった。 最初にアスティナさんに会いに行っていれば、こんなことにもならなかったんですから」
心からそう思った。
「アスティナ...... ああ、マフトレインどのの娘さんですね。 それでこれからどうなさるのですか」
「すこしこむぎのそばにいようと思います...... 町には商人ギルドを通じて、人を雇ってパンを届けていますから」
「それで、私にギルドに......」
ぼくは畑を分身で管理して、パンを焼くのを自分ですることで、できるだけこむぎのそばにいることにした。
「なるほど、それがいいかもしれません。 このところずっと動き回っていましたし......」
そういってリディオラさんも、ゆっくりとこむぎに抱きついた。
「ピ?」
こむぎは日に日に元気になっていった。 やはり一緒にいることで不安がなくなったのだろう。
「ああ、元気になったな。 羽の色つやもいい」
アスティナさんがみにきてくれた。
「ピィピィ!」
こむぎはパタパタと答えるように翼をふる。
「ありがとうございます! お代は......」
「代金はいい。 あたしも気になってたからな。 それよりこの間は気にしてなかったが、この部屋いいにおいがするな」
アスティナさんは鼻をひくひくしている。
「あっ、ぼくの作ったパンです。 どうぞ今自分達用のが焼けたところです」
釜からだすと湯気がでている。 熱いパンを机にだす。 パンのいいかおりが部屋中に伝わった。
「はむっ、むっ! これは! 柔らかい! うまい!」
アスティナさんはパンをむさぼるように食べている。 こむぎにもあげた。
「むぐっ......」
「あっ! お茶を......」
「ふぅ、うまいな! こんなパンはじめて食べたぞ!」
そうアスティナさんは興奮気味に誉めてくれた。
「ありがとうございます!」
そう、この小麦パンはやはりかなりの売れ行きで、一日100個が飛ぶように売れた。 まだ希望があるため増やしたいが、今はこむぎのそばでいたいため販売数をセーブしている。
「じゃあ、あたしはいくよ」
「はい!」
お土産にパンを渡すと、アスティナさんはウキウキ顔でかえっていった。
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