第21話
「とりあえず試作分をこねて発酵させ焼いたけど...... もうすぐだ」
脱穀しふるいをかけ残した種子で、試しにパンをつくってみていた。
「すごくワクワクしますね」
そうリディオラさんは嬉しそうにいった。
「はい、できました!」
窯を開けると、小麦のいい香りが部屋に漂う。
「ピィィ!」
こむぎも嬉しそうだ。
窯からパンを取り出す。
「うん、何か固そうだな」
少し想像と違う感じに焼けている。
「そうですか? 城でだされるものと同じですが」
「そうなのかな? まあ食べてみましょう」
パンを分けてこむぎにあげながら、自分も食べてみる。
こむぎは美味しそうにパクパクと食べている。
「うん、ライ麦よりは柔らかいが、やっぱり固いし少しにおう。 脱穀したのに、殻でも入ったのかな」
「おいしいじゃないですか! 十分です!」
リディオラさんはそういうが、満足いくものではなかった。
(なぜだろう。 水を含ませてこねたら、大麦、ライ麦より粘度はあった。 グルテンが多く含まれてるから、なのにそんなに膨らまないし固いな......)
種子をみて、ぼくはあることに気づいた。
(そうか! 品種か! ぼくが前に食べていたのは品種改良されたものだ! この世界ではまだされてないんだ! だから皮が固いし、色も濃いのか)
「だったら品種改良するしかないな」
それから分けておいた種子用の小麦を塩水に浸けてみる。
「確か...... 沈むものがより中身がつまってるはず」
浮いてきたものはすて、沈んだなかから選び出す。
「より白いもの、皮がうすいものを選別して、植えてみよう。 ただ小麦の二期作はあまり聞いたことがない。 一年近く栽培するんだから無理かな」
「いえ、一応城ではやっています」
「そうなんですか!?」
「ええ、ですが畑に栄養素が足りなくなるので、そのための魔法を使っていますが......」
リディオラさんが思い出したようにいった。
「栄養素の魔法ですか」
「ええ、魔法は土魔法で王室の専門農家以外では王女が使えます...... ちょっ! 服を脱がれてどうされたんですか!」
「えっ? その魔法をもらうために、枕になる準備を......」
「諦めるのはまだ早いです! 私が王女から条件を引き出しましょう」
リディオラさんが城へといってくれた。
「......というわけで、やはり枕になるか、モンスターの討伐を命じられました。 どうなさいますか」
「うーん、枕かモンスターか」
(枕になる恥ずかしさなら、死ぬよりましか)
「まく......」
「報奨金もでますが」
「えっ!? それならモンスター討伐で! 作りたいものがあるんです!」
「わかりました。 モンスターは港町サンセスタらしいです。 すぐにいきましょう」
「はい!」
「潮風のにおい...... 海だ」
ぼくたちは三日後、サンセスタの町にきた。 海に面したそこは交易と漁が主産業の町だ。
「うわぁ、魚がある」
店には新鮮な魚がところせましと並べられている。 ただ気にかかるのはすこし小さいようにみえる。
「ええ、ここは漁が盛んです。 少しあそこの食堂で食べましょう」
「はい!」
ぼくたちは食堂で塩で焼き魚を食べる。
「おいしい!!」
久しぶりだ。 本当は刺身が食べたいが、食べる風習がなさそうなので焼いてもらった。
(醤油がないのがざんねん...... 醤油って大豆から発酵させてつくるよな。 試してみようか、でもおいしい!! ねこだからかな。 前よりおいしく感じる。 パンとなんとか組み合わせられないかな。 サバサンドとかあるし)
「ふふっ、美味しそうに食べますね」
「ええ、なかなか魚は食べられませんから」
「ええ、日持ちがしないので、やはり干物になってしまいます。
それよりこむぎさんのほうは......」
「ええ、なんとか範囲内です」
「すごいですね。 ここから魔力が届くなんて」
「毎日のように魔力や魔法を使ってますから、かなり量は使えます。 ただ城のかたをお借りしてもよかったのですか」
ぼくはお客さんのため、店を預けてきた。
「ええ、王女が城の従者を何人か連れていくようにとのことでした。 どうやらここはかなり切迫しているようですね」
「それで何がおこっているんですか?」
「......魚、小さいでしょう」
「確かに大型のものはいませんね」
「今、沖に船をだせないらしいのです」
「モンスターがいるから?」
「ええ、船をおそうモンスターがでて、他国との交易も滞っている。 さすがに騎士団も派遣されましたが、水中ゆえにうまく行かない状況です」
「でもぼくも水中は......」
「やはりケットシーだから」
「いえ、ネコだからではなく。 泳ぎは得意ではないんです」
「それならば、問題ないです。 王女から空気を操る魔鉱石をお借りしています」
「それを騎士団に使わせないのですか?」
「ええ、王女の要請を断られたのです。 王女から助力をうけると体面が保てませんから」
「いや、そんなこと言ってる場合じゃないのに」
「そうです。 それが我が国の現状、民のためてはなく。 私欲のためです」
そうリディオラさんは眉をひそめる。
「なら、余計に我々だけで解決しましょう」
ぼくたちはうなづくと行動を開始した。
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