第20話

「や、やっと帰ったわね」


 髪の毛がボサボサのアシュテア王女が部屋からでてきた。


「や、やはりそうなりましたか......」


 部屋をみるとボロボロになっていた。 そのなかにリディオラさんもボロボロでたおれている。


「ピイイィ!!」


「はぶっ!」


 泣いていたこむぎはぼくをみると飛びついてきた。 羽毛に埋まった。


「むぎゅぅ、ま、まってこむぎ、落ち着いて」


 なんとかこむぎを落ち着かせた。



「はぁ、暴れて大変だったわ。 ヒナであの力の強さ......」


 王女が侍女に髪を直してもらいながら、そうため息をついた。


「すみません。 どうしても分身が必要だったので......」


 そうぼくは二体目の分身をこの城においていたが、どうしても必要なためあそこで作った。 その結果こちらの分身が消えたらしかった。


(......まだ、三体はむりだったか}


 それはかなり前のことだった。



「というわけで君には調査に向かってもらいたいの」」


「でも、遠隔操作もみえるところじゃないと動かせないですし、こむぎが...... ぼくがいないと暴れるかもしれませんよ」


「大丈夫。 君、分身二体だしたことはある?」


「えっ? 二体!? だせるんですか?」


「ええ、話に聞いた君の魔力量なら可能だわ。 やってみて」


 言われたとおりやると、二体目をだせた。


「あっ、できた」


「ピィィィ!?」


 こむぎは三人になったぼくをみてビックリしている。


「魔力は使うほどその総量もふえていくからね」


「なるほど、仕込みから、分身から、なにから魔力をつかってたからか......」


「そういうこと、家に一体おいて、あなたともう一体で商人を調べてほしいの」


(最悪見つかっても入れ替わるかで逃げられるか......)


 その二体の分身を使って、あのフードの女の子を捕まえた。



「あの子は何者でしょうか」


「今調べさせているわ。 しかし青い目なんて...... この強さの刺客を捕縛したから、危険を覚悟で君を狙うことはまずしないでしょう」


「確かに、この強さの人はそういるとは思えません」


(あの男の人ぐらいか......)


「かなり情報は集まったからさすがに騎士団も動かせるわ。 だから店に帰ってなさい」


 そう王女からいわれて、ぼくはこむぎを荷車にのせて帰った。


「おお!  枯れたらどうしようと思ってたけど! 結構おおきくなってる!」


「ピィィ!」


 店に戻ると、畑の小麦が少し大きくなっていた。


 三日後、店にリディオラさんがきた。


「それであの女の子は何者だったんですか?」


「口を開きませんね。 何が魔法がかけられていて王女が調べています」


「そうなのか......」


「それでこれを......」


 リディオラさんが魔鉱石を手にもっていた。


「これは?」


「調査のお約束の【プラントエナジー】の魔鉱石です」


「あっ! そういえば」


(そういえば、そんな約束してた)


「これを使えば成長を早められる!」


「ええ、ただかなり魔力がいるそうで、本来は複数人で使うそうです。 でもトールさんならつかえるはず、とのこと」


 ぼくは外にでて、畑に魔鉱石を使ってみた。


 魔鉱石に魔力を流すと青く輝く。


(確かにかなり魔力がいるな)


「おお!」


 ぐんぐん成長しその穂が黄褐色になった。


「やった!」


「さすがの魔力です! すごいですね! でもやはり出来に差がありますね」


「確かに」


 中間のが穂が大きく。 前後のは穂が小さい。 


「種を埋めるときの差かな。 浅く埋めたのは大陽の光で温度が高すぎたのか。 深くいれたのは光が届かなかったってことか。 今度は中間とおなじにしよう」


(あと何か皮が厚いような気がする。 色もこいな。 この世界だからかな?)


 小麦をかりとる。


「よし! 皮をむいて一度パンを焼きましょう」


「いえ、まずは穂の乾燥が必要です。 水分を飛ばすのに二週間はかかりますよ。 温度の魔法でできなくはないですが、かなり調整がむずかしいので、おいておいたほうがいいかもしれません」


「そうなんですか。 なるほど、わかりました」


 穂を布のうえにそのまま広げて風通しのよい場所においた。


 それから二週間後。


「何か固くなりました」


「水分が減ったのでしょう。 これから脱穀ですが...... これがとても大変です」


 怖い顔でリディオラさんがいう。


「えっ? そうなんですか」


「むかしある国では脱穀を刑罰にしたそうです」


「そ、そんなに脱穀機とかないんですか」


「そういうものはありません。 脱穀するには、これです」


 リディオラさんがもっていたのは、木の棒の先に短い木の棒のついたヌンチャクみたいなものだった。


「これ? 武器ですか?」


「いえちがいます。 これをこう」


 大きな布のうえに並べた穂を、その木の棒を回転させ叩いた。 穂から種子がはねた。


「ま、まさか、これを」


「はい、これを使って穂から種を取ります」


(これは大変だ。 確かに小麦が高いわけだ......)


 ぼくとリディオラさんは木の棒を使い叩いて種を飛ばす。


「ふひぃ、つかれた」


「は、はい、つかれました。 休憩しましょう」


 ぼくとリディオラさんはへたりこむ。 それを分身のぼくをだいたこむぎが不思議そうにみていた。


 それから分身もつかいなんとか全ての穂を脱穀した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る