第17話

 それからぼくはバルデスに張り付いた。


「やはり動かないな。 屋敷から全くでない」


 木の上から屋敷を魔力で探知する。


(他の者に貴族との連絡をとらせているんだろうか...... もっと近づいて中の様子を探るか、でも......)


 ぼくは昨日王女と話したことをおもいだしていた。


「なぜ、バルデスはサリエさんに直接、会ったんでしょう。 怪しまれるから人を使いにだせばいいのでは」 


「そうね...... バルデスは薬を受け取ってどうしてた?」


「えっ? そういえば、なにか赤い小さな玉をのぞいてたような」


「それね。 ほら」


 アシュテア王女は首飾りをみせた。 その中央には透き通った赤い玉がある。 バルデスがもってたやつに似ている。


「これは【魔力珠】、魔力量をはかれる珠で、大きな魔鉱石を加工してつくる古代の技術でつくられたものなの」


「あれは魔力をはかっていたのか」


「それで薬の真贋を見極めてたのね。 これは希少で高額だから人に渡したりしなかったんだわ。 人を信用してないってことね」


(それでもってこさせなかったのか......)


「これは魔力をみることができるから、私の【透明化】の魔法を使って姿を消しても見抜かれるわ」


(そう王女はいっていた。 あまり近づくとばれるか。 ぼくの探知範囲のひろさで、遠距離から動くまで監視するしかないな)


 そう思い屋敷をつぶさに魔力で監視する。



(作ったパンが石みたいだ...... 硬い)


 五日たってもバルデスに動きはない。 どうやら手下を使ってぼくを探しているのようだ。 あとはメイドたちが外に出ると追いかけてみたが、買い物ぐらいだった。


(誰とも接触してない。 手紙や通信などもしていない...... 警戒して接触してないのか)


「やはり近付くしかないか...... 王女は視界に入るぐらいまで魔力を感知できるといってた。 その範囲外近くまでちかづこう」


(ぼくの聴力なら内容を聞き取れるはず......)


 夜になると木から降りた。 音はほとんどしない。 このケットシーの体は探索に向いている。 柔軟な体、肉球で歩く音はしない。 足跡もしっぽでけせるからだ。


 裏手から塀をのりこえ、静かに屋敷へと近付く。


「......まだ、見つからんのか」


 音たてず屋敷の屋根へと上る。 耳をつけると苛立つような声が聞こえる。


(これはバルデスの声......)


「はい、最近町でもみかけないとのこと......」


「ケットシーなら目立つはず、どこかに隠れたのか」


(ぼくのことか......)


「シスターや子供たちと城へ向かうのをみたという話がありますが......」


「......かくまわれているか。 だが私につながる証拠はないから、あの王女とて証拠もなしに捕縛はできまい。 しかし、あのケットシーは見つけ出せ、こちらを探ってるかもしれん」


「はい」


 そう指示している。 手下の男は部屋をでていった。


「このまま、どこかでこちらを調べてるかもしれん。 やはり、あの方に力をお借りするか......」


 そう呟く声がきこえる。


(あの方...... それが黒幕か)


 次の日の晩、馬車にのりバルデスは町をでる。 


「ついに動く!」


 なんとか馬車をギリギリ魔力範囲にとらえついていく。


 しばらく走り別の町へと入った。


「はあ、はあ、さすがにつかれた。 どこまでいくんだ」


 馬車が止まっている場所が視認できるところにいくと、そこには高級そうな宿屋があった。


「......よし」


 宿の屋根へと向かい静かに聞き耳を立てる。


「バルデス、なぜきた......」


 不快そうな男の声がきこえる。 


「すみません。 折り入ってご相談がありまして......」


 恐縮してバルデスがいった。


「ケットシーのことか......」


「は、はい、ご存じでしたか」


「城にシスターと子供がかくまわれている」


(城のことをしっている...... やはり貴族)


「それでケットシーはどこに?」


「城にいる」


「本当でございますか!」


「ああ、ゴールデンバードと共にいるな」


「......ならば、私の監視はしていないのか、杞憂でしたね」


「......とはいえ、あの王女のこと、何やら策があるやもしれん。 警戒はしていろ」


「はい。 それで薬の件ですが......」


「シスターは有用だったが、ここまでの薬から効果をあげる薬をつくれるようになった。 もはやあやつは不要」


「本当にございますか! ならば......」


「お前は今までどおり金を集めよ」


「はい、お心のままに」


 そう話が終わると、部屋からバルデスがでていったようだ。


「よろしいのですか......」


「......まだ、使える」


 そう二人で話しているようだ。


(バルデス以外に誰かいるおかしい...... 魔力が一つしか探知できない...... あの刺客みたいに魔鉱石を使っているのか。 残り二人がだれなのか知りたい。 でも姿と魔力を消してるなら見えないな。 姿を現すまで追うしかない)


 足音を慎重に聞いて動きを探る。


 どうやら裏口からでていくようだ。 白いローブを纒った人物が馬車へとのる。


(足跡からやはり二人いる...... 一人は姿を隠している。 みられたら困るのか)


 ぼくは走っていく馬車をつけた。 


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