第14話

「三日目か......」


 ぼくは王女に言われた大きな屋敷の裏の林にいた。 まだ夕方で明るい。


「あっ、でてきた」


 小柄で太っている人物が屋敷からでてきた。 かれは貴族や王族とも取引のあるバルデスというかなりの大商人だった。


(あれが例の商人か...... 見た目、人当たりの良さそうな人だけど)


 バルデスは馬車にのり、ぼくは追跡を開始する。


 馬車の後を気づかれないように、魔力を探知しながらおいかける。 


「どこにいくんだろう...... まあ誰とあってるか調べればいいだけだ」


 町からしばらく馬車を走らせると、小さな町へとはいった。


「ここって...... レクアの町だっけ、なんでこんなところに」


 レクアの町は特に目立った産業もない、貧しい町だった。


 馬車は更に進むと奥にある小さな教会にとまった。 先にのっていた男二人とともにバルデスは馬車を降りた。


「教会...... あのそばの男たち普通じゃない。 魔力も高い、護衛か」


 古びて壁にヒビが入っている教会に近づいて窓から覗く。


「これはバルデスさま」


 そこで若いシスターらしきひとがバルデスをむかえている。


「ああ、それでシスターサリエ、用意は......」


「......はい、ここに」


 そういうとシスターはためらいながらも、女神像のうしろから、瓶を取り出した。


「これです」


「ふむ」


 バルデスはその瓶を受けとると、懐から赤い玉をだし瓶にかざした。


「うむ、確かに...... さらに効果を高められるか」


「で、ですが、これ以上高めると肉体や精神に異常をきたすかも......」


「私は高められるか、と聞いたのだ」


 その声は静かだが、とても威圧的だった。


「は、はい...... 可能です」


 そうシスターは怯えながら答えた。


「ならばすぐつくれ、おい」


 そうバルデスにいわれ後の男が袋をだした。 小さく金属が当たる音がきこえる。


(この音、お金か......)


 それを受け取り、シスターは袋をだきしめた。


「では、三日後にまたくる」


 そうバルデスがいうと、男たちともに教会からでて馬車に乗ってさった。


「追うか......」


「シスター」


 まだ幼い子供たちがシスターにかけよる。 ぼくは気になりそれをみていた。


「大丈夫、さあ、みんな町までいって夕食の買い物をしましょう。 お腹が減ったでしょう」


 少し悲しげにほほえむシスターと、子供たちは楽しそうに外へとでた。


 ぼくは一度帰り、リディオラさんにそれをつたえる。


「レクアの町の教会ですか...... わかりました。 その薬はおそらく違法の魔法薬でしょう。 王女につたえます」


「でも、あのシスターはきっと悪い人じゃないです...... あの人も罪に問われるのですか?」


「いま王国の財政はモンスターの増加とともにかなり厳しいのです。 ゆえに教会、福祉などはなかなか手が回らない状況で...... おそらくそこをバルデスにつけこまれたのでしょうね」


「無責任なようですが、なんとかなりませんか」


 そうつい頼んでしまった。


「そうですね。 なんとか王女に伝えますが、法は万人に平等、罪をおかせば罰をうけます。 それは事情があってもおなじ、おなじような境遇でも罪を犯さないものはいますから」


 リディオラさんは少しためらいながらそういった。


「......たしかに、でも...... ぼくはリディオラさんや王女に助けてもらった。 彼らは誰にも助けてもらえない。 その......」

 

 うまく言葉が出てこない。


「......ええ、とりあえず王女の裁決をまちましょう。 この後はまたバルデスを見張ってください」


「......わかりました」


 リディオラさんが帰り、ぼくは明日の仕込みを行った。


(自分はなにもできないのに、人に責任を押し付けるなんて無責任だ......)


 ぼくはひどく自分に落胆して眠りにつこうとした。


「ピィ......」


 気持ちを察してか、こむぎがそっと寄り添ってくれた。


「ありがとう、こむぎ。 なにかできないか考えてみるよ」

 

 柔らかなこむぎに抱きついて眠った。


 次の日からもバルデスに張り付く。


「店も調べてみたけど、違法魔法薬の買い手はいないようだった。 違法薬をどこに売ってるかはわからないな...... そもそもどういう薬なのかな」


(他のものをつかわず、自らが違法薬をシスターから手に入れてるってことは、店じゃなく、直接売っているのかもしれない...... やはりシスターから渡された薬を追いかけるしかないか」


(もし、ぼくがこの事件を解決したら、シスターたちのことを王女に嘆願できるかもしれない)


 そう思い三日後に教会へとバルデスをおい向かった。



「それで薬は......」


「使った後、命に関わるかもしれません...... やはり私にはできません。 この前の薬はお渡ししますから、これでどうか」


 そう頭を下げ瓶を渡した。


「なんだと」


 バルデスの護衛がシスターにつめよる。


「......やめよ」


 そうバルデスは止めた。


「だが、言うとおりにしないと、この金は渡せない」


「そんな! 子供たちの食事代が必要なのです! 薬ならお渡ししました」


 シスターはすがるようにいった。


「その薬ではない。 次に言った薬を用意しないと、金は払わん」


 バルデス半島冷たくいい放つと、教会をでて馬車にのり去った。


「うっ......」


「シスター......」


 子供たちが心配そうにかけよる。


「ごめんなさい......」


「あ、あの」


 ぼくは教会にはいる。


「えっ? あなたは」


「あ、あのパン屋をしていまして、良ければパンはいりませんか」


 ぼくはもってきていたパンを鞄からだした。


「あ、あのお金が......」


「ああ、かまいません。 試作品なので」


「わぁ! おっきなねこさんだ!」


「けっとしーだよ」


 と子供たちがよってきた。


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